149 / 176
第149話 扉の封印を解け
しおりを挟む
夜が明けて。僕たちは改めて、ゼルニウス遺跡の入口の前に立っていた。
ゼルニウス遺跡は、見た目は継ぎ目のない白い石で造られた全体的に丸みを帯びた構造をしていた。
まるで一枚板のようにがっちりと口を閉ざしている入口の扉の表面には、丸い形の彫り込みがされている。それは太陽のようにも、目玉のようにも見えた。
ぱっと見た感じでは、魔力の封印が施されているようには思えない。ただの閉鎖されている扉って感じだ。
「頼むで、シルカ」
クレハとキクが見守る中、僕は扉の前に立った。
この建物を形成している白い石、間近で見ると素焼きの陶器みたいだ。表面はちょっぴりざらざらしていて、目が細かい。
建物には継ぎ目が全く見当たらないし、一体どうやってこの建物を建てたんだろう?
まあ、それはいいか。今は扉の封印を解く方に集中だ。
僕は扉に彫られている模様に手を触れた。
彫られている溝は結構深い。指の第一関節まで埋まるほどの深さがある。
溝の中はつるつるしており、長いこと風雨に晒されていたであろうに、砂粒などの汚れは一切付着していなかった。
……ん?
模様の中心に目を向けたところで、僕は動きを止めた。
よく見ると──そこには、指先ほどの大きさの丸い覗き窓のようなものがあった。その部分だけ透明な水晶のようなものでできており、光沢を放っている。
覗き込むと、扉に彫られているものと同じ模様の刻印が石の内側に施されていた。
これは、何だろう。何かのスイッチだろうか?
試しに僕はその部分に指先を触れて、魔力を流してみた。
ぱりっ──
魔力が扉の表面を伝って広がっていく。
しかし、それだけだ。何も起こらない。
仮にこの扉が何らかの魔力で封印されているのならそれなりの手応えがあるはずなのだが、それが一切ないということは、この扉は魔力で封印されているものではないということになる。
そうなると、この扉を開くのに必要なのは物質的な鍵──扉に鍵穴の類がないということは、特別な力を持った品が必要だということになる。
鍵が必要な扉となるとお手上げだ。僕の力では開くことができない。
「どうや、開きそうか?」
問うてくるクレハに、僕は溜め息をつきながら答えた。
「駄目だ。この扉を開くには多分『鍵』になるものが要る。魔力で封印されてる扉じゃない」
左手でぐっと扉を押して、遺跡を見上げる。
「魔力で封印されてる扉じゃないなら僕の力で開くことはできない。大人しく鍵を探すしかないな」
「ほんまか……参ったなぁ」
肩を落とすクレハ。
僕は肩を竦めた。
「まあ、仕方ないさ。今回は諦めて帰……」
帰ろう、と言いかけた、その時。
僕の左手の人差し指に填まっていた指輪の宝石に、青く光り輝く紋様が浮かび上がった。
ヴォン……
低い虫の羽音のような音が扉から発せられる。
それと同時に、扉の模様の中心に填まっていた石が青く輝いた。
「!?」
僕たちは目を見開いて扉に注目した。
扉の模様が、波紋を広げるように中心部から青い光を帯びていく。
光が模様全体に広がると、閉ざされていた扉が、ずっと音を立てて動いた。
そして、幕が上がるように開いていったのだった。
え……何が起きたんだ、今の!?
僕は左手の指輪を見た。
指輪の宝石に浮かび上がっていた紋様は消えていた。太陽の光を浴びてきらりと輝いているばかりだ。
まさか……この指輪が鍵なのか?
「……開いたな」
開いた入口を見つめて、クレハは言った。
「何や、シルカ、開くことができたやん! 意地悪いわー。開けられへんなんて言うたりして、ひょっとして中に入るのが嫌で嘘言うたんとちゃうやろな?」
「違う、僕にも何が何だかさっぱり……」
ばんばんと僕の背中を叩いてくるクレハにかぶりを振りながら僕は答えた。
この指輪、人間の目に映らない封印で隠されていた指輪だから特別なものなんだろうとは思ってたが、こんな意味を持つ品だとは思っていなかった。
鍵が人間の目に触れないように隠されていたこの遺跡……一体、中には何があるんだ?
クレハは僕の肩を抱いて、よしっと大きな声を上げた。
「ほな、遺跡に入るで! 中に何があるのか楽しみやな!」
「ちょっと待って、まだ心の準備が……」
僕はクレハに肩を抱かれたまま引っ張られ、遺跡の中に足を踏み入れた。
ああもう……どうか中には複雑な仕掛けはありませんように!
