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狂犬Subは根こそぎ貪る

初めての外出

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   ◆ ◆ ◆

 翌日、俺は守流が用意してくれた服――名前はよく知らんが、上も下もダボッとした黒くて大きな生地が柔らかい服――と、前だけにつばのある帽子を身に着けて外出した。

 見た事もない家屋が立ち並び、草木はあれど覆い茂る緑の森は見当たらず、山は遙か遠くにうっすらと見える程度――どこもかしこも不自然の塊で、俺はしばらく守流の家の前で唖然となった。

「大丈夫、アグ?」

「……大、丈夫だ。少し、驚いただけだ」

「腰の尻尾がすごいことになってる……撫でたら落ち着くかな……?」

 ベルトに見せかけるよう腰に巻き付けていた俺の尻尾が、無様に逆立って動揺を見せてしまっている。それを寝かせようとした守流に触られた瞬間。

「……っ」

 俺の腰が甘くざわつき、下半身に熱が集まってしまう。
 ようやく外に出られる機会ができたのに、今すぐ守流と家に戻って抱き潰したくなる。

 本能の奴隷に成り下がりたくなくて、俺はチッと舌打ちして守流を睨みつけた。

「やめろ。人狼の急所を安易に触るな」

「ご、ごめんなさい……っ」

 慌てて守流は尻尾から手を離したが、少しその手を見つめてから俺に差し出した。

「じゃあ行きましょうか。はぐれないよう、手を繋いで行きましょう」

「はぐれはせん。俺は鼻が利く。においを嗅げば――」

「でも何があるか分からないですし……ね?」

 念を押され、俺は渋々守流の手を取る。
 小さなお願い。俺への命令。応えれば少しだけ快感が伴う。だが、理性はやはり屈辱を覚える。まるで子供扱いだ。

 不満を溜めながら歩き出せば、何もかもが馴染みのない世界で妙な心細さを覚えてしまう。

 昼間に外へ出るのは初めてだ。しかもこっちの世界に来た時は夜で辺りがよく見えなかったし、何よりDomたちに追い詰められ、Subドロップに陥っていた。

 Domに認められ、受け入れられることがSubの本能。
 それを否定し続けてきた俺は、いつもこの理不尽で厄介な苦しみと戦い続けてきた。

 傷は負っていないのに、胸の奥深くまで棘が刺さったような痛みと不快感を味わってきた。

 ――だが今は違う。
 Domに手を握られ、安堵の泡に包まれながら未知の世界を歩く。

 情けないことだ。
 たったこれだけで目頭が熱くなりそうだなんて。

「いい天気に恵まれて良かったですね、アグ」

 小柄な守流が俺を見上げながらにこやかに話しかけてくる。
 やけにその顔が眩しくて、まともに見るのが辛くなって目を晒す。

 視界の脇で守流の輝きが翳る瞬間を見てしまい、思わず俺は口を開いていた。

「……ああ、そうだな」

 愛想の欠片もない同意の言葉。
 守流の目がにこやかな弧を描いた。
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