噂の補佐君

さっすん

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……どうしよう。

俺は心の中で深い深いため息をついた。

完全にやらかした……。

時は変わり放課後。
俺はいつも通り生徒会にいるのだが、今日は敦先輩と悠先輩に企画書を見てもらう約束がある。
二人に会いに行く、と言ったらまた面倒な事になるのが目に見えている。
だから、役員の方が来る前にパソコンを持ち出そうと思ったのだが、今日にかぎってホームルームが長引き、俺が生徒会室に着いた時には既に先輩全員揃っていた。
いつもサボってばかりの岩下先輩も珍しくいた。
皆さん黙々とパソコンに向かって仕事をしている。

抜け出しづらい……。

こうやって悶々と悩んでいる間も刻々と時間は過ぎている。

……敦先輩達を待たせる訳にはいかない。

俺は意を決してパソコンを持って立ち上がる。
それに対し、全員が反応した。

「晴。どこに行くんだ」

じとっと会長に見られ俺は言葉に詰まる。

な、なんて答えよう……。

「トットイレに……」
「トイレにパソコンを持って行くんですか?」

副会長から鋭い目と質問が送られる。

「そ、その……」

副会長から目線を逸らし、考える。

こ、こういう時は強行突破だ……!!

ダッと駆け出し、生徒会室のドアに向かう。
しかし、空先輩と海先輩が立ちはだかり、出口を塞ぐ。
どうしようか、と焦っていると、両腕が重くなった。
見ると右腕を必死な顔の中尾先輩が、左腕をニコニコとしている岩下先輩が掴んでいた。

「晴、どういう事ですか」

副会長の声だ。
後ろからだが、表情は予想出来る。
とても冷ややかな笑みを浮かべているだろう。

八方塞がり。
詰んだ……。

グイグイソファーに連れていかれ中尾先輩、俺、岩下先輩の順で座る。
もちろん腕は掴まれたまま。
机を挟んだ正面に会長が、俺の右斜め前に空先輩、左斜め前に海先輩が座っている。
副会長は空先輩の隣で立っている。

「俺達に言えない事なのか」
「い、言えない事はないのですが……」

会長の質問に素直に答える。

うん、言えない事ではない。
ただ、言うと面倒な事になる。

俯いてなるべく生徒会の面々が視界に入らないようにする。

「俺等に隠し事なんて悪い子だなぁ、晴君は」

岩下先輩のいつもより数段低い声が耳に届き、タラ、と冷や汗が流れる。

「晴君、言っちゃった方が楽になるよ?」
「早く言え、晴」

空先輩と海先輩がそう言う。

なんか俺犯罪を犯して事情聴取されてるみたいだ……。

「晴……。言えないの……?」

うっ、中尾先輩のその声はアウト!
そんな寂しそうに言われたら罪悪感が半端ない!!

「……言ったら絶対怒るじゃないですか」
「既に俺は怒っているし、内容によるな」

会長らしい返答である。

絶対に言えない。
生徒会の皆さんは生徒会役員である俺が風紀委員と仲良くする事を好ましく思っていない訳で。
これ以上風紀と生徒会の仲が悪くなると困るんだ。
あぁ、俺はどうすればいいんですか、神様……!

とその時、俺のポケットの携帯が震動した。
俺はポケットに手を突っ込み、携帯を取り出して画面を確認する。

うわ……。

表示された名前は今最も気まずいものであった。

「[敦先輩]ねぇ……」

画面を覗き込んだ岩下先輩が名前を読み上げた。
それに先輩方がピクッと反応した。

と、とりあえず出よう……。

視線が痛いが気付かないフリをして電話に出る。

「も、もしもし……」
「今どこにいるんだ?」
「す、すみません。まだ生徒会室なんです……」
「もしかして都合悪い?それなら全然別日にしていいんだよ?」

悠先輩の優しい声に気が緩む。
しかしそれも一瞬で、スッと伸びてきた手に携帯を抜き取られた。
びっくりして顔を上げると、立ち上がった会長が険しい顔で俺の携帯を持っていた。

「ちょ、返してくださいっ」

立ち上がろうとした俺を両サイドの中尾先輩と岩下先輩が阻む。

待って。
嫌な予感しかしないってば!!