入口の仕掛けのことを考えると、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
ゼルニウス遺跡は、見た目は継ぎ目のない白い石で造られた全体的に丸みを帯びた構造をしていた。
まるで一枚板のようにがっちりと口を閉ざしている入口の扉の表面には、丸い形の彫り込みがされている。それは太陽のようにも、目玉のようにも見えた。
ぱっと見た感じでは、魔力の封印が施されているようには思えない。ただの閉鎖されている扉って感じだ。
「頼むで、シルカ」
クレハとキクが見守る中、僕は扉の前に立った。
この建物を形成している白い石、間近で見ると素焼きの陶器みたいだ。表面はちょっぴりざらざらしていて、目が細かい。
建物には継ぎ目が全く見当たらないし、一体どうやってこの建物を建てたんだろう?
まあ、それはいいか。今は扉の封印を解く方に集中だ。
僕は扉に彫られている模様に手を触れた。
彫られている溝は結構深い。指の第一関節まで埋まるほどの深さがある。
溝の中はつるつるしており、長いこと風雨に晒されていたであろうに、砂粒などの汚れは一切付着していなかった。
……ん?
模様の中心に目を向けたところで、僕は動きを止めた。
よく見ると──そこには、指先ほどの大きさの丸い覗き窓のようなものがあった。その部分だけ透明な水晶のようなものでできており、光沢を放っている。
覗き込むと、扉に彫られているものと同じ模様の刻印が石の内側に施されていた。
これは、何だろう。何かのスイッチだろうか?
試しに僕はその部分に指先を触れて、魔力を流してみた。
ぱりっ──
魔力が扉の表面を伝って広がっていく。
しかし、それだけだ。何も起こらない。
仮にこの扉が何らかの魔力で封印されているのならそれなりの手応えがあるはずなのだが、それが一切ないということは、この扉は魔力で封印されているものではないということになる。
そうなると、この扉を開くのに必要なのは物質的な鍵──扉に鍵穴の類がないということは、特別な力を持った品が必要だということになる。
鍵が必要な扉となるとお手上げだ。僕の力では開くことができない。
「どうや、開きそうか?」
問うてくるクレハに、僕は溜め息をつきながら答えた。
「駄目だ。この扉を開くには多分『鍵』になるものが要る。魔力で封印されてる扉じゃない」
左手でぐっと扉を押して、遺跡を見上げる。
「魔力で封印されてる扉じゃないなら僕の力で開くことはできない。大人しく鍵を探すしかないな」
「ほんまか……参ったなぁ」
肩を落とすクレハ。
僕は肩を竦めた。
「まあ、仕方ないさ。今回は諦めて帰……」
帰ろう、と言いかけた、その時。
僕の左手の人差し指に填まっていた指輪の宝石に、青く光り輝く紋様が浮かび上がった。
ヴォン……
低い虫の羽音のような音が扉から発せられる。
それと同時に、扉の模様の中心に填まっていた石が青く輝いた。
「!?」
僕たちは目を見開いて扉に注目した。
扉の模様が、波紋を広げるように中心部から青い光を帯びていく。
光が模様全体に広がると、閉ざされていた扉が、ずっと音を立てて動いた。
そして、幕が上がるように開いていったのだった。
え……何が起きたんだ、今の!?
僕は左手の指輪を見た。
指輪の宝石に浮かび上がっていた紋様は消えていた。太陽の光を浴びてきらりと輝いているばかりだ。
まさか……この指輪が鍵なのか?
「……開いたな」
開いた入口を見つめて、クレハは言った。
「何や、シルカ、開くことができたやん! 意地悪いわー。開けられへんなんて言うたりして、ひょっとして中に入るのが嫌で嘘言うたんとちゃうやろな?」
「違う、僕にも何が何だかさっぱり……」
ばんばんと僕の背中を叩いてくるクレハにかぶりを振りながら僕は答えた。
この指輪、人間の目に映らない封印で隠されていた指輪だから特別なものなんだろうとは思ってたが、こんな意味を持つ品だとは思っていなかった。
鍵が人間の目に触れないように隠されていたこの遺跡……一体、中には何があるんだ?
クレハは僕の肩を抱いて、よしっと大きな声を上げた。
「ほな、遺跡に入るで! 中に何があるのか楽しみやな!」
「ちょっと待って、まだ心の準備が……」
僕はクレハに肩を抱かれたまま引っ張られ、遺跡の中に足を踏み入れた。
ああもう……どうか中には複雑な仕掛けはありませんように!
入口の仕掛けのことを考えると、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。
女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜
香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。
――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。
そして今、王女として目の前にあるのは、
火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。
「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」
頼れない兄王太子に代わって、
家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す!
まだ魔法が当たり前ではないこの国で、
新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。
怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。
異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます!
*カクヨムにも投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる