アメミヤのよろず屋

高柳神羅

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第149話 扉の封印を解け

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 夜が明けて。僕たちは改めて、ゼルニウス遺跡の入口の前に立っていた。
 ゼルニウス遺跡は、見た目は継ぎ目のない白い石で造られた全体的に丸みを帯びた構造をしていた。
 まるで一枚板のようにがっちりと口を閉ざしている入口の扉の表面には、丸い形の彫り込みがされている。それは太陽のようにも、目玉のようにも見えた。
 ぱっと見た感じでは、魔力の封印が施されているようには思えない。ただの閉鎖されている扉って感じだ。
「頼むで、シルカ」
 クレハとキクが見守る中、僕は扉の前に立った。
 この建物を形成している白い石、間近で見ると素焼きの陶器みたいだ。表面はちょっぴりざらざらしていて、目が細かい。
 建物には継ぎ目が全く見当たらないし、一体どうやってこの建物を建てたんだろう?
 まあ、それはいいか。今は扉の封印を解く方に集中だ。
 僕は扉に彫られている模様に手を触れた。
 彫られている溝は結構深い。指の第一関節まで埋まるほどの深さがある。
 溝の中はつるつるしており、長いこと風雨に晒されていたであろうに、砂粒などの汚れは一切付着していなかった。
 ……ん?
 模様の中心に目を向けたところで、僕は動きを止めた。
 よく見ると──そこには、指先ほどの大きさの丸い覗き窓のようなものがあった。その部分だけ透明な水晶のようなものでできており、光沢を放っている。
 覗き込むと、扉に彫られているものと同じ模様の刻印が石の内側に施されていた。
 これは、何だろう。何かのスイッチだろうか?
 試しに僕はその部分に指先を触れて、魔力を流してみた。
 ぱりっ──
 魔力が扉の表面を伝って広がっていく。
 しかし、それだけだ。何も起こらない。
 仮にこの扉が何らかの魔力で封印されているのならそれなりの手応えがあるはずなのだが、それが一切ないということは、この扉は魔力で封印されているものではないということになる。
 そうなると、この扉を開くのに必要なのは物質的な鍵──扉に鍵穴の類がないということは、特別な力を持った品が必要だということになる。
 鍵が必要な扉となるとお手上げだ。僕の力では開くことができない。
「どうや、開きそうか?」
 問うてくるクレハに、僕は溜め息をつきながら答えた。
「駄目だ。この扉を開くには多分『鍵』になるものが要る。魔力で封印されてる扉じゃない」
 左手でぐっと扉を押して、遺跡を見上げる。
「魔力で封印されてる扉じゃないなら僕の力で開くことはできない。大人しく鍵を探すしかないな」
「ほんまか……参ったなぁ」
 肩を落とすクレハ。
 僕は肩を竦めた。
「まあ、仕方ないさ。今回は諦めて帰……」
 帰ろう、と言いかけた、その時。
 僕の左手の人差し指に填まっていた指輪の宝石に、青く光り輝く紋様が浮かび上がった。
 ヴォン……
 低い虫の羽音のような音が扉から発せられる。
 それと同時に、扉の模様の中心に填まっていた石が青く輝いた。
「!?」
 僕たちは目を見開いて扉に注目した。
 扉の模様が、波紋を広げるように中心部から青い光を帯びていく。
 光が模様全体に広がると、閉ざされていた扉が、ずっと音を立てて動いた。
 そして、幕が上がるように開いていったのだった。
 え……何が起きたんだ、今の!?
 僕は左手の指輪を見た。
 指輪の宝石に浮かび上がっていた紋様は消えていた。太陽の光を浴びてきらりと輝いているばかりだ。
 まさか……この指輪が鍵なのか?
「……開いたな」
 開いた入口を見つめて、クレハは言った。
「何や、シルカ、開くことができたやん! 意地悪いわー。開けられへんなんて言うたりして、ひょっとして中に入るのが嫌で嘘言うたんとちゃうやろな?」
「違う、僕にも何が何だかさっぱり……」
 ばんばんと僕の背中を叩いてくるクレハにかぶりを振りながら僕は答えた。
 この指輪、人間の目に映らない封印で隠されていた指輪だから特別なものなんだろうとは思ってたが、こんな意味を持つ品だとは思っていなかった。
 鍵が人間の目に触れないように隠されていたこの遺跡……一体、中には何があるんだ?
 クレハは僕の肩を抱いて、よしっと大きな声を上げた。
「ほな、遺跡に入るで! 中に何があるのか楽しみやな!」
「ちょっと待って、まだ心の準備が……」
 僕はクレハに肩を抱かれたまま引っ張られ、遺跡の中に足を踏み入れた。
 ああもう……どうか中には複雑な仕掛けはありませんように!
 入口の仕掛けのことを考えると、どうしてもそう思わずにはいられなかった。
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