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第三章 印刷戦線
第41話 作戦会議はディナーとともに
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◆
「――ということがありまして」
「トラブルを呼び込む天才かな?」
失礼なことを言うオルトの足を、絢理はテーブルの下で蹴り飛ばした。
ぐおっと呻くオルトは無視して、絢理はテーブルに並べられた豪勢な夕食に舌鼓を打つ。
ホワイトソースのかかったムニエルは絶品だった。昼間の疲れも吹き飛ぶというものだ。
ここはエーデロクソス、その夕食会場。
日が沈む頃にようやく宿に戻ってきた絢理は、オルトと合流していた。
しかしそこにもう一人、あるべき姿はなかった。
「タビタさん、大丈夫ですかね」
「三日って期限を設けられた以上、逆にその三日間は大丈夫だと思うんだけどね……」
返答するオルトの声にも、あまり自信は伺えない。
顛末を話して聞かせる前、絢理もオルトから同様に話を聞いていた。
結論から言えば、タビタ・エックホーフは大森林ヴィスガルドに人質として捕縛された。
彼女だけではない。ファーデン子爵も同様である。二人の要人を預かることを条件に、黒髪のエルフ・イニアス・メーはようやく三日間の猶予を認めたのだった。
犯人を探そうにも、手がかりは少ない。
今日ファーデンに到着したばかりの絢理とオルトが、十万を超える人口の中から容疑者を絞り出すことなど、実質不可能だろう。
「私は名探偵じゃなくて、印刷のオペレーターなんですけどね……」
兎にも角にも腹ごしらえだ。
腹が減っては戦はできぬと言うが、まさか本当に戦になりかねない事態に巻き込まれるとは、生前思ってもみなかった。
「にしても絶品ですね、高いだけあります。持つべきはお金持ちの主人ですね」
「それにしても高すぎるけどね」
支払いはエックホーフ家の財布から出ているから、オルトも遠慮なく食事を進めているものの、相場とは乖離していた。
「そうなんですか?」
「最近、エルフからの税の取り立てが酷くなってるらしいんだよ。原価高騰に結びついて、この料理も三割増くらいの金額になってるかな」
「増税?」
絢理は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。まさかファンタジー世界でもそんな事情を聞くとは思わなかった。
「どこも世知辛いですねー」
「大河川クニベルタは、ヴィスガルドを挟んだ北側に流れてるんだ。そこから支流を引いてファーデンに運河を通したのが交易が盛んになったそもそもの理由でね。だから、運河を利用した全ての取引に税が課されてるんだ」
「それはそれは儲かって仕方ないでしょうね、エルフのイメージ今日だけでめっちゃ変わりましたよ」
げんなりする。口直しをするようにパスタを頬張る。めっちゃ美味しい。
「そこから更に増税なんて、何をそんなに溜め込んです?」
「さあね。子爵も大変嘆いていたけど、その理由はエルフからも明かされてない」
「知らねーんですか。中途半端に知識ひけらかさないでちゃんと解説役してくださいよ。何のために連れてきてると思ってるんです」
「君たちが拉致したんだよね?」
無視した。
雑な扱いなどいつものことだと言うのに、オルトはしっかりと肩を落としてくれる。
噂でしかないけど、と彼は続けた。
「グーテンベルク王が関連してるらしいとは聞いてるよ」
「また例のチーレム王ですか」
「チーレムは相変わらず分からないけど、彼の治世によって、王都はどんどん軍事力を増強してる。高位存在であるエルフでもとうとう無視できなくなってきた。対抗措置として、増税による地方都市の衰退と自身の軍備拡張を狙っている――っていうのが、子爵の読みではあったね」
「どこもやってること変わんないんですね」
<続>
「――ということがありまして」
「トラブルを呼び込む天才かな?」
失礼なことを言うオルトの足を、絢理はテーブルの下で蹴り飛ばした。
ぐおっと呻くオルトは無視して、絢理はテーブルに並べられた豪勢な夕食に舌鼓を打つ。
ホワイトソースのかかったムニエルは絶品だった。昼間の疲れも吹き飛ぶというものだ。
ここはエーデロクソス、その夕食会場。
日が沈む頃にようやく宿に戻ってきた絢理は、オルトと合流していた。
しかしそこにもう一人、あるべき姿はなかった。
「タビタさん、大丈夫ですかね」
「三日って期限を設けられた以上、逆にその三日間は大丈夫だと思うんだけどね……」
返答するオルトの声にも、あまり自信は伺えない。
顛末を話して聞かせる前、絢理もオルトから同様に話を聞いていた。
結論から言えば、タビタ・エックホーフは大森林ヴィスガルドに人質として捕縛された。
彼女だけではない。ファーデン子爵も同様である。二人の要人を預かることを条件に、黒髪のエルフ・イニアス・メーはようやく三日間の猶予を認めたのだった。
犯人を探そうにも、手がかりは少ない。
今日ファーデンに到着したばかりの絢理とオルトが、十万を超える人口の中から容疑者を絞り出すことなど、実質不可能だろう。
「私は名探偵じゃなくて、印刷のオペレーターなんですけどね……」
兎にも角にも腹ごしらえだ。
腹が減っては戦はできぬと言うが、まさか本当に戦になりかねない事態に巻き込まれるとは、生前思ってもみなかった。
「にしても絶品ですね、高いだけあります。持つべきはお金持ちの主人ですね」
「それにしても高すぎるけどね」
支払いはエックホーフ家の財布から出ているから、オルトも遠慮なく食事を進めているものの、相場とは乖離していた。
「そうなんですか?」
「最近、エルフからの税の取り立てが酷くなってるらしいんだよ。原価高騰に結びついて、この料理も三割増くらいの金額になってるかな」
「増税?」
絢理は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。まさかファンタジー世界でもそんな事情を聞くとは思わなかった。
「どこも世知辛いですねー」
「大河川クニベルタは、ヴィスガルドを挟んだ北側に流れてるんだ。そこから支流を引いてファーデンに運河を通したのが交易が盛んになったそもそもの理由でね。だから、運河を利用した全ての取引に税が課されてるんだ」
「それはそれは儲かって仕方ないでしょうね、エルフのイメージ今日だけでめっちゃ変わりましたよ」
げんなりする。口直しをするようにパスタを頬張る。めっちゃ美味しい。
「そこから更に増税なんて、何をそんなに溜め込んです?」
「さあね。子爵も大変嘆いていたけど、その理由はエルフからも明かされてない」
「知らねーんですか。中途半端に知識ひけらかさないでちゃんと解説役してくださいよ。何のために連れてきてると思ってるんです」
「君たちが拉致したんだよね?」
無視した。
雑な扱いなどいつものことだと言うのに、オルトはしっかりと肩を落としてくれる。
噂でしかないけど、と彼は続けた。
「グーテンベルク王が関連してるらしいとは聞いてるよ」
「また例のチーレム王ですか」
「チーレムは相変わらず分からないけど、彼の治世によって、王都はどんどん軍事力を増強してる。高位存在であるエルフでもとうとう無視できなくなってきた。対抗措置として、増税による地方都市の衰退と自身の軍備拡張を狙っている――っていうのが、子爵の読みではあったね」
「どこもやってること変わんないんですね」
<続>
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