ロザリンデのいつわりの薔薇 ~駆け落ち寸前に別れたあなたは侯爵家の跡取りでした~

碓氷シモン

文字の大きさ
9 / 27
第一章

episode_7 テオドール・ロチルド伯爵という男 その2

しおりを挟む
 とは言え、ムーア子爵家の後継者問題はまだ棚上げになったままだ。マティルダは総領娘として責任感の強い女性だったこと、また弟のアルフレッドが亡くなった時の気も狂わんばかりに嘆き悲しむ両親の姿をおぼろげに覚えていたので、周囲の反対を押し切って、あえてもう一人、子供を産むことを望んだ。絶対に男子を産んでみせる……その執念を神が聞き届けたのか、産まれたのは男児だった。その報せを受け取ったウォレスは大声を上げて泣き崩れた。

 だが、そのためにマティルダが払った代償は大きかった。元々、もう出産に耐えらえるほどの体力が残っていなかったマティルダの体調は決定的に悪化し、回復の見込みがなさそうなのは誰の目にも明らかだった。リュシアンと名付けられた息子の洗礼式が行われるのとほぼ時を同じくして、ロチルド伯爵家の侍医はテオドールに告げた。

 もう奥様との閨はお止め下さい、と。

 テオドールが義妹のロザリンデのことを、ねちっこく絡みつくような目つきで見るようになったのは、その直後からだ。そしてリュシアンが一歳の誕生日を迎えた頃、ついに彼は長年あたためてきた企てを実行に移した。伯爵家の領地経営を手伝ってもらうという名目でロザリンデを毎夜、書斎に呼び出し、ある日後ろから羽交い絞めにして、コルセットの中に手を差し込んで乳房を揉みしだきながら、耳元でこう囁いた。

 君たち姉妹の平穏な生活と、ムーア子爵家の家名を守りたいのなら、私の言う通りにしなさい。純潔は守ってやるから、結婚するまで私の慰み者になれ。君の身体は仕込み甲斐がある、と……。

 当然ロザリンデにとっては、承服しがたい話だった。だが子供達と庭で遊ぶことすらままならないほど弱ってしまった姉と、母代わりに慕ってくる甥と姪、そして故郷で爵位を守っている年老いた両親のことを思うと、テオドールの毒牙にかかることを受け入れる以外の選択肢はなかった。結婚するまで、この家を出てゆくまで、わたくしが耐えればすべて丸くおさまる、と歯を食いしばって耐えてはいたが、ほぼ毎日繰り返されるテオドールの執拗で容赦のない責めと、自らの意思に反して感じてしまうようになった身体の変化がさらにロザリンデを苦しめた。テオドールはその筋の相当な手練てだれだったらしく、一年が過ぎる頃にはロザリンデの身体は無垢な処女おとめには似つかわしくないほど敏感になっていて、昼日中でも何かのきっかけで子宮の奥がずくりと疼いてしまうことがあり、そのたびにロザリンデは教会に駆け込んで、懺悔にひとときの救いを求めた。

 やがてロザリンデは十九歳になったが、縁談は一つも来ていなかった。いや、来ていなかったのではない、実のところは国中の名門貴族から縁談の申し込みが山ほど来ていた。それをテオドールが陰で手を回してことごとく潰していたことを、ロザリンデは知るよしもなかった。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

聖娼王女の結婚

渡波みずき
恋愛
第三王女のライラは、神殿の巫女だった側室を母に持ち、異母兄弟のなかで肩身が狭い思いをしながら過ごしていた。母はすでに亡く、父王も崩御し、後ろ盾を失ったライラは、兄から勧められた縁談や姉の嫌がらせから逃げるため、神殿に足を踏み入れる。 だが、ライラが巫女になる道のりは険しい。なぜなら、見習いは、聖娼として三晩、客人の夜のお相手をしなければならないからで── 自身の思い込みの激しさに気づかない王女のすれ違い恋愛もの

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

【連載版】 極秘任務で使いたいから自白剤を作ってくれと言った近衛騎士団長が自分語りをしてくる件について

紬あおい
恋愛
侯爵家の落ちこぼれ二女リンネは、唯一の取り柄である薬の調合を活かし、皇宮の薬師部屋で下っ端として働いていた。 そんなある日、近衛騎士団長リースハルトから直々の依頼で、自白剤を作ることになった。 しかし、極秘任務の筈なのに、リースハルトは切々と自分語りを始め、おかしなことに…? タイトルが気に入っていたので、2025年8月15日に公開した短編を、中編〜長編用に全編改稿します。 こちら単独でお読みいただけます。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

親愛なるあなたに、悪意を込めて!

にゃみ3
恋愛
「悪いが、僕は君のことを愛していないんだ」 結婚式の夜、私の夫となった人。アスタリア帝国第一皇子ルイス・ド・アスタリアはそう告げた。 ルイスは皇后の直々の息子ではなく側室の息子だった。 継承争いのことから皇后から命を狙われており、十日後には戦地へと送られる。 生きて帰ってこれるかどうかも分からない。そんな男に愛されても、迷惑な話よ。 戦地へと向かった夫を想い涙を流すわけでもなく。私は皇宮暮らしを楽しませていただいていた。 ある日、使用人の一人が戦地に居る夫に手紙を出せと言ってきた。 彼に手紙を送ったところで、私を愛していない夫はきっとこの手紙を読むことは無いだろう。 そう思い、普段の不満を詰め込んだ手紙。悪意を込めて、書きだしてみた。 それがまさか、彼から手紙が返ってくるなんて⋯。

束縛婚

水無瀬雨音
恋愛
幼なじみの優しい伯爵子息、ウィルフレッドと婚約している男爵令嬢ベルティーユは、結婚を控え幸せだった。ところが社交界デビューの日、ウィルフレッドをライバル視している辺境伯のオースティンに出会う。翌日ベルティーユの屋敷を訪れたオースティンは、彼女を手に入れようと画策し……。 清白妙様、砂月美乃様の「最愛アンソロ」に参加しています。

私は愛されていなかった幼妻だとわかっていました

ララ愛
恋愛
ミリアは両親を亡くし侯爵の祖父に育てられたが祖父の紹介で伯爵のクリオに嫁ぐことになった。 ミリアにとって彼は初恋の男性で一目惚れだったがクリオには侯爵に弱みを握られての政略結婚だった。 それを知らないミリアと知っているだろうと冷めた目で見るクリオのすれ違いの結婚生活は誤解と疑惑の 始まりでしかなかった。

処理中です...