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Dune 04
しおりを挟む爆音。轟音。銃声。耳鳴り。
ここは酷く暴力的な音ばかりが圧倒している。乾いた土地は、帰る星の色と似ているけれど、あの場所よりずっと、此処は遥かに荒れたところだ。
「第弐中隊! 援護しろ!」
第壱中隊から怒鳴るような指示が飛ぶ。通信なのだからそう叫ばなくていいのだが、戦場では周りの音が激しすぎてつい大声になってしまうものだ。俺たちは指示に従って、先を走り出した第壱中隊の援護に回る。
弾丸の飛び交う中を、兵士が走っていく。何人かは倒れ、それを誰かが運び、衛生兵が来る。しかし助けようとした兵士もまた撃たれてしまう。効率が悪いと思う。見捨てればいいのだろう。それでも、同じ戦場で生きていると、それができない感情もあった。
白兵戦用機があるのだから、そっちの部隊だけに任せておけばいいのだという者は多い。生身の人間がやらなくてもいいだろうと。けれどそんなに簡単じゃない。少しでも軍力を上げようと、機体が足りない分は捨て駒で埋める。ずっとそうしてきた。戦闘機や軍艦の性能がいくら上がろうと、生身で銃を撃つ人間がいなくなったことはない。武器が一瞬にして、宇宙同時に消失すれば、あるいは戦争もなくなるだろうか。
星と星の紛争を止めるのだと言って、俺達は駆り出されてきた。あまりにも不完全な正義を建前に、人を殺しに行くのだ。
だけど正義や大義名分なんて、俺にはどうでもいいことだ。俺はただ、軍務で食べていくのを選んだだけのことだ。それでもこの銃口が、悪に向いていればいいのにと、思う。今より時代を良くするために、死んでいく命だと信じられたらいいのにと、願う。そんなはずはないと冷えた頭の底では理解していても。
「フォービア…!」
次は自分達の移動だった。爆撃をなんとか免れて、隊員達と塹壕を出ようとした時、隣の兵士に腕を捉まれた。
「トッド、撃たれたのか…!?」
見慣れた同僚の顔は蒼白で、片手で胸を押さえていた。白い手は赤く染まっている。
「衛生兵…!」
分が悪すぎる。第壱中隊だって何人死んだかわからない。衛生兵はどの程度動ける? 考えている間にも銃弾が服を掠めた。
「トッド、すぐ衛生兵が来るから。もう少しの辛抱だぞ」
トッドの手の上から傷口を抑えて、そう微笑いかける。しかし場所も悪い。これでは、助からない。たとえ衛生兵が、来たとしても連れ出せない。
「衛生兵!!」
「どうした」
もう一度叫んだ時、突然塹壕に滑り込んできた人を見て、無性に安堵した。
「レイノルズ隊長…」
「フォービア、お前は平気か」
隊長は一瞬眉を顰めてトッドを見ると、銃創を見ながら確認を取った。トッドはもう意識を失っている。
「平気です」
そう答えた時、そうか、と返事をしながら隊長が小銃をホルスターから取り出したので、俺は血の気が引いた。
「たい、」
銃声。
止めようとした手が、腕を掴む前に。迷い無く隊長の銃はトッドの頭を破裂させた。
隊長、待ってください。彼とは随分長く居たんです。何度も同じ戦地を抜けてきた。――そう止める暇も無かった。
「行くぞ。他の連中はもうS地点に到着しているだろう。今回は分が悪すぎる。もたもたしていると囲まれるぞ」
「…はい。」
一度だけ瞼を閉じて、もう一度開いた時には全てを割り切っていた。彼は助からなかったのだ。こんな状況で運び出せない。敵に嬲り殺されるより、良かったはずだ。よくある、ことだ。こんなこと。前にもあっただろう。何度もあったろう。
隊長は顎で行く先を指す。
「先に行け。援護する」
飛び交う銃弾の中を、走る。次は俺かもしれないと思いながら。それでも構わないと思いながら。
けれどむざむざ死ぬようなことはしない。俺の帰りを待つ唯一の少年がいる。それは、諦めていいことじゃない。もう会わないと頭で何度言い聞かせても、心は了解しなかった。もう一度会いたいと、これで最後になってもいいから、もう一度だけと、何度も思って潜り抜けてきた。どうしてだろう。どれだけ酷い景色を見ても、侵されることのないところに、彼は居た。永遠に彼の目に、こんな景色が触れないように、俺が全て消滅させてしまいたい。戦地の全てを破壊して、そんなものは無いんだと、世界を捧げたい。俺の手がどれだけ血に汚れていても、彼は透明な瞳で微笑うから。
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