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真相と決着 2
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なんでわかってくれないの? とでも言うような言葉に、重いため息をついた。
確かに、あの頃の真白は一人になりたくなかった。
だから、誰かの代わりにされても誰かがそばにいてくれることを望んだ。一人でいれば嫌なことが起こる。それが常だったから。
害がないなら、それでみんなが喜ぶのならそれで良かった。誰かに誰かを重ねてでも悲しみを埋めたくなる気持ちもわかったし。真白もそれで助かっていたから。
アキと付き合いだしたのだって、気が合うし、一緒にいてくれるならいいかと思ったからだ。そして次第に誰かの代わりじゃなく"如月真白"を好きだと言ってくれるアキに惹かれ、自分をちゃんと見てくれる彼に恋をした。
ーーでも。
「ーー君…いや、あんたは俺を見ていない」
「私は真白様をずっと見てました! だからこそ、間違いを正さないと…とっ!」
「あんたが見てるのは"真白様"であって"俺"じゃない」
きっぱり言うと、彼女は顔をしかめて首をひねる。
「何言ってるの? 真白様は真白様よ? なんでそんなこと言うの? そんなの真白様らしくないわ!」
「アキはちゃんと俺を見てくれた。どんな俺でもちゃんと受け入れてくれたし、優太達だって、俺を誰かに重ねても誰かになるように強要してきたことは一度もない!」
巻き戻って、真白は少しわがままになった。
アキに見栄を張ってみたり、優太を積極的に兄扱いしてみたり、やんわり違うと否定してみたり、今までの真白ならしたことがなかったことをしてきた。けれど、それを誰も責めたりしなかったし、今までと何も変わらずに接してくれた。
「あんたが言うみんなは、あんたとは違う」
「うるさい、うるさい、うるさい!! そんなこと真白様が言うわけない! そんなの真白様じゃない! なんで私の理想でいられないの? 私の理想でいられないなら、あんたに価値なんかない!!」
すっと彼女はカバンから小ぶりのナイフを取り出した。
「消えて、私の前から消えて!」
思っていた感じとだいぶ違ったが、覚悟していた最悪の事態にはなったと眉をひそめる。
「避けないで、避けたり反撃したら倉沢アキを殺すわよ!」
「ッ!!」
彼女の本気の目に動きを止める。
全部自分のせいだった。
アキは脅されていたと言っていたから、きっと毎回こんな風にわけのわからないことをまくし立てられて理不尽なことを言われてきたのだろう。それをずっと耐えてくれていたのに…。
なのに自分はアキのことを疑って、勝手になんだかんだとやらかして、好きな人ができたから別れろと迫った…。そんなの怒るに決まっている。
あの一年は、アキにとって辛いものだったのかもしれない。
監禁されて乱暴されたのは悲しかったけど、そうでもしなければ耐えられないぐらい傷つけてしまった結果なのかもしれない。
ーーなら、俺は…。
目をつぶり、真白は棒立ちになった。
一度は死んだ命。
これでこいつを刑務所に送れるなら…、アキを守れるならそれでいい。
「ごめんな、アキ…」
ずっと一緒にいるという約束は守れそうにない。
こんな身勝手な奴なんて忘れて、アキのことを一番わかってくれる人と幸せになって…。
「真白」
柔らかい声と共にふわりと温かいものに包まれ、目を開ければ優しい顔で笑う愛しい人がいる。
「今度は、間に合った…」
ゆっくり崩れ落ちるアキの身体を支え、その背中を見るとナイフが突き刺さっていた。
「なにやって…っ!? なんでこんな無茶なことをーー…っ!!」
「真白を失いたくなかっーー…」
「しゃべるな! いま救急車呼ぶから!!」
震える手でスマホを取り出し、救急車を呼ぶうちに彼女は我に帰って逃げ出した。しかし、そんなのに構う余裕などなく、俺はアキに選んでもらった白いジャケットで祈るように傷口を押さえ続けた。
