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Epilogue

お姉ちゃんはドラゴンで妹はスライム、そして私は

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 私のジョブ、テイマーのグレードアップは3種類に派生していた。

 ひとつ目、モンスターアームド・テイマー。
 このジョブは、使用武器に設定する魔物とは別に、数体の魔物を武装化した状態でアイテムとして所持しておくことが可能だ。
 探索や戦闘時に、魔物ごとに効果の異なるその武装を使用できる。
 いろいろな組み合わせを試すことが面白そうなジョブだ。

 ふたつ目、シンクロナイト・テイマー。
 魔物を使用武器とする枠にプラスして、通常の武器種を使用武器に設定できる枠が増える。
 攻撃系のスキルを覚えられることも強いが、特に注目すべきは魔物とのシンクロ率が表示され目に見えるようになることだ。
 魔物とともに戦うときに、このシンクロ率によってステータスに補正がかかったり特殊なスキルを使用できたりするらしい。

 そして、みっつ目がテイムマスターだ。
 魔物を使用武器に設定する枠が、いままで一つだったところ二つになる。
 シンクロナイト・テイマーと異なり攻撃系のスキルは使えなくても、二体の魔物と同調したときの性能はそれを補って余りあるだろう。
 それに、“魔物が装備している武器は同調すれば使える”っていう裏技もあるからね。

 私は、リリエラがいっしょに来ると言ってくれたときに、テイムマスターを選択していた。

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【使用武器2】にリリエラ・ホーリードラゴンを設定しますか?

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 黒い画面の問いかけに、“はい”と答える。
 しゅんと黒い画面が消え、無事にリリエラを使用武器に設定することができたようだ。

「これからよろしくね、リリエラ」

 顔に抱きつくようにして手を伸ばして、リリエラの頭をよしよしと撫でる。
 反対側から、スラリアも同じようにしていた。
 スラリアとしては妹ができたみたいな感じなのかな、それとももっと淡泊?
 今度機会があったら、こっそり聞いてみよう。

「ふむ、とりあえずママに会わせるのじゃ、それからじゃないと……ぬぅ?」

 軽く首を振って、私たちをあしらうリリエラ。
 しかし、なにか気になることでもあったのか、遠ざけた私の顔に自分から近づいてじっと見つめてくるのだ。

「……おぬし、めちゃくちゃママに似とらんか?」

 できの悪いナンパみたいに、リリエラはつぶやく。

 なるほど、スラリアもそうだったが、魔物を使用武器に設定するとプレイヤーの属性を与えられるようになるのか、私がリリアにそっくりだと認識するようになるのだ。
 実際、さっきまでリリエラはそんな素振りを見せていなかったし。
 他にも、リリアリア・ダガーとかリリア教が存在するのに、私の名前についてリリア以外のNPCが言及してきたことは一度もなかった。
 いや、確かPvPの闘技大会の実況、天使ちゃんだけは私がリリアに似ていると言っていたかな。
 まあ、あれはおそらく興行的な目的として都合がよかったからだろう。

「身体は貧相でちんちくりんのマッチ棒なのに、顔はママにしか見えん……ううむ、なぜじゃ……?」

 どう説明したものかと悩んでいると、リリエラはそう言って、私が許せるラインを三段飛ばしで越えた。
 特に悪気はなさそうであることが、余計にたちが悪い。

「リリエラ、ママに会わせてあげるから、ひとつ約束しなさい」

 怒気を抑えて――別に殴りかからないようにするためではないが――腕を組み、静かに語りかける。
 雰囲気が変わったことに気づいたのか、リリエラはおとなしく聞いていた。

「今後、私のことをグラマラスでぼんきゅっぼんの大人の魅力溢れる女性だと思い込むこと」

 自分で言っていて虚しくはない、私は真剣だ。
 それに、言葉には不思議な力が宿るのだから、“貧すればもっと育たぬ”なのだ。

「ぼんきゅっぼん?」

 隣から、知らない言葉を繰り返すスラリアの声があがる。
 ちょっと待ってね、あとで説明してあげるから。

「よ、よくわからんが、約束するのじゃ」

 呆れているからかそれとも威圧されたからか、リリエラは少したじろいでいた。
 約束するというなら、いまのところは許してあげようかな。

「よろしい。あと、これは約束じゃないんだけど、あなたのその大きな身体、なんとかなったりしない?」

 リリエラの全身を見上げるために、後退あとずさりながら聞いてみる。
 中型トラックを連れ回すような感じになるので、リリアのいる白い空間はともかく、このままだと街中とかが歩きづらい。

「そこのスライム、スラリアだったかの? 同じように人型になればいいのじゃ?」

「えっ、できるの? 見たい見たいっ」

 事もなげに、スラリアを翼で指して言うリリエラ。

 どんな風貌になるのだろうか、口調は長老って感じだけど声音は可愛い女の子だし、意外なところで綺麗なお姉さんとか?
 いや、あまり期待しすぎるのもよくないか。
 もしかしたら、ドラゴンをそのままヒトの形にしたようなのが出てくるかもしれないし。

 そんな風にあれやこれや考えているうちに、リリエラが真っ白な光にぱっと光り輝いた。
 そして、徐々に光が小さくなっていき、やがて人間大になる。

「ほれ、これでいいじゃろ?」

 一瞬だけ強く光を放ったあと、そこに現れたのはひとりの少女だった。
 綺麗な白髪を頭の後ろで束ね、その左右からはドラゴンを思わせる角が生えている。
 まだあどけなさを残す顔は超絶可愛いとしか言いようがなく、神子さんのような白い小袖と紅い袴の服装によく似合っていた。
 背丈は私と同じぐらいだけど、見た目の印象はずっと幼いかな。

「ありゃ? よくなかったかの……?」

 私が見とれて黙ったままだったから、リリエラは不安そうに首を傾げる。
 まずいぞ、可愛すぎる。

「ええと、そうねぇ……」

 本来であれば、すぐに「いいよ、可愛いよ」と言ってあげるべきだ。
 しかし、リリエラの頼りなさげに揺れる表情は、もう少し見ていたいと思ってしまう魅力的なもので。

 結果としていじわるしたみたいになって、ごめんね。
 しばらくの間、私は不安そうなリリエラを眺めながら葛藤していたのだった。
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