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10. 白石はウザいし面倒だけど、可愛いのは可愛い
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10. 白石はウザいし面倒だけど、可愛いのは可愛い
いつものようにオレの部屋には白石がいた。聞こえてくる賑やかな声や、勝手に何かをしている物音。それがオレの日常になってしまっていた。
でも今日の部屋は、少し違った。
普段なら白石がソファーの上を占領しながら漫画を読んだり、スマホをいじったりして騒がしいはずなのに、今日はやけに静かだった。白石はソファーにちょこんと座って、膝の上に手を置きじっと窓の外を眺めている。まるで、普段の騒がしさが嘘みたいだ。その、おとなしすぎる様子が、逆に不気味で何だか落ち着かない。妙な緊張感が部屋の中に漂っている。
「……はぁ」
不意に、白石が小さくため息をついた。それが、普段の白石からは想像もつかないほど重苦しいものだったので、オレは思わず声をかけていた。
「ん?どうかしたのか?なんか元気ないみたいなんだが?」
滅多に見せない白石の弱々しい姿に少しだけ心配になったのかもしれない。いや違う。ただいつもの騒がしさがなくて調子が狂うだけだ。そう自分に言い聞かせる。
白石は、ゆっくりとオレの方に顔を向けた。その表情は、いつもよりも少し陰鬱で眉根が寄せられている。
「先輩……実は私……今日、告白されたんです」
……は?
「陸上部の男子で、結構モテる人みたいなんですけど……」
白石の言葉に、オレの頭の中は一瞬で整理がつかなくなった。告白?あの白石が?しかも陸上部のモテるやつに?確かに白石はあんな調子だが、顔は整っているしスタイルも悪くない。可愛い部類に入るだろう。モテるというのも納得はできる。だが、まさか実際に告白されるとは……
「え!?マジで!?」
なんか複雑だが……いや待てよ?白石に彼氏ができる?毎日オレの家に押しかけてくることがなくなる?なんにせよ、こいつが毎日来なくなるならよしとしよう不謹慎ながら、内心では少しだけ期待していた。この、訳の分からない放課後の生活から解放されるかもしれない。
「でも断ったんです。」
「え?なんでだよ!?」
「だって、私には彼氏がいるじゃないですか。」
……彼氏?その言葉を聞いて、嫌な予感が全身を駆け巡った。まさか、その彼氏というのは──。
「……まさか、それ、オレじゃないだろうな?」
確認するのが恐ろしいような、でも確認せずにはいられないような複雑な心境で尋ねた。すると白石は、今までの陰鬱な表情が嘘のようにぱっと顔を輝かせた。そして少し照れたような笑顔で言った。
「えー?先輩に決まってるじゃないですかぁ!他に誰がいるっていうんですか!だって、先輩の前で、こんなにも素の私を見せてるんですよ?そんなの付き合ってなきゃできないですよ!ねぇ先輩?」
何を根拠に素の自分を見せているから付き合っているという結論になるんだ?論理が飛躍しすぎだろう。だが、この白石のいつもの遠慮のない図々しいそれでいてどこか憎めない感じ。
(あーうん。なんか安心だわ。)
なぜだろうか。告白されたという話を聞いたときの複雑さや、少しだけ期待した解放感は、白石が「彼氏」はオレだと言った瞬間に霧散した。そして代わりに何だか安堵している自分がいた。
白石と付き合うとか、恋愛感情がどうとか、そういうことは全く考えたくもないしありえないと思っている。でも白石がいつもの調子に戻ったこと、そしてこの訳の分からない慣れきった日常が続くことに安堵している自分がいたのだ。
「素の私かどうか知らないけど、本当に良かったのか?せっかくのチャンスだったんじゃないのか?」
いつもの調子に戻った白石に少しだけ真面目に問いかけた。陸上部のモテる男子。そういう、いわゆる「いい人」と付き合う方が、こいつの今後の人生にとって、きっとプラスになるだろう。
「何がですか?」
「いや、だから、陸上部でモテる人なんだろ?そんないい人断っちまって?お前は、まぁ……色々面倒なところはあるけど、一応……可愛いとは思うからさ。もったいないことしたんじゃないかって」
「可愛い」という言葉を言うのは少し気恥ずかしかったが、事実だし、そこを認めないと話が進まない気がした。すると、白石は一瞬驚いたような顔をした後、すぐに顔中に笑みを広げた。そしてニヤニヤとオレの方を見つめてくる。
「……あっ!そういう事ですね!ふふん!」
「なんだよ、何笑ってんだよ?」
その笑顔に嫌な予感がした。白石がこの顔をするときは、ろくなことにならない。
「もう!先輩ってば、ヤキモチ妬いちゃったんですね!他の男の人に告白されて、私が可愛いから心配になっちゃったんですね?」
やっぱりか。面倒な展開になった。
「安心してください!私は先輩一筋ですから!陸上部のモテる男子なんて、先輩に比べたら全然ですよ!私は浮気とかしませんから!」
「うぜぇ……」
思わず心の声が漏れ出ていた。この、何もかも恋愛に結びつけて勝手に盛り上がるところ。本当に面倒だ。
「ウザいってなんですか!ひどいです!せっかく先輩のために、陸上部の男子を振ってきたのに!」
「そんなこと頼んでねぇだろ!」
白石は、むぅー、と頬を膨らませて、オレの腕にポカポカと殴りかかってきた。その攻撃に力は入っていないから痛くはないけれど、ぺちぺちと当たってくる感触と白石の拗ねたような声がひどくウザい。
でも、そうやって拗ねてポカポカと無意味な抵抗をしてくる白石を見ていると、確かに少し可愛らしくも見えるから困る。結局、この訳の分からない日常から抜け出す日は、まだまだ遠いらしい。
そして少しだけ、その日常が続くことに安心している自分がいることも否定できなかった。
いつものようにオレの部屋には白石がいた。聞こえてくる賑やかな声や、勝手に何かをしている物音。それがオレの日常になってしまっていた。
でも今日の部屋は、少し違った。
普段なら白石がソファーの上を占領しながら漫画を読んだり、スマホをいじったりして騒がしいはずなのに、今日はやけに静かだった。白石はソファーにちょこんと座って、膝の上に手を置きじっと窓の外を眺めている。まるで、普段の騒がしさが嘘みたいだ。その、おとなしすぎる様子が、逆に不気味で何だか落ち着かない。妙な緊張感が部屋の中に漂っている。
「……はぁ」
不意に、白石が小さくため息をついた。それが、普段の白石からは想像もつかないほど重苦しいものだったので、オレは思わず声をかけていた。
「ん?どうかしたのか?なんか元気ないみたいなんだが?」
滅多に見せない白石の弱々しい姿に少しだけ心配になったのかもしれない。いや違う。ただいつもの騒がしさがなくて調子が狂うだけだ。そう自分に言い聞かせる。
白石は、ゆっくりとオレの方に顔を向けた。その表情は、いつもよりも少し陰鬱で眉根が寄せられている。
「先輩……実は私……今日、告白されたんです」
……は?
