【3部連載中】転生したら美少女冒険者に! ~おっさんの心が旅立つ異世界冒険記~

南條 綾

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1章 魔道都市へ

74話 侵食される正気と、その手から伝わる唯一の熱

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 その巨体の男マッシュは語ってくれた。

「まぁ、あんたらみたいな小綺麗な所で暮らしてるんじゃ三等室の最悪なんてわかんねえと思うが、この依頼はチャンスだと思ったぜ。このミッションを突破できれば、一等室と見たこともない報酬が約束されてたんだからな」

 マッシュの声が低く嗄れて、喉が乾いたようにかすれる。
 ベッドに横たわった巨体が、まだ微かに震えていて、汗で濡れた額が部屋の灯りに光る。
 グレートアクスが床の横に立てかけられ、刃に残った海藻の匂いが薄く漂う。

 俺は船長の方を見てからもう一度その男を見た。
 船長の肩が落ち、髭の端が疲れで乱れている。
 目尻に深い皺が刻まれ、ため息が漏れる。
 俺はもう一度マッシュの方を見つめた。

「あんたら貴族からしたら、はした金かもしれねえがな」

「ちなみにいくらなんだ?」

「達成したグループには、目的地に着くまで一等室と一人金貨三千枚だ」

 駆け出しの冒険者にとっては凄く割のいい条件だと思う。
 今頃だったらもうアヴァリス大公国の港が見え始めてもおかしくないのだから、船長も緊急だと判断したんだろうな。

「俺たちは貴族じゃなく冒険者だ。見ての通り女二人の旅だから、身の危険をお金で済ませただけだ」

「あぁそうなのか。でもその金杖で、そのふるまい。そしてアウリス神の聖印を持っているのは、エレナ神官で間違いないな。そちらは、銀髪で赤眼っていうことは冒険者ギルド炉端の新人。アヤ・シビだろ」

「俺まで知っているのか?」

 マッシュの瞳が、俺をじっと見据える。
 弱々しいのに、どこか確信に満ちた視線だ。
 部屋の空気が、重く沈む。

「そりゃぁな。あんたら目立つからな。話を続けるぜ」

「話の腰を折ったな」

「まず島に降り立った時から異質だったぜ。外周はしてないがかなり大きな島で中央には見たこともないような大きな山があった。おかしいだろ。エリシオンからアヴァリスまでの航海図でそんな場所はないはずなんだ。あったら俺たち冒険者のうわさになってるのに。降り立った全員驚いてたぜ」

 確かにそうだ。
 まだ見てはいないがとても大きな島、凄く高い山があれば誰かが冒険をして噂になっているはずだ。
 でも実際は、この海域を熟知している船長は知らなかったし、誰も知らないってことは本当にあるのか?
 胸のざわつきが、冷たい予感に変わる。
 この島……俺の予想以上にヤバい島なのかもしれない。

「初日の夜に冒険者の半数は死んだ」

「まさか」

 俺は一つだけそのことに思い付いた。
 船長たちはあの魚を渡したのか? 

「なんだ心当たりがあるのか?」

 マッシュの声が低く掠れて、ベッドの上で体を起こす。
 巨体が震え、汗が額から滴り落ちる。
 口元に残った泡の跡が、まだ白く残ってる。

「あの魚だな。俺も先ほど死にかけた」

「あぁ、船員から渡された弁当を食べたやつが次々死んだよ。俺らのグループも食べ遅れたおかげで何とかそんな状況から逃れたがよ」

 マッシュは、船長を恨みの目で睨んでいた。
 瞳の奥に、怒りと恐怖が混ざり、息が荒い。

 船長の顔が青ざめ、肩が落ちる。
 部屋の空気が、重く沈む。

「お……俺達も知らなかったんだ」

「あんたらの考えそうなことだぜ。下の物を人と考えないなんてよ。だからこそ成り上がるために泥水をすすっても成り上がってやるっていう野望があるんだけどな。そして俺達を人間扱いしてなかったやつが俺達に膝まずいてやるのを見たかったんだ」