「おい、古賀。お前晴と何を話しているんだ」
「……片岡。それは晴の携帯のはずだが、何故お前が出る」

念のため言うと、古賀は敦先輩の、片岡は会長の名字である。

「そんな事はどうでもいいんだよ。
晴は生徒会の役員なんだ。
風紀委員お前等は関わるな」
「それは無理な話だな。
今日は晴と約束がある」
「やっぱり古賀関係かよ。晴が言わねぇ訳だな」

バレてしまった……。
あぁもう!
なんか禍禍しい雰囲気になって来たんだけど!

「あのさ」

突然声が変わり、会長が少し驚いたような顔をした。
声の主は悠先輩である。

「いちいち絡んで来ないでくれないかな。
そもそも晴が僕達と関わろうが君達関係ないよね?」
「関係ある。
晴は生徒会役員だからな。
お前等、晴を獲られたからといって俺達に喧嘩を売るのは筋違いだろ」
「はあ?
権力にもの言わせて強引だったくせによく言うね」

俺はハラハラとしながら会長を見つめる。
細かく言えば会長が持つ俺の携帯を見つめる。
どんどんヒートアップする言い合いにどうすればいいのか、と考え込む。

すると突然ガチャ、と生徒会室のドアが開いた。
ノックもなしに。
驚いたのは俺だけでなくて、全員そちらを向く。

「あ、敦先輩、悠先輩……」

入って来たのはその二人だった。

な、なんで……。

「このまま電話で話しても埒があかない。
晴は連れていく」
「そんな事させませんが」
「風紀委員長、顔怖いよ?」
「そんなんだったら晴にも逃げられるぞ」

敦先輩と副会長、空先輩、海先輩が対峙する。

なんだか異様な組み合わせである。

「晴。おいで」

悠先輩に優しく微笑みかけられるが、動こうにも腕を掴まれていて動けない。

「悠く~ん。晴は渡さないよ?」
「晴、行かせない……!」

へらへらしているが、言動は全くへらへらしていない岩下先輩。
珍しく鋭く睨む中尾先輩。

……っ、もうこんな空気耐えられない!!

「あのっ!!」

俺は今日一番の大きな声を上げた。
今度は俺に全員の視線が寄せられる。

「仲良くしろ、なんて言いませんが、せめて新歓が終わるまで協力しましょう」
「無理だ」

ちょっ、会長そんなすぐに否定しなくても……。

「新歓は生徒会と風紀、その他の委員との協力は不可欠です。
こんなんじゃ失敗してしまいます。そんなの、ダメです」
「そんな事ないでしょう。
今までだってなんとかなったのですから」

副会長!
予想ですけど、今年の生徒会と風紀の仲は過去最低だと思います!!

こうなったら……。

「こんな状態が続くのであれば、俺は生徒会を辞めます。
それから、風紀とも完全に関係を断ちます」

ピクッと全員が反応した。

「いやいやいや、原則生徒会補佐って一年間務めあげる事になってるんだから、辞めるなんて無理でしょ」

ははは、岩下先輩がおかしそうに笑う。

「無理ではありません。
俺は、本気です」

スパッと言い切ると岩下先輩の表情が固まった。

そもそも、俺だって不仲の原因なんだ。
俺が両方と関係を持ってるからいけないんだ。
俺がどちらとも関係を断ち切ってしまえば、今よりはましになるはずだ。

しばらくの沈黙。
それを破ったのは会長のめちゃくちゃ深いため息だった。

「分かった。努力してやろう。
お前に辞められちゃ困るからな」
「会長、しかし……!」

副会長は会長を止めようとしたが、その先の言葉は出てこず、黙ってしまった。

「言っておくが、仲良くする訳じゃねぇ。
問題は起こさねぇっつぅ事だからな」
「分かっている」

会長の喧嘩腰の言葉を敦先輩は無表情で受け流した。

……というか、敦先輩も悠先輩も自ら問題起こそうとはしてないよな。
生徒会が悪いんじゃん……。
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