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第6話 おっさん、腕を振るう
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俺は料理の準備に取りかかった。
鍋を使うにはコンロか竈が必要だ。しかしこの世界にはコンロなんて便利な文明器具は存在しないので、此処にあるもので竈を作ることにした。
どうせ今日しか使わないものだし、明日になったら撤去しなきゃいけないからそこまで手の込んだものじゃなくていい。石や丸太なんかを簡単に組み合わせたもので十分だ。
傍の森で丸太を見繕ってくるかと考えていたらふっと頭の中に魔法を利用する方法が浮かんだので、それを実践することにした。
俺はストーンフォール──石を滝のように降らせる魔法を使って大量の石を生み出し、それを煉瓦を積む要領で積み上げて小さな竈を拵えた。
竈に水を入れた鍋を載せて火を熾し、湯が沸くまでの間に食材の下処理を済ませる。
ジャガイモ、人参、玉葱の皮を剥いて食べやすい大きさに切り分けて、鍋の中に入れていく。
俺はキャベツが好きなので、キャベツも適当な量を一口サイズに切って材料に加えた。
鍋が沸騰して野菜に火が通ったらコンソメを投入。コンソメには固形タイプと粒子タイプのものがあるが、今手元にあるのは固形タイプなのでキューブ一個分を使った。この辺は水の量を見て適当にやっているので、濃い味が好きなら二個使っても良いかもしれない。
コンソメが溶けたら軽く塩と胡椒を振って、完成だ。
一人暮らしの料理の定番、ありあわせ食材で簡単に作れるコンソメスープである。
本当はソーセージとかがあれば一緒に入れたかったのだが、今はそんな食材なんて手元にないし、野菜をたっぷり使ってるからそれなりに食べ応えはあると思う。
肉は街の食品店で調達しても良いのだが、鮮度が微妙な感じなので上手く調理しないと腹を壊すかもしれない。生ものに関しては、必要に応じてフォルテに召喚してもらうことにしよう。
さあ、冷めないうちに頂こう。
俺は召喚された荷物の山から木の器を引っ張り出した。
「これが本当にただの野菜スープなの? こんな美味しいの食べたことない……」
コンソメスープを食べながら、フォルテはびっくりした様子で器に視線を落としていた。
コンソメは旨味が凝縮した日本が誇る調味料だからな。調味料の種類に乏しそうなこの世界ではまず味わうことのない味だろう。
俺にとってはコンソメスープなんて料理のうちにも入らない代物ではあるが、全てが未知の存在である異世界の中に身を置いていると考えると、この何でもない『当たり前の味』が有難かった。
「ハルの世界には、こんなに美味しい料理があるのね……」
「本気になればもっと凄いぞ。肉料理とか、魚料理とか、数え切れないくらいのレシピが俺の世界にはあるからな」
程よく煮崩れたジャガイモを咀嚼しながら、俺は言った。
「それを作るためにはあんたの召喚魔法で呼び出された俺の世界の食材が必要不可欠なんだ。これからも、あんたの魔法を頼りにしてるからな」
「……私、今まで誰かに私の召喚魔法を頼りにされたことなんてなかった。いつも落ちこぼれって言われて、指を指されて笑われてばかりだった」
スープを食べる手を止めて。フォルテは、熱の篭もった眼差しで俺のことを見た。
嬉しそうに──本当に嬉しそうに、笑って。
「ありがとう、ハル。私……頑張るね。ハルのために、たくさん美味しいものを召喚するね」
その笑顔は、伊藤さんが会社で俺に見せていた笑顔に本当にそっくりで。
俺はどきりとして、ごくんと喉を鳴らした。
彼女は伊藤さんではない。顔も声も喋り方もそっくりではあるけれど、全くの別人だ。
でも──彼女を見ていると、思わず心が揺れ動いてしまう。
これは。この気持ちは。何なのだろう?