 どの世界でもそういうのはある。
 もちろん俺が生きていた世界でもよくある話だ。
 俺もそれを目指して44歳から大学に行って社会を見返してやると思ってたから気持ちはわかる。
 規模とか全然俺の方が小さいが、胸の奥で、苦いものが広がる。

 マッシュの声に、恨みの熱がこもってるのが伝わってくる。

「すぐさま僧侶たちが団結して解毒に当たった。だがな……それでも、降り立った人間の半分は死んでしまった」

 戦士は低く吐き捨てるように言った。
 声が震え、拳が握りしめられる。
 ベッドのシーツが、汗で湿ってしわになる。

「俺たちは利害が一致して組織を作り、この島を探索することに決めた。誰もここに降り立った形跡は感じられなかったからな。もしかしたら、とんでもないお宝が眠ってるかもしれねえって」

 冒険で手に入れた物は、基本的に冒険者のものになる。それがこの世界の常識だ。
 最初に見つけた者の総取り。
 だが今回は違った。

「一万以下の品なら、その発見グループの総取り。それ以上の財宝は全員で分ける。そう取り決めた。抜け駆けは禁止だ」

 理にはかなっていると思う。
 人数が多いなら、目先の利益より生存率を優先すべきだ。
 独り占めして地獄のような争奪戦になったら意味がない。
 マッシュの瞳に、決意と恐怖が混ざる。

「魚もな……まともなのが一匹も獲れなかった。どれもグロテスクで、誰も見たことがねえ種類ばかりだ。だから皆思ったんだ。俺たちに支給された保存食は、その魚だったんじゃねえかって」

「ああ、その通りだ。一口食べたから保証する」

 マッシュの顔が歪む。
 口元が引きつり、息が荒くなる。
 部屋の空気が、一段と重くなった。
 でもそれならまだ生き残っている奴はたくさんいるはずだ。

「初日の夜に、大多数が死んだ」

「まさか」

 俺は思わず声に出してしまった。
 喉が一瞬締まって、息が詰まる。
 胸の奥で、嫌な冷たさが一気に広がる。
 マッシュの言葉が、頭の中で反響して、重く沈む。

「……わからねえ。教えてくれ」

 戦士はしばらく黙り込んだあと、重く口を開いた。
 ベッドのシーツが、汗で湿って皺になる。
 巨体が震え、声が低く掠れる。

「焚き火の明かりが届かねえ闇の向こうからな……ジュウ、と肉を焼くみてえな音が聞こえた。それから、湿った木をへし折るみたいにバキバキって音がするんだ。だが、何も見えねえ」

 空気が凍る。
 部屋の灯りが小さく揺れて、影がみんなの顔に落ちる。

「夜が明けて、魔術師が光の呪文を放った瞬間……俺たちは言葉を失ったぜ。焚き火を囲んでいた十人。そのすぐ外側――半径数メートルの地面が、どす黒い粘液と、誰のものか分からない肉片で埋め尽くされていた。ただ、重い何かを引きずったような這い跡だけが、山の上へ続いてた……それと、あの耳障りな笛みたいな音もな」

 濃霧の中とはいえ、見張りは立てていたはずだ。
 数十人の冒険者が、誰にも気づかれずに?
 ありえるのか、そんなことが。
 俺の胸のざわめきが、冷たい恐怖に変わる。

「俺たちは話し合った。船に戻るか、この島を探索するか」

 彼は自嘲気味に笑う。
 唇が歪み、声が震える。

「結局、登ったよ。俺たちは冒険者だからな。目の前に“未知”があるのに、背を向けられるかって話だ。それに……死んでいった連中の無念を晴らしたいなんて、酔ってたのかもしれねえ」

