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本編

-161- おはぎ先生と魔法の付与

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水壁っつーから、水で出来たただのでっかい壁を想像していた。
風呂に溜まってる水を、そのままの形で外に出したみたいな感覚だ。
そこからして間違っていた。

普段、水を手から出す時は柔らかいシャワーの様に両手から出してる。
水の玉を出してるわけじゃない。

流れがある。

勢いが良ければ、水壁の厚さ自体が少なくても、衝撃から守れる。
つまり壁状に噴水───放水っていったほうが正しいか。
高圧洗浄の強化版みたいなもんを面で作ればいい。
それと、全方位からきても、円なら大丈夫だろ。
円なら一辺と考えていい、はずだ。

「勢いよく出せばいいってことだな」
『ん!』
「上手く出来そうだ。量が入らないから短時間で役目を果しちまうだろうけど」

せめて、30秒くらい持たせたいがいけるか?
まあ、そこは実際に付与してみないとわからないな。

『大丈夫!アサヒなら、上手くいく』
「おう」

おはぎにそう言われると、出来ない不安より成功した後の出来上がりが楽しみになってくる。

そういや、昔『出来ないかもって思うから、出来ない現実が出来上がるんだ。出来ると思ってやりなさい』と親父に言われたことがある。
あ、俺じゃなくて、弟な。
俺はほら、親の前ではいい子ちゃんで口答えなんてしなかったからさ。
弟は、似たもの同士なのかよく親父と言い合っていた。

どっちも、結構頑固なんだよなあ、基本自分を譲らない。
ただ、俺や母さんのあたりはあからさまに柔らかかったから、単純に我が強いってわけでもなかった。

まあ、ともかく。
小学校低学年の弟に、そんなことを言う親父。
そんときは傍で見てて、親父は随分無茶なことを言うなと思ったっけ。

だが、大人になってからいくつか自己啓発本を読んで、親父の言っていたことは間違っちゃいなかったんだなとわかった。
失敗は成功の過程にすぎない、と。

って思うとさ、親の影響力ってかなりすげーよなあ。
俺は裏で荒れてこんな感じに育っちまったが、それでも根の部分は腐っちゃいないと声を大にして言える。


『アサヒ、集中!』
「……だな」


懐かしい思いに拭けっていても一向に進まない。
石を手のひらにのせて、両手で包み込むようにしたら、念じながら魔力を込めていくだけだ。
ゆっくり、そっと、丁寧に。

魔力を込め始めると、じんわりと石があたたかくなってくる。
ここだって思うところで、魔力を込めるのをやめ、そっと手をひらく。
出来たか?
出来た気がするが、見た目は変わらない。

『アサヒ、すごい!』
「ちゃんと出来たか?」
『ん!ちゃんと出来てる!すごいすごい!』
「おーマジか。やった!ありがとな、おはぎ。
そんじゃ、タイラーのと……おはぎのも同じ感じでいいか?」
『ん!』



3つの石が出来上がったところで、特別魔力が減ったかと言うとそうでも無い気がする。
つまり、まだまだ付与は可能だ。

なら、感覚が掴めてる今、俺とオリバーの飾り紐の方も付与しちまうか。
こっちは左右に3つずつ付けるつもりで12個の購入した。
ひとり分は合計6個。
つまり、理論的には、6種類の付与が出来るわけだ。
なんにすっかなー、と考えながら紙袋を傾け手のひらにあける。

「っと、やべ……」

手のひらからこぼれ落ちたひとつが、カツンと音をたて、弾みをつけてベッド下に入り込んだ。
天蓋付きのキングサイズな猫足ベッドは、ギリギリ人が入れるくらいの隙間がある。


「なんだコレ」

転がった石はすぐに見つかった。
なんだコレのコレは、ベッド下に隠されてあった真っ赤な箱だ。

今いるのは、俺に宛てがわれた部屋で、このベッドは、殆どというか今現在全く使われてない。
俺がオリバーの部屋で毎日一緒に寝起きしているからだ。

ベッドどころか、この部屋自体があまり使ってないんだよな。
クローゼットには俺の服が入ってるから、使ってるには使ってる。
けど、俺が日頃着る服は、オリバーの服と一緒にタイラーが用意してくれているから、直接俺が使ってるとは言い難い状況だ。
この部屋を俺が使ったのは、そう、こっそりおはぎと薬の調合をするとき以来だ。


この真っ赤な箱には、見覚えがある。
キャンベル商会の箱だ。
その証拠に、箱の右下あたりに、同色の型押しで小さなロゴが入っている。
間違いない。

手に握っていたクズ石のビーズを袋へ戻し、赤い箱の蓋を開ける。
中には、何やら奇妙な魔道具がひとつ入っていた。

自他ともに認める変態のコナーが寄越したものとなれば、どんなことに使うものかが想像ついた。

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