サイレンの音がすぐそこにくるまで、赤く染まっていくジャケットから目を反らすことなく、ずっと…。
確かに、あの頃の真白は一人になりたくなかった。
だから、誰かの代わりにされても誰かがそばにいてくれることを望んだ。一人でいれば嫌なことが起こる。それが常だったから。
害がないなら、それでみんなが喜ぶのならそれで良かった。誰かに誰かを重ねてでも悲しみを埋めたくなる気持ちもわかったし。真白もそれで助かっていたから。
アキと付き合いだしたのだって、気が合うし、一緒にいてくれるならいいかと思ったからだ。そして次第に誰かの代わりじゃなく"如月真白"を好きだと言ってくれるアキに惹かれ、自分をちゃんと見てくれる彼に恋をした。
ーーでも。
「ーー君…いや、あんたは俺を見ていない」
「私は真白様をずっと見てました! だからこそ、間違いを正さないと…とっ!」
「あんたが見てるのは"真白様"であって"俺"じゃない」
きっぱり言うと、彼女は顔をしかめて首をひねる。
「何言ってるの? 真白様は真白様よ? なんでそんなこと言うの? そんなの真白様らしくないわ!」
「アキはちゃんと俺を見てくれた。どんな俺でもちゃんと受け入れてくれたし、優太達だって、俺を誰かに重ねても誰かになるように強要してきたことは一度もない!」
巻き戻って、真白は少しわがままになった。
アキに見栄を張ってみたり、優太を積極的に兄扱いしてみたり、やんわり違うと否定してみたり、今までの真白ならしたことがなかったことをしてきた。けれど、それを誰も責めたりしなかったし、今までと何も変わらずに接してくれた。
「あんたが言うみんなは、あんたとは違う」
「うるさい、うるさい、うるさい!! そんなこと真白様が言うわけない! そんなの真白様じゃない! なんで私の理想でいられないの? 私の理想でいられないなら、あんたに価値なんかない!!」
すっと彼女はカバンから小ぶりのナイフを取り出した。
「消えて、私の前から消えて!」
思っていた感じとだいぶ違ったが、覚悟していた最悪の事態にはなったと眉をひそめる。
「避けないで、避けたり反撃したら倉沢アキを殺すわよ!」
「ッ!!」
彼女の本気の目に動きを止める。
全部自分のせいだった。
アキは脅されていたと言っていたから、きっと毎回こんな風にわけのわからないことをまくし立てられて理不尽なことを言われてきたのだろう。それをずっと耐えてくれていたのに…。
なのに自分はアキのことを疑って、勝手になんだかんだとやらかして、好きな人ができたから別れろと迫った…。そんなの怒るに決まっている。
あの一年は、アキにとって辛いものだったのかもしれない。
監禁されて乱暴されたのは悲しかったけど、そうでもしなければ耐えられないぐらい傷つけてしまった結果なのかもしれない。
ーーなら、俺は…。
目をつぶり、真白は棒立ちになった。
一度は死んだ命。
これでこいつを刑務所に送れるなら…、アキを守れるならそれでいい。
「ごめんな、アキ…」
ずっと一緒にいるという約束は守れそうにない。
こんな身勝手な奴なんて忘れて、アキのことを一番わかってくれる人と幸せになって…。
「真白」
柔らかい声と共にふわりと温かいものに包まれ、目を開ければ優しい顔で笑う愛しい人がいる。
「今度は、間に合った…」
ゆっくり崩れ落ちるアキの身体を支え、その背中を見るとナイフが突き刺さっていた。
「なにやって…っ!? なんでこんな無茶なことをーー…っ!!」
「真白を失いたくなかっーー…」
「しゃべるな! いま救急車呼ぶから!!」
震える手でスマホを取り出し、救急車を呼ぶうちに彼女は我に帰って逃げ出した。しかし、そんなのに構う余裕などなく、俺はアキに選んでもらった白いジャケットで祈るように傷口を押さえ続けた。
サイレンの音がすぐそこにくるまで、赤く染まっていくジャケットから目を反らすことなく、ずっと…。
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