「それで?」

「山は……普通の山じゃねえ。岩の塊が、あんな風に脈打つわけがねえんだ」

 ぞわり、と誰かが息を呑む。
 部屋の空気が、さらに重くなる。

「霧の向こうでな、何かが滑るような音がした。巨大なゴム毬が何百も擦れ合ってるみてえな……その隙間から聞こえてきたんだ」

 戦士の唇が震える。
 声が低く嗄れ、瞳が虚ろになる。

「高い……笛のような声。だが鳥のさえずりを何倍もおぞましくしたみたいな……『ピィ・リィ』とか、『エケ・レィ』とか……今まで聞いたことのねえ鳴き声で、俺には……」

 その瞬間だった。
 戦士の目がかっと見開かれる。
 喉の奥から、人間とは思えぬ絶叫がほとばしった。
 次の瞬間、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。

「マッシュ様、しっかりしてください! マッシュ様!」

 エレナが駆け寄り、脈を取り、気付けの術を施す。
 錫杖が軽く地面を叩き、淡い光がマッシュを包む。
 だが戦士の瞳は虚空を見つめたまま、二度と焦点を結ばなかった。

 彼女が青ざめた顔で首を振る。

「……生きてはいます。しかし、魂がどこかへ……精神が完全に壊れています。あの音を、これ以上思い出してはならない。そう体が拒絶しているかのようですわ」

 部屋の空気が、重く沈む。
 俺の胸のざわめきが、冷たい恐怖に変わる。
 エレナの手が、俺の袖をそっと掴む。
 その指先が、震えてるのが伝わってくる。

「……そんな馬鹿なことがあるものか」

 絞り出すような声の主は、船長だった。
 数々の嵐を切り抜け、巨大な海獣との死闘をも制してきた男。
 その拳が、見たこともないほど小刻みに震えている。
 机を叩く手が白くなり、関節が鳴る。
 瞳に、苛立ちと絶望が混ざり、髭の端がピクピクと動く。
 
「どうすればいい……。海図にない島、異形な魚、そして……これだ。俺たちは一体、何と戦えばいいんだ」

 船長だけではない。
 荒波に揉まれてきた屈強な船員たちも、誰一人として武器を取ろうとしなかった。
 ある者は頭を抱え、ある者は腰を抜かしたまま、霧の向こうにそびえる島を怯えた子供のような目で見つめている。
 勇猛さも、経験も、ここでは何の役にも立たない。
 船全体が、目に見えない巨大な蜘蛛の糸に絡め取られたかのように、じわじわと正気を失いつつあるように、俺自身そう感じていた。

