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第161話 ウスト遺跡
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一日中飛び続けてようやく到着した山脈麓の街は、南の地方らしい特色を備えた街だった。
フリュー地方は一年を通して熱帯の気候の地域なので、住民の服装は暑い場所に相応しい軽装が主だ。
建物も風通しの良い造りをしており、通りには普通の樹木ではなく背の高いヤシの木が生えている。
僕の着ている服は長袖なので、此処にいるとちょっと汗ばんでくる。
脱いでしまえば涼しいかもしれないが、僕の貧相な体を見せられても周囲にとっては迷惑にしかならないだろうから脱ぐのは我慢した。
シャーリーンさんも暑そうな格好をしているのだが、彼女は汗ひとつかかずけろりとしていた。どうなっているんだろう、彼女の体は。
僕たちは宿を取り、そこで一泊した。
汗をかいた時の風呂は気持ちいいね。さっぱりするよ。
地方名物の南国野菜をふんだんに使った料理を堪能し、この日は就寝。
翌日の朝、再び幻獣に乗って山にあるウスト遺跡を目指した。
ウスト遺跡は山の中腹にあり、背の低い木や岩に囲まれるようにしてひっそりと建っていた。
見た目はゼルニウス遺跡とそっくりの白い石でできた建物だ。
入口は同じように閉ざされており、扉には丸い模様が彫り込まれ小さな水晶が填め込まれている。
ゼルニウス遺跡と同じ封印が施された遺跡なら、此処も僕が持つ指輪の力で封印を解くことができるはずだ。
「お願いします」
シャーリーンさんが見守る中、僕は閉ざされている扉に近付いて扉の水晶に指輪を近付けた。
指輪の宝石に青い紋様が浮かび上がり、それに反応した扉の水晶が青く輝く。
扉の模様が光を帯びて強く輝き、ずっと音を立てながら扉は開いていった。
光で満たされた遺跡の中に目を向けながら、シャーリーンさんは言った。
「私たちの目的は、この遺跡の最奥に存在している『天の蒼玉』を手に入れることです」
天の蒼玉とは水晶のような見た目をした品で、全部で二つ存在し、天空神殿への道を開くのに必要な道具であるらしい。
二つ存在するうちのひとつは、既にクレハが手に入れている。何とか彼を探し出し、頼んで譲ってもらおうとシャーリーンさんは言っていた。
クレハの目的は天空神殿を目にすることだから、事情を話せば協力してくれるような気はするが……
「では、参りましょう」
シャーリーンさんを先頭に、僕たちはウスト遺跡に足を踏み入れた。
内部は、外観同様にゼルニウス遺跡と遜色がない造りをしていた。巨大生物の骨の中にいるような見た目の白い通路に、何のために誂えられているのか分からない小部屋の数々。通路を塞いだ石網。
石網に填められている水晶に指輪を翳して道を開き、僕たちは奥を目指して進んでいった。
しかしその歩みは、幾分もせずに止まることになる。
行く手に、僕たちの歩みを妨げる存在が現れたのだ。
それは、一見すると二メートルほどの大きさの蜘蛛みたいな生き物だった。
節のある太い八本の脚に、異様に小さな胴体。頭が何処にあるのかは分からない。何だか脚だけで体が成り立っているような見てくれの代物である。
その生き物は置き物のように通路の中央に佇んでいた。
シャーリーンさんは立ち止まって、言った。
「マンイーターですね」
マンイーター。その昔この遺跡を造った者が遺跡の防衛のために遺跡中に放った人造の魔物なのだという。
その名の通り、近付いた人間を襲って食べる習性を持っているらしい。
そんな物騒な魔物を作るなんて、何を考えてるんだ古代人は。
僕は眉間に皺を寄せてマンイーターから一歩身を退いた。
「倒さなきゃ……進めないよな?」
「恐れる必要はありません。近付かなければ反応しませんので、遠くから魔術で狙撃してしまえば良いのです」
そこまで言って、彼女は僕を見た。
「シルカさん、お願いします」
「何で僕が!?」
僕は反射的に突っ込んでいた。
マンイーターはあの大きさだ。魔術の一撃で葬れるとは考えづらい。仕留め損なった場合、マンイーターは間違いなく僕の方に向かってくるだろう。
いや、それ以前に。
何で当たり前のように僕が戦うみたいな話になっているんだ?
確かに僕は魔術が使えるけど……そのことを自己紹介の時にちょろっとは言ったけど、僕はただのよろず屋の店主なんだぞ。魔物と戦うような人種じゃないんだって。
シャーリーンさんの方が戦うのに相応しい格好をしてるじゃないか。
「無理だって、僕は冒険者じゃなくてただのよろず屋の店主なんだぞ!」
「万が一生き残った場合は私も狙撃します。大丈夫です、貴方ならできます」
「何が大丈夫なのかさっぱり分からないよ!」
僕は吠えてからマンイーターに視線を移した。
マンイーターは相変わらずの様子で通路の中央に佇んでいる。
あれを、一撃で仕留める……あの付いてるんだか付いてないんだか分からないほどに小さな胴体を吹き飛ばしてしまえば倒せるだろうが、僕の魔術の威力でそれができるかどうかは分からない。
……ええい、なるようになれ!
