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#6 バスルームで

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 バスタブたっぷりのお湯にワインを何本もあけ、バラの花びらを浮かべて、芳香に包まれた。

 ちゃぷん──

 長身のDもゆったりと足をのばせる、ヨーロピアンタイプの湯船だ。ゆるやかな傾斜に背を預けると、カウチに寝そべったような格好になる。蝶子は、彼の膝の間に後ろ抱きですっぽりと抱きくるまれていた。甘い果実のような乳房が、ワイン色の湯にエロティックに浮かんでさざなみを立てる。

 蝶子の白い両膝を男らしい大きな手が艶めかしく包み込んだ。

「こういうの、初めてだね」
「こういうのって?」
「裸で抱き合うとか」
「そういえばそうかも」

 などとうそぶきはしたが、本当はさっきからずっとドキドキしていた。
 そもそも店で、ソムリエは脱がない。
 彼の裸身を見るのは初めてだったのだ。

「触れ合ってるって感じが、すごくする。いいね」
「なにうぶなこと言ってるのよ。あんなこともこんなこともしておいて」
「……ですね」

 香りのたちこめる浴室に響く吐息はいつも以上に甘く潤んで余韻を残す。

 これだけ身体中が密着していれば、熱も鼓動も筒抜けだ。

「……」
「……」

 ぴちゃん……ぴちゃぴちゃ………ぴちゃん……。

 ふと落ちた沈黙のなか、もはやただの水音までが