「──美味しかった。ごちそうさま!」
スープを完食して、満足そうな様子でフォルテは腹を撫でていた。
「明日の朝御飯もハルが作ってくれるんでしょう? 期待していいよね?」
顔を覗き込まれてはっと我に返った俺は、こくこくと頷いて器に残っていたスープを一気に呷った。
「お、おう。任せとけ。びっくりするような美味いもんを作ってやるよ」
「うふふ、楽しみだなぁ」
フォルテは可愛い。御世辞でも何でもなく、そう思う。
彼女の笑う顔を、もっと見てみたい。そのためだったら、料理くらい幾らでも作ってやるさ。
満天の星が輝く空を見上げながら、明日の朝は何を作ろうか……とそんなことを独りごちて俺は遠い目をするのだった。
鍋を使うにはコンロか竈が必要だ。しかしこの世界にはコンロなんて便利な文明器具は存在しないので、此処にあるもので竈を作ることにした。
どうせ今日しか使わないものだし、明日になったら撤去しなきゃいけないからそこまで手の込んだものじゃなくていい。石や丸太なんかを簡単に組み合わせたもので十分だ。
傍の森で丸太を見繕ってくるかと考えていたらふっと頭の中に魔法を利用する方法が浮かんだので、それを実践することにした。
俺はストーンフォール──石を滝のように降らせる魔法を使って大量の石を生み出し、それを煉瓦を積む要領で積み上げて小さな竈を拵えた。
竈に水を入れた鍋を載せて火を熾し、湯が沸くまでの間に食材の下処理を済ませる。
ジャガイモ、人参、玉葱の皮を剥いて食べやすい大きさに切り分けて、鍋の中に入れていく。
俺はキャベツが好きなので、キャベツも適当な量を一口サイズに切って材料に加えた。
鍋が沸騰して野菜に火が通ったらコンソメを投入。コンソメには固形タイプと粒子タイプのものがあるが、今手元にあるのは固形タイプなのでキューブ一個分を使った。この辺は水の量を見て適当にやっているので、濃い味が好きなら二個使っても良いかもしれない。
コンソメが溶けたら軽く塩と胡椒を振って、完成だ。
一人暮らしの料理の定番、ありあわせ食材で簡単に作れるコンソメスープである。
本当はソーセージとかがあれば一緒に入れたかったのだが、今はそんな食材なんて手元にないし、野菜をたっぷり使ってるからそれなりに食べ応えはあると思う。
肉は街の食品店で調達しても良いのだが、鮮度が微妙な感じなので上手く調理しないと腹を壊すかもしれない。生ものに関しては、必要に応じてフォルテに召喚してもらうことにしよう。
さあ、冷めないうちに頂こう。
俺は召喚された荷物の山から木の器を引っ張り出した。
「これが本当にただの野菜スープなの? こんな美味しいの食べたことない……」
コンソメスープを食べながら、フォルテはびっくりした様子で器に視線を落としていた。
コンソメは旨味が凝縮した日本が誇る調味料だからな。調味料の種類に乏しそうなこの世界ではまず味わうことのない味だろう。
俺にとってはコンソメスープなんて料理のうちにも入らない代物ではあるが、全てが未知の存在である異世界の中に身を置いていると考えると、この何でもない『当たり前の味』が有難かった。
「ハルの世界には、こんなに美味しい料理があるのね……」
「本気になればもっと凄いぞ。肉料理とか、魚料理とか、数え切れないくらいのレシピが俺の世界にはあるからな」
程よく煮崩れたジャガイモを咀嚼しながら、俺は言った。
「それを作るためにはあんたの召喚魔法で呼び出された俺の世界の食材が必要不可欠なんだ。これからも、あんたの魔法を頼りにしてるからな」
「……私、今まで誰かに私の召喚魔法を頼りにされたことなんてなかった。いつも落ちこぼれって言われて、指を指されて笑われてばかりだった」
スープを食べる手を止めて。フォルテは、熱の篭もった眼差しで俺のことを見た。
嬉しそうに──本当に嬉しそうに、笑って。
「ありがとう、ハル。私……頑張るね。ハルのために、たくさん美味しいものを召喚するね」
その笑顔は、伊藤さんが会社で俺に見せていた笑顔に本当にそっくりで。
俺はどきりとして、ごくんと喉を鳴らした。
彼女は伊藤さんではない。顔も声も喋り方もそっくりではあるけれど、全くの別人だ。
でも──彼女を見ていると、思わず心が揺れ動いてしまう。
これは。この気持ちは。何なのだろう?
「──美味しかった。ごちそうさま!」
スープを完食して、満足そうな様子でフォルテは腹を撫でていた。
「明日の朝御飯もハルが作ってくれるんでしょう? 期待していいよね?」
顔を覗き込まれてはっと我に返った俺は、こくこくと頷いて器に残っていたスープを一気に呷った。
「お、おう。任せとけ。びっくりするような美味いもんを作ってやるよ」
「うふふ、楽しみだなぁ」
フォルテは可愛い。御世辞でも何でもなく、そう思う。
彼女の笑う顔を、もっと見てみたい。そのためだったら、料理くらい幾らでも作ってやるさ。
満天の星が輝く空を見上げながら、明日の朝は何を作ろうか……とそんなことを独りごちて俺は遠い目をするのだった。
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