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第5章 第1節 東の塔 ~耕す~

105.陰謀があるみたいです

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大理石の様な石が敷き詰められた廊下、そこに敷かれた青い絨毯の上を、白く塗られたアーチ型の通路を派手な服装で歩く一人の中年とその後ろを歩く甲冑姿の男1人。周囲には2人以外誰も居なかった。2人は玄関横にある応接室まで行くと、ドアの前に執事が1人立って頭を下げている。

「サイラス・フォン・グルト様がお越しでございます」

そう静かに言うと、派手な服装の中年が頷く。執事はそれを見て扉を開ける。ソファーに座っていた男がすくっと立ち上がる。地肌が見えるほど頭髪は薄くなっており、肥えた体型は裕福さを表していた。着ている服も上等であろう生地に宝石が散りばめられており、歩く成金宣言をしているようであった。その顔には軽薄な、へつらうような笑顔を浮かべていた。

「・・・サイラス侯爵、私になにか話があるとか?」

部屋に入るなり、ソファーに座り鋭い視線を侯爵に送る。

「はい。折り入ってハワード公爵様にご提案がございまして」

と揉み手をしそうな勢いで自分と変わらない体型をした公爵にそう告げる。

「提案とな・・・。そなたの提案は無視できぬな・・・」

と笑顔を浮かべる。

「ありがとうございます。公爵様。実はここから南に位置するマコンの街をご存知でしょうか?」

「あぁ、たしか・・・」

ハワードは思い出すことすらも億劫なようで自身を護衛していた騎士に視線を送る。

「ハワード殿下。今はクーラと名前を変えた港町にございます。確か下賤な商人に王が譲り渡したとか」

「あぁ、不足していた白金貨を解決したとかいう、薬屋か」

公爵はくだらんことだと吐き捨てるように言った。

「えぇ。その商人でございますが、ポーションでかなり設けているらしく、イブの片田舎を治める、新興男爵のフラップ・ヘメロカリスの懐がかなり良いようでございます・・・」

「ほぉ、そなたが言うということはかなりなのだろう」

サイラスがその発言に我が意を得たりと目を光らせる。ハワードはサイラスのこの目が人を小馬鹿にするように思えてならず、嫌いだった。しかし侯爵の情報でかなり個人的資金は余裕が出来たのは事実であり、実際に交流を持つようになってからというもの、家の中の丁度品や宝石、服など値段を気にせずまとめて買えるようになっていた。今となっては王よりも金銭的に潤っている。そのために嫌いだという個人的な理由で無下には出来ない。

「えぇ。私の稼ぎなど眩むくらいでございます」

「なんとっ。それほどか」

この国では国境を守護する役割を持つ辺境伯を除き、貴族は国の重職のどれかに着くことが義務付けられている。フラップが国の筆頭鑑定士のように、サイラスは商人・商業ギルドの国側の責任者である。つまり、サイラスには各地区のギルドからの税収の書類を見れる立場にあり、フラップの納めるイブの商人ギルドからの税収が前年の5倍近くまで跳ね上がっていたのである。そこで調べたところ、例の商人以外も収入が少なく見積もっても倍程度になっており、私有地を得た商人の収益が巨大であることが判明したのだった。そして驚くことにフラップが治める領地の収益も万年赤字から王都の1/3程度の黒字となっていた。そこまでの黒字となると、このアヴァ国の3位に入ることになる。1位は王都、2位は帝国との貿易の中心となる国境の街ヴァゴを有する領地で、次いでイブ地方となっている。

サイラスはそう説明し、

「そこを王弟殿下である、ハワード様公爵様が治めてはどうかと思いまして・・・・」

ふむとハワードは考え込む。マコンの街、今はクーラの街は兄である現王より、個人の私有地として何人なんびとも犯すことは出来ない旨が通知されている。

「元マコンの街は今は個人の私有地であり、王より認められている土地。そこをと言っても王弟である私にはいささか・・・・」

ハワードはサイラスが何か考えているのだろうと思っているのか、口ばかりの拒絶を表示する。実際に動くのはサイラスとし、彼の用意した神輿みこしには乗るが、知らぬと言えばその罪は王弟ということもあり問えないだろう。