僕は掌をマンイーターに向けて翳した。
「バーストフレア!」
掌の先から生まれた茜色の光が、マンイーターの胴体に突き刺さった。
フリュー地方は一年を通して熱帯の気候の地域なので、住民の服装は暑い場所に相応しい軽装が主だ。
建物も風通しの良い造りをしており、通りには普通の樹木ではなく背の高いヤシの木が生えている。
僕の着ている服は長袖なので、此処にいるとちょっと汗ばんでくる。
脱いでしまえば涼しいかもしれないが、僕の貧相な体を見せられても周囲にとっては迷惑にしかならないだろうから脱ぐのは我慢した。
シャーリーンさんも暑そうな格好をしているのだが、彼女は汗ひとつかかずけろりとしていた。どうなっているんだろう、彼女の体は。
僕たちは宿を取り、そこで一泊した。
汗をかいた時の風呂は気持ちいいね。さっぱりするよ。
地方名物の南国野菜をふんだんに使った料理を堪能し、この日は就寝。
翌日の朝、再び幻獣に乗って山にあるウスト遺跡を目指した。
ウスト遺跡は山の中腹にあり、背の低い木や岩に囲まれるようにしてひっそりと建っていた。
見た目はゼルニウス遺跡とそっくりの白い石でできた建物だ。
入口は同じように閉ざされており、扉には丸い模様が彫り込まれ小さな水晶が填め込まれている。
ゼルニウス遺跡と同じ封印が施された遺跡なら、此処も僕が持つ指輪の力で封印を解くことができるはずだ。
「お願いします」
シャーリーンさんが見守る中、僕は閉ざされている扉に近付いて扉の水晶に指輪を近付けた。
指輪の宝石に青い紋様が浮かび上がり、それに反応した扉の水晶が青く輝く。
扉の模様が光を帯びて強く輝き、ずっと音を立てながら扉は開いていった。
光で満たされた遺跡の中に目を向けながら、シャーリーンさんは言った。
「私たちの目的は、この遺跡の最奥に存在している『天の蒼玉』を手に入れることです」
天の蒼玉とは水晶のような見た目をした品で、全部で二つ存在し、天空神殿への道を開くのに必要な道具であるらしい。
二つ存在するうちのひとつは、既にクレハが手に入れている。何とか彼を探し出し、頼んで譲ってもらおうとシャーリーンさんは言っていた。
クレハの目的は天空神殿を目にすることだから、事情を話せば協力してくれるような気はするが……
「では、参りましょう」
シャーリーンさんを先頭に、僕たちはウスト遺跡に足を踏み入れた。
内部は、外観同様にゼルニウス遺跡と遜色がない造りをしていた。巨大生物の骨の中にいるような見た目の白い通路に、何のために誂えられているのか分からない小部屋の数々。通路を塞いだ石網。
石網に填められている水晶に指輪を翳して道を開き、僕たちは奥を目指して進んでいった。
しかしその歩みは、幾分もせずに止まることになる。
行く手に、僕たちの歩みを妨げる存在が現れたのだ。
それは、一見すると二メートルほどの大きさの蜘蛛みたいな生き物だった。
節のある太い八本の脚に、異様に小さな胴体。頭が何処にあるのかは分からない。何だか脚だけで体が成り立っているような見てくれの代物である。
その生き物は置き物のように通路の中央に佇んでいた。
シャーリーンさんは立ち止まって、言った。
「マンイーターですね」
マンイーター。その昔この遺跡を造った者が遺跡の防衛のために遺跡中に放った人造の魔物なのだという。
その名の通り、近付いた人間を襲って食べる習性を持っているらしい。
そんな物騒な魔物を作るなんて、何を考えてるんだ古代人は。
僕は眉間に皺を寄せてマンイーターから一歩身を退いた。
「倒さなきゃ……進めないよな?」
「恐れる必要はありません。近付かなければ反応しませんので、遠くから魔術で狙撃してしまえば良いのです」
そこまで言って、彼女は僕を見た。
「シルカさん、お願いします」
「何で僕が!?」
僕は反射的に突っ込んでいた。
マンイーターはあの大きさだ。魔術の一撃で葬れるとは考えづらい。仕留め損なった場合、マンイーターは間違いなく僕の方に向かってくるだろう。
いや、それ以前に。
何で当たり前のように僕が戦うみたいな話になっているんだ?
確かに僕は魔術が使えるけど……そのことを自己紹介の時にちょろっとは言ったけど、僕はただのよろず屋の店主なんだぞ。魔物と戦うような人種じゃないんだって。
シャーリーンさんの方が戦うのに相応しい格好をしてるじゃないか。
「無理だって、僕は冒険者じゃなくてただのよろず屋の店主なんだぞ!」
「万が一生き残った場合は私も狙撃します。大丈夫です、貴方ならできます」
「何が大丈夫なのかさっぱり分からないよ!」
僕は吠えてからマンイーターに視線を移した。
マンイーターは相変わらずの様子で通路の中央に佇んでいる。
あれを、一撃で仕留める……あの付いてるんだか付いてないんだか分からないほどに小さな胴体を吹き飛ばしてしまえば倒せるだろうが、僕の魔術の威力でそれができるかどうかは分からない。
……ええい、なるようになれ!
僕は掌をマンイーターに向けて翳した。
「バーストフレア!」
掌の先から生まれた茜色の光が、マンイーターの胴体に突き刺さった。
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