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「こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
「アニキ? 何かあったっすか?」
「んー……あったような、あったような?」
「あるじゃないっすか」

 休憩時間になると怜とノリは、共に屋上で昼食をとるのが日課だ。
 持参した弁当を食べ終え、怜はメッセージアプリを眺めている。
 新しく誰かと繋がったのはいつぶりなのか、もう思い出せないくらい久しぶりだった。あの夜――梓と偶然会った日――アパートの前でもう一つお願いがあると連絡先の交換をねだられ、断る事が出来なかったのだ。

 あれから二週間ほどが経っていて、ささやかながら毎日のように連絡を取り合っている。一日程度空くこともあるが、今日の仕事はどうだったかなどの簡易なメッセージや、猫がいたとかご飯が美味しかっただとか、写真が送られてくる事もある。それに怜が短く返事をするのが常だ。

「何か困ってるなら相談のるっすよ?」
「んー、すごく困ってる」
「え、大丈夫じゃないっすよねそれ」

 ノリは神妙な面持ちで怜にそう言った。
 困っている、とても困っているのだ。この状況が嫌ではない自分に。
 梓とのやり取りがいつしか楽しみになっていて、部屋でひとり笑ってしまうこともあった。そんなの随分なかった事だから、戸惑っている。
 けれど、怜はどう説明したらいいのか分からない。

「ううん、大丈夫、かな」
「……本当に?」
「うん。でも、何かあった時は話聞いてくれる?」
「もちろんっすよ! その時はいつでもいいんで言ってほしいっす!」
「うん、ありがとう」

 それでも、ノリのあたたかさがどうしようもなく有り難い。頼りにしていると伝えたくてそう答え、怜とノリは顔を見合わせ笑いあう。まるで本当の兄弟の様な空気が心地いい。

「あ、アニキ、スマホ鳴ってる」
「ん? ほんとだ」

 じゃあそろそろ戻ろうかと片付けている時だった。ノリの言葉に目を向けると、怜のスマートフォンがメッセージの受信を知らせている。
 早速タップすると今考えていたばかりの梓からで、怜はそっと深呼吸をしてから画面をタップし、それから息を飲んだ。

「……ノリくん」
「なんすかー?」
「さっそく“あった”」
「え!?」
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