「船長」

「あぁどうし……ましたか」

 船長の声が、掠れて震える。
 目が俺たちを捉え、疲れ切った光が宿る。

「報酬だ」

「ほ……報酬?」

「報酬さえもらえるのなら俺が行ってやるよ」

 こんな状況なのに何を言っているかのように船長が非難めいたような感じで訴えるような目で俺を見ていた。

「あんたは無報酬で船を動かすのか?俺たちは冒険者だ。どうする?」

 震える手で、船長は自らの膝を叩いた。
 必死に理性を繋ぎ止めようとしている。
 関節が鳴り、膝が小さく震える。

「いくら……望む?」

「お金じゃないな。あんた、アヴァリス大公国の貴族だろう」

「……ああ、子爵だ。海が好きで船を出しているが……」

「なら、報酬はギルド経由の金とは別に、『最高の魔法鍛冶屋』の口利きを頼みたい。最近は戦いが激しくてな、こいつ武器のメンテが必要なんだ」

 この狂気の最中で、自分の得物の心配をする冒険者。
 その異質な強さが、船長の絶望をわずかに和らげたようだった。
 船長の瞳に、わずかな光が戻るのを俺は見た。

「……いいだろう、約束する。今回の船にはVIPも乗っている。無事に解決すれば金貨一万枚も上乗せしよう。……それで、いいのか?」

 俺は相棒のエレナに視線を向けた。
 彼女はいつもの穏やかな顔のままだが、手にした聖印を強く握りしめていた。
 それでもこの異質さからか、聖印は小さく震えていた。

「異論はありませんわ。ただ、食事の方が心配ですけれど……」

「この船に乗っている僧侶の『奇跡』で食料を生成してもらうしかない。一日十人分が限界だったか「何回かに分ける必要はあるとは思うが?」

「ええ。それに、魔法で出した食べ物は二十四時間で腐敗しますわ。現地調達は……」

「ああ、間違ってもこの海域や島のものは口に入れるな。何が起きるか分からないものだからな」

 あのぴたぴたと動く切り身を思い出し、吐き気を抑え込む。
 胃がむかむかして、喉が締まる。

「どのくらいの期間かかりますか?」

 船長の問いに、俺は答えを持っていなかった。
 窓の外には、ただ深い霧が広がっているだけだ。
 白く霞んだ視界が、胸に重くのしかかる。

「……マッシュは『山脈』と言っていたな。それが本当なら最大一ヶ月と言いたいところだが、まだこの目で見ていない以上、予想を立てるのは無理だ」

 それでも、期日は示さねばならない。

「とりあえず、10日は様子を見てくれ。もし10日経っても俺たちが帰ってこないのなら、その時は……あんたの好きに判断してくれ。俺たちのことは死んだと思ってな」

「出発は明日にする。今日にでも行きたいが、俺もあの魚のせいで消耗しているからな。心身を休ませて、万全のコンディションで挑む。船長、あんたは客たちがパニックにならないよう、全力でなだめておいてくれ」

「善処する」

自分たちの船室に戻ると、俺は重い体をそのままベッドへと預けた。

「エレナ、すまない」

「どうして謝るのですか?」

「勝手に決めちまってな。あんたまで危険に巻き込む」

 エレナの瞳が、俺をまっすぐ捉える。
 金髪が部屋の灯りに照らされて、柔らかく光る。
 彼女の指が衣の裾を軽く握りしめ、声が優しく響く。

「仕方ありませんわ。誰かがやらなければ、この船に救いはありませんもの」

 エレナは聖女のような微笑みを浮かべて、静かにそう答えた。
 その笑顔に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
 最悪、俺たち二人だけなら『瞬間移動』の呪文で脱出できる。
 仮に呪文が封じられていても、俺の指輪かエレナの緊急転移があれば助かるだろう。
 ……だがその時は、この船の全員を見捨てることになる。
 その現実から目を逸らすように、俺たちは明日に備え、泥のように眠りへと沈んだ。


「……シビさん、シビさん!」

 鋭い呼び声と、頬を叩く衝撃で意識が急浮上する。
 目を開けた瞬間、視界いっぱいに飛び込んできたのは、寝間着姿のエレナだった。
 しかも俺の腹の上に馬乗りになり、必死の形相で顔を叩いている。
 彼女の金髪が乱れて、頬が汗で濡れている。
 白い寝間着の襟が少し開いて、鎖骨が露わになっている。
 息が荒く、瞳が潤んで、俺を必死に見つめている。

「え……エレナ……? どうした、その格好は」

 状況がまるで飲み込めない俺に、彼女は震える声で言った。

「正気に戻ってくれたんですね……!」

「正気? 俺が……?」

「いきなり、聞いたこともない言語で呻きだして……。『山が呼んでいる。あそこの肉にならなきゃいけないんだ』と。虚ろな目で立ち上がり、虚空を掴もうとしていたのです。私の清浄化の呪文さえ弾かれてしまって、やむなく、こうして……」

 背中に、氷水を流し込まれたような悪寒が走る。
 毒だけじゃない。あの「魚」を通して、俺の魂の芯まで何かが這い寄っていたのか。
 俺はすぐさま力ある言葉を紡ぎ、喉の奥から絞り出すように自らへ『呪い解除』を叩き込んだ。

 だが――。
 精神の根源にこびりついた「闇」は、まるで無数の湿った吸盤を持つ触手のように、俺の意識を雁字搦めにして離さない。
 無理に引き剥がそうとすれば、俺の精神そのものが不快な音を立てて千切れそうになる。

 ……クソ、剥がれねえ……! 脳みそを直接、腐った泥でかき回されてるみたいだ……!
 視界が再び暗転し、あの不快な笛の音が脳内で逆流し始めた、その時だった。

 左手に、柔らかな温もり。
 エレナが、震える俺の手を、壊れ物を扱うようにぎゅっと握りしめていた。
 それはこの「汚泥」のような世界で唯一の、確かな生身の熱だった。
 彼女の必死な祈りが、その手のひらの鼓動を通して、冷え切った俺の心臓に流れ込んでくる。
 ――その瞬間。
 あちら側へ引きずり込もうとする力が、ふっと霧散した。
 俺は一気に闇を振り払い、辛うじて人間としての境界線に踏みとどまった。
 張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れ、俺はそのまま、抗えぬ重力に従うように前のめりに倒れ込んだ。

「あ……」

 小さな声を漏らしたエレナが、倒れゆく俺の体をその細い腕でぎゅっと受け止めてくれた。
 彼女の胸元から、トク、トク、と規則正しい命の鼓動が伝わってくる。
 温かくて、安心する。

 どこか遠い記憶へ戻りたいような、純粋な母性とでもいうべき安らぎ。
 脳内をかき乱していた「ピィ・リィ」という不快な残響は、その柔らかな音に静かに塗りつぶされていった。
 俺は彼女の温もりに包まれたまま、泥のような深い眠りへと落ちていった。





 気がつけば、俺は彼女の胸を枕にするような体制で、深い安堵の中に落ちていたらしい。
 エレナの細い腕が俺の背中をしっかりと抱きとめ、倒れ込む俺の重みを優しく受け止めてくれている。

 寝間着越しに伝わる体温が、柔らかくて温かくて……少しだけ震えている。
 彼女の胸の膨らみが俺の頰に押しつけられ、布一枚隔てた心臓の鼓動が、ドクン、ドクンと耳元で響く。
 甘い香りが鼻をくすぐる。
 教会の香炉のような優しい花の匂いと、ほんのり汗の匂いが混ざった、エレナだけの香り。
 いつもより近くて、いつもより生々しくて、頭がぼうっとする。

「ご……ごめん」

 俺の声が掠れて、全身が熱くなり、顔の温度がこれでもかというぐらい上がっていた。
 慌てて体を起こそうとするけど、エレナの腕が離してくれない。
 彼女の息が、俺の耳にかかる距離で少し乱れている。
 頰が熱くて、耳まで赤くなってるのが自分でもわかる。
 エレナの瞳が、すぐ近くで俺を見つめている。
 潤んでいて、でも決意に満ちていて……その視線に、胸がきゅっと締めつけられる。

「よろしいんですの。少しの間このようにしてましょう。落ち着くのも大事ですわ」

 エレナの声が、優しく震えながらも穏やかだ。
 彼女の指先が俺の背中をそっと撫でて、安心させるように抱きしめている。
 その温もりが、さっきまで体を蝕んでいた闇を、ゆっくり溶かしていくみたいだった。
 俺は彼女の胸に顔を埋めたまま、深く息を吐いた。
 この瞬間だけは、何も考えたくなかった。
 ただ、エレナの温かさに包まれていたいと思った。

「準備をいたしましょう」

「ああ。……これほどふざけた真似をしてくれたんだ。あの『山』にはたっぷり落とし前をつけてもらう」

 俺はゆっくり体を起こし、エレナの手を握り返した。
 彼女の指が、俺の指に絡みつくように強く握り返してくる。
 その力強さに、俺の胸がまた少しだけ速く鳴った。
 俺たちは装備を整え、あの禍々しい霧の島へ向けて、小舟を漕ぎ出した。
 甲板の冷たい風が顔を叩き、霧の向こうにそびえる島影が、白く霞んで見える。
 エレナの横顔が、決意に満ちて輝いている。
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