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狂犬Subは根こそぎ貪る

脅かす存在

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 改めて自覚すると落ち着かない。あまりに穏やか過ぎて、本当にこれはあるのか? と疑いたくなってしまう。

 ここにないようであるもの。悪くはない、と思う。
 少なくともあって困るものではない。ただ、心もとなくて何かしたほうがいいような気になってくる。

 何か起きれば、呆気なく壊れて消えてしまいそうな泡みたいな儚さがある。
 人狼である俺や、元の世界のヤツらよりもか弱い守流のような――。

「……ん?」

 ふと帽子の中で俺の耳が守流の声を拾う。

 知り合いにでも会ったのだろう。
 軽い驚きと、焦りと、動揺――嬉しさ。

 俺の胸がざわつく。
 守流の心が揺れている。契約を交わして繋がり合ったせいで、鮮明に心の動きを感じてしまう。

 これは俺の平穏を壊すものだ。
 腹の底から憤りに近い焦燥が込み上げ、俺は思わず立ち上がった。

 見知らぬ場所でも守流の気配と声が聞こえる方角を辿って行けば、その姿を見つけることができた。

 透明の容器に液体が入ったものが陳列された、大きな箱の前に守流はいた。

 その近くには見慣れぬ男が守流に微笑み、声をかけている。
 身なりが清潔で品を感じさせる優男。守流の顔がはにかんでいるように見えて、俺の胸が焼け付く。

 足早に近づいていけば、俺に気づいて守流が振り向く。

 伝わってきたのは強い焦りと悲しみ。
 腹立たしかったが、敢えて俺は唇に笑みを浮かべて守流へ寄った。

「守流、そいつは誰だ?」

 声をかけながら肩を抱けば、守流の顔が耳まで赤くなる。そして俺と優男をオロオロと見交わしながら教えてくれた。

「えっと、仕事先でお世話をしているおばあちゃんのお孫さんで、須藤葉祐さん。よくおばあちゃんに会いにいらっしゃるんだ」

「ただの顔見知りか……早くあっちへ行くぞ」

 肩を強く抱いたまま守流を連れて行こうとした時、「あの……っ」と優男が声を震わせながら俺たちを呼び止める。

 振り向いて視線を合わせてやると、優男は明らかに委縮しながらも声をかけてきた。

「失礼ですが、貴方は古矢さんの――」

 言葉にするのは面倒だ。逐一本当のことを言ったところで理解はしないだろうし、コイツの理解を得ても意味がない。

 だから俺は無言で守流の唇を奪ってやった。

 見て分かれ。察しろ。
 これは俺のものだ。

 優男から息を引く音がする。守流からも同様の音が聞こえ、酷く動揺した気配が伝わってきた。

 フッ、と込み上げた笑いを表に出してから、俺は守流を連れてその場から離れる。

「……アグ……外で、あんなことは――」

「忘れるな。もう守流は俺のものだ。他を見るな」

 俺が低い小声で囁けば守流は押し黙り、俺が促すままに歩いてくれた。
 
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