「陸上部の男子で、結構モテる人みたいなんですけど……」
白石の言葉に、オレの頭の中は一瞬で整理がつかなくなった。告白?あの白石が?しかも陸上部のモテるやつに?確かに白石はあんな調子だが、顔は整っているしスタイルも悪くない。可愛い部類に入るだろう。モテるというのも納得はできる。だが、まさか実際に告白されるとは……
「え!?マジで!?」
なんか複雑だが……いや待てよ?白石に彼氏ができる?毎日オレの家に押しかけてくることがなくなる?なんにせよ、こいつが毎日来なくなるならよしとしよう不謹慎ながら、内心では少しだけ期待していた。この、訳の分からない放課後の生活から解放されるかもしれない。
「でも断ったんです。」
「え?なんでだよ!?」
「だって、私には彼氏がいるじゃないですか。」
……彼氏?その言葉を聞いて、嫌な予感が全身を駆け巡った。まさか、その彼氏というのは──。
「……まさか、それ、オレじゃないだろうな?」
確認するのが恐ろしいような、でも確認せずにはいられないような複雑な心境で尋ねた。すると白石は、今までの陰鬱な表情が嘘のようにぱっと顔を輝かせた。そして少し照れたような笑顔で言った。
「えー?先輩に決まってるじゃないですかぁ!他に誰がいるっていうんですか!だって、先輩の前で、こんなにも素の私を見せてるんですよ?そんなの付き合ってなきゃできないですよ!ねぇ先輩?」
何を根拠に素の自分を見せているから付き合っているという結論になるんだ?論理が飛躍しすぎだろう。だが、この白石のいつもの遠慮のない図々しいそれでいてどこか憎めない感じ。
(あーうん。なんか安心だわ。)
なぜだろうか。告白されたという話を聞いたときの複雑さや、少しだけ期待した解放感は、白石が「彼氏」はオレだと言った瞬間に霧散した。そして代わりに何だか安堵している自分がいた。
白石と付き合うとか、恋愛感情がどうとか、そういうことは全く考えたくもないしありえないと思っている。でも白石がいつもの調子に戻ったこと、そしてこの訳の分からない慣れきった日常が続くことに安堵している自分がいたのだ。
「素の私かどうか知らないけど、本当に良かったのか?せっかくのチャンスだったんじゃないのか?」
いつもの調子に戻った白石に少しだけ真面目に問いかけた。陸上部のモテる男子。そういう、いわゆる「いい人」と付き合う方が、こいつの今後の人生にとって、きっとプラスになるだろう。
「何がですか?」
「いや、だから、陸上部でモテる人なんだろ?そんないい人断っちまって?お前は、まぁ……色々面倒なところはあるけど、一応……可愛いとは思うからさ。もったいないことしたんじゃないかって」
「可愛い」という言葉を言うのは少し気恥ずかしかったが、事実だし、そこを認めないと話が進まない気がした。すると、白石は一瞬驚いたような顔をした後、すぐに顔中に笑みを広げた。そしてニヤニヤとオレの方を見つめてくる。
「……あっ!そういう事ですね!ふふん!」
「なんだよ、何笑ってんだよ?」
その笑顔に嫌な予感がした。白石がこの顔をするときは、ろくなことにならない。
「もう!先輩ってば、ヤキモチ妬いちゃったんですね!他の男の人に告白されて、私が可愛いから心配になっちゃったんですね?」
やっぱりか。面倒な展開になった。
「安心してください!私は先輩一筋ですから!陸上部のモテる男子なんて、先輩に比べたら全然ですよ!私は浮気とかしませんから!」
「うぜぇ……」
思わず心の声が漏れ出ていた。この、何もかも恋愛に結びつけて勝手に盛り上がるところ。本当に面倒だ。
「ウザいってなんですか!ひどいです!せっかく先輩のために、陸上部の男子を振ってきたのに!」
「そんなこと頼んでねぇだろ!」
白石は、むぅー、と頬を膨らませて、オレの腕にポカポカと殴りかかってきた。その攻撃に力は入っていないから痛くはないけれど、ぺちぺちと当たってくる感触と白石の拗ねたような声がひどくウザい。
でも、そうやって拗ねてポカポカと無意味な抵抗をしてくる白石を見ていると、確かに少し可愛らしくも見えるから困る。結局、この訳の分からない日常から抜け出す日は、まだまだ遠いらしい。
そして少しだけ、その日常が続くことに安心している自分がいることも否定できなかった。
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