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第一章 強盗団に襲われ絶体絶命 <第1話>

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 <第一章 第1話>
 土曜日、深夜午前三時過ぎ。
 南二区の高級住宅街にあるシュナイダー邸は、武装強盗団に占拠されていた。
 「お願い、殺さないで」
 赤毛の美少女ルビー・クールは、か細い声で、懇願した。
 「うるさい、黙ってろ!」
 銃口で、後頭部を小突かれた。
 「さっさと吐け! さもないと、この赤毛の女を殺すぞ!」
 強盗犯の一人が、シュナイダー氏の後頭部を、リボルバーの銃床で小突いた。
 まずい、まずい、まずい。
 このままでは、殺される。なんとかしなければ。
 左隣のシュナイダー氏を横目で見た。ルビー・クールと同様に全裸で、両膝を床につき、両手を頭の後ろで組まされている。二人とも、後頭部に銃口を突きつけられている。
 「金庫には、現金はない。書類だけだ。現金は全部、銀行に預けてある」
 シュナイダー氏が強盗団に向かって弁解した。
 「ダイヤル錠の暗証番号を言え!」
 強盗団のボスが、怒鳴った。シュナイダー氏の側頭部を小突きながら。
 「その書類は、個人的な書類だ。第三者には売れない。カネにならない。有価証券は、すべて銀行の貸金庫の中だ。この金庫にはない」
 「さっさと金庫の暗証番号を吐け! さもないと、赤毛のビッチを、ナイフで切り刻むぞ!」
 まずい、まずい、まずい、まずい。
 顔に傷をつけられたら、娼婦としての価値が大幅に下がる。あたしがカネを稼げなくなったら、我が家は、父も母も妹たちも、みんな終わりだ。あたしが、カネを稼ぎ続けなければ。家族を支える。それが、長女の責務だ。
 ルビー・クールは、自分の不運を呪った。
 平民区になんか、来るんじゃなかった。今回は、南三区ではなく、南二区だったので、大丈夫かと思った。それなのに、こんな目に遭うとは。十五歳になってから、絶体絶命の窮地に陥るのは、これで二回目だ。十五歳になって半年しか経っていないのに。どれだけ不運なのか。
 シュナイダー氏は、金払いの良い客だった。それに、ルビー・クールを気に入ってくれていた。愛人契約を申し出てくれたとき、良い話だと思った。秘密売春組織の経営者ローランド夫人の許可を得て、金額の交渉を兼ねて、昨夜の金曜の夜、シュナイダー氏の屋敷を訪れた。夕食をごちそうになったあと、ベッドで抱かれた。予定では、朝食をごちそうになったあと、一年契約の愛人契約書に署名するはずだった。一年間に必要な金額は、自分と妹の一年分の学費と寮費、それに雑費など、合計十万キャピタ(著者注:日本円で一千万円相当)だ。それが、自分の手に入るはずだった。
 それなのに、今は殺される寸前だ。
 深夜三時頃だった。良い気分で寝入っていたところを、突然、ベッドから引きづり出された。シュナイダー氏と共に。覆面をした強盗団に。裸のまま床にひざまずかされて、銃口を突けつけられた。
 それが、現在の状況だ。
 「この屋敷にある金目のものは、全部持って行っていい。そうだ、私の懐中時計を持って行け。純金製で、宝石も埋め込まれているから、売れば、五万キャピタ(五百万円)にはなるはずだ」
 そのシュナイダー氏の言葉に、強盗団のボスは、言い放った。
 「それも、もらおう。だが、金庫の中身も全部もらう。ダイヤル錠の暗証番号を、さっさと吐け!」
 シュナイダー氏は、押し黙った。
 強盗団のボスが、シュナイダー氏を脅した。
 「言わないなら、赤毛の女の指を、一本ずつ、切り落とす。十本全部なくなったら、次は、おまえの指だ」
 頭の後ろで組んでいた左手を、前のほうに引っ張られた。シュナイダー氏の目の前で、左手の人差し指に、大型ナイフの刃が当てられた。
 まずい、まずい、まずい。
 このままでは、左手の指を失ってしまう。なんとかしなければ。
 「取引しましょう」
 ルビー・クールは、口に出してから思った。どのような取引ならば、自分たちは助かるのだろうか、と。
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