ロザリンデのいつわりの薔薇 ~駆け落ち寸前に別れたあなたは侯爵家の跡取りでした~

碓氷シモン

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第一章

episode_6 子爵家のお家事情

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 それから二百年が過ぎ、当代当主のウォレス・ムーア子爵も、当然、自身に課せられた責務の重さを熟知していた。

 彼は父から爵位を継ぐのと同じくして結婚し、夫人と仲睦まじい家庭を築くことに尽力した。その甲斐あって結婚して二年足らずで、夫婦のもとに第一子が誕生した。だが女児だった。
 一刻も早く男子を、と願っていた子爵は人知れず失望したが、二人ともまだ若い。次の子供は必ず……そう気持ちを切り替え、マティルダと名付けられた長女を溺愛した。

 ウォレスが男児にこだわったのには理由があった。それは王国の民法では、爵位の継承権が男子にしか認められていなかったからである。

 当時は乳幼児の死亡率が非常に高く、特に男児はちょっとしたこと……風邪だとか、木から落ちただとか……で命を落とすことも珍しくなかった。だから名のある家の当主は、一人や二人の息子がいるからといって、とうてい安心することなどできない。また貴族の家に嫁いだ女性には、とにもかくにも男児を産むことが嫁の務めとして課せられた。

 それから三年後、ムーア子爵夫妻の願いと努力は実を結んだ。生まれて来た第二子は、子爵家の明るい未来の象徴ともいえる男児だった。夫妻、とりわけ重圧から解き放たれた夫人の喜びはひとしおであった。
 長男アルフレッドは子爵家の嫡子として、まさに真綿でくるまれるかのように大切に育てられた。

 更にそれから三年後、夫人は第三子を出産するが、女児だった。できればこの子も男児であれば万々歳だったのだが……という複雑な思いをウォレスは胸の内に潜め、姉と兄の誕生の瞬間と同じように赤子を祝福し、ロザリンデと名付けて父親としての愛を注いだ。

 そしてその直後、子爵家を悲劇が襲う。

 次期子爵としての期待と愛情を一身に受け、すくすくと成長していたはずのアルフレッドが、はしかにかかり、あっけなく世を去ってしまったのだ。僅か三年余りの、あまりにも短すぎる生涯だった。

 子爵夫妻は悲嘆に暮れた。子爵夫人の嘆きようは気も狂わんばかりだった。無理もあるまい、娘を授かった喜びと息子を喪う悲しみをほぼ同時に味わったのだから。だが、夫妻は悲しんでばかりもいられなかった。王国の法では、嫡男を亡くすことはそれすなわち家名の存続に直結するからだった。

 今、子爵家には娘しかいない。長男のアルフレッド亡き今、子爵夫妻にこのまま男子が産まれないと、やがてムーア家は断絶の憂き目に遭う。

 子爵夫妻は幼くして天に召された息子を偲ぶ間もなく、子作りに励まなければならなかった。

 その後、夫人は二人続けて男児を出産した。夫妻は再び嫡子に恵まれ、これでようやく肩の荷を下ろして心平らかに子供たちの養育に力を注げると手に手を取り合って喜びを分かち合ったが、その幸せも長くは続かなかった。運命は残酷だった。二人の男児はどちらも夭折してしまい、結局、ムーア子爵家の直系として無事に成人を迎えられたのは長女のマティルダと、六歳年下の次女ロザリンデだけだった。

 ウォレスの焦りは頂点に達しようとしていた。二百年の間、代々守ってきた子爵家の家門と、王家の霊廟の墓守という名誉ある職を、自分の代で終わらせることなど、絶対にあってはならない、と。こんなことなら外に愛人の一人や二人でも囲って子供を産ませておけばよかった、爵位を守るためといえば妻も納得してくれただろうと今になってらちもない考えを思い巡らせてはみたものの、ウォレスは妻を愛していたし、元々潔癖な性格だったので、跡継ぎを産ませるためだけに妻以外の女性を抱くということに嫌悪感を覚えて、そういうことには縁がなかったのだった。

 とはいえ、法は法だ。何か方法はないか、ウォレスは血眼ちまなこになって文献を読み漁り、嫡子となる男子がいなくても爵位を存続できる方法を、文字通り寝食を忘れて探し回った。そしてついに、たった一つだけ方法があることに辿り着いた。
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