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#5 擬態
しおりを挟むひと月ほどが経った、ある日──。
その日は朝からよく晴れた。
昼に外で待ち合わせ、軽めのコースランチから映画を観て、ウィンドウショッピングをして、高級ホテルのバーへ。高層階のウィンドービューから夕暮れる街を眺めながら、軽いフードとお酒を一、二杯。
絵に描いたようなデートだ。まして、トップソムリエが「溺愛」をうたってのエスコート。申し分のない完璧さだった。
きっとこの後も部屋をとっているのだろう。
だが、蝶子のその予想は外れた。
「ホテルより、くつろげるいいところがあるんです。そこでたっぷり、ね」
連れていかれた先は、立派な邸宅が建ち並ぶ閑静な住宅街だ。その一軒の前で、タクシーが停まった。
「ここ……?」
モダンな矩形の建物だ。表札は、ない。
玄関らしい玄関もなく、茶室の露路のような隠されたアプローチを抜けた先に、把手のない真っ黒なドアがあらわれた。
「一棟貸しのレンタルハウスです。中長期の滞在もできるよう、ひと通りのものは揃ってます」
その言葉どおり、十分に生活できる調度が揃っていた。水や酒もある。
用意周到なレンタルハウスというより、ミニマリストの自宅と言われた方が納得する。そう、たとえばDのような謎めいた男の──。
「蝶子さん」
ふいに後ろから抱きすくめられた。
「D…」
「塁」
「ん」
「塁ですよ、今日は」
「そうだったわね、塁」
溺愛を言いつけた蝶子に、Dは「恋人どうしのような溺愛」を提案した。
ソムリエと客としてではなく、ただの男と女として。
「だから今日は塁と呼んでください」
「ルイ」
「野球の一塁、二塁の塁です」
「塁」
「あなたは? なんて呼ぼう?」
「私は、蝶子よ。他にないわ」
「では、──蝶子」
Dこと塁が蝶子の手をとって、甲に軽いキスを落とす。
そうして、この日のデートは始まったのだった。
*
逞しい腕が、ガラス細工を抱くように、蝶子の体をそっと包み込む。
広い胸と腕の輪にすっぽりと閉じ込められ、ぞくっとするほど強く“男”を感じた。
自分がいかに女であるかを、その弱さを、思い知らされる。
体の芯が熱くなり、どくんと濡れた。
「蝶子さん」
髪に顔を埋めて、絞り出すように。
「ずっとこうしたかった」
声が熱い。
気を抜くと溺愛“ごっこ”だということを忘れてしまいそうだ。
「蝶子……」
囁く声は切々と胸に迫った。
今日は会ってからずっと、彼の指先がどこかしら蝶子に触れていた。
羽根で撫でるように優しく繊細に。くすぐったいほどに淡いフェザータッチで。
そうしてことあるごとに、「可愛い」「好き」「素敵だよ」と囁いて、蝶子を好い気持ちにさせていた。
なのに、それ以上は触れてこない。
てっきり映画館あたりで悪戯をしかけてくるかと思ったのに、絡めた指をすりすりと合わせるばかり。
本当に初デートの高校生ならともかく、お互い大人で、しかもプロのプレジャーソムリエなのに。
拍子抜けしなかったといえば嘘になる。
ほとほとと、じれったい昂りを溜めこんでいたのは、蝶子こそだった。
「塁……」
くたりと身を預けてきた蝶子を、軽々と抱き上げる。
「まずはお風呂だ。一緒に入ろう」
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