「そこは、お任せを。ハワード様には最後に少しご出陣いただければと思います」

とニヤリと薄気味悪く笑い、屋敷を出て行った。

「・・・バリー、いつでも出陣れるようにしておけ」

「はっ」

ハワードはバリーだけを残してその部屋を後にしたのだった。


その頃ハジメはクーラの街に帰っていて、クーラの街の鍛冶師であるカカにネックレスに3つのタグが付いたものを作って貰ったのを受け取っていた。それらに、『力弱体:中』『耐久弱体:中』『敏捷弱体:中』を付与しておいた。するとレベルは各々表示上3レベルとなっている。最初は弱体:大を付け、レベルを1まで落としたのだが、あいに気づかれてしまい詰問されてしまったのだ。どうやら鑑定されるとレベルは【+10】は見えず、素のものが見えるらしく、なぜそこまで弱くなっているのか、呪いを受けたのではないかとかなり凄まじかった。精霊ズに説明をすると納得はしてくれたのだが、表示上レベル3くらいはないといらぬトラブルに巻き込まれると言われ、現在の状況になった。魔力に関しては他人の魔力に気づく人はそうそういないためにそのままにしている。

そうしてハジメは今現在、『作業空間』にこもり蜘蛛から採取した糸を布へと変えている。作業場所に置かれているのは人工織機しょっきの見た目であるが実は全自動だった。ジャイアントスパイダーの糸を所定の場所に設置し、糸の端を織機に近づけると、自動で糸を巻き上げてくれる。250本をセットし終わると織機が動き始め、1時間で横110cmの布が約10mほど出来ていた。ハジメは取りあえず1人分として5m分をカットしておく。まずは手習いということにして自分の分を作ることにする。ハジメのイメージする自分のデザインはブレザータイプの制服。上着は夏はベスト、それ以外はジャケット。憧れのサラリーマンスタイルである。

元医療従事者であった彼はスーツは学会の時だけ着用する感じだったし、それ以外は私服で通勤、着替えて制服、退勤だった。これは毎日の服選びが大変面倒なのである。職場からは来院者の目があるからジャージで来るな、普通の恰好で来るようにとお達しが出たり、女性に至っては薄化粧で健康そうに見えるメイクなどという条件も付くと言う始末だった。勿論おしゃれ上級者たちは制服こそ弄らなかったが、ボールペンなどの小物に拘っていた。しかしそれは極わずかで、ボールペンなど書ければいいと思っている人の方が大多数だった。それに比べたら男のハジメは起きて顔洗って歯磨きして寝ぐせ直してというだけで済んだのは楽だった。そんなわけで、夏はジーパンにシャツ、冬はジーパンにシャツ、ダウンジャケットという無難スタイルになったのだ。

話は戻るが先ずは自分のサイズを巻き尺で大まかに測定し、パンツ部分から作成に入ることにした。ハジメが巻き尺を取り出し、自分のサイズを測定する。その後マーカーペンで測定サイズ+縫いしろとして10cm用意して下書きをし、切り取り後にもう一度同じものを準備した。そしてチクチクと本返し縫いで作り上げていく。

そうして約1日かけてようやくパンツが完成したのだった。

【既存のものよりも上位の道具を確認しました。部屋の備え付けのものを破棄し、新たに登録します・・・。登録を完了しました。今後この部屋は『成長する裁縫室』となります】

【裁縫師の職業を確認しました。職業を強制的に裁縫師に変更させます。作業部屋から出た時は職業変更をするようにしてください】

と部屋に立て続けに声が響いたのである。ステータスを確認すると、

職種:裁縫師 Lv.1 (控え:錬金術師 Lv.7)

となっており、ハジメのアイテムボックスから『成長する裁縫道具』は消えており、作業台の引き出しにはそれぞれがきちんと整理整頓され入っていた。

因みに裁縫師LV.1のスキルは裁縫師の心得と裁縫師の心構えというものだった。前者は作業部屋で使った道具が勝手に片づけられ、後者は作業スピードの向上というものだった。地味であるがかなり便利なものだった。

その次の日にはワイシャツとネクタイとベストが、その翌日にはジャケットとベレー帽が完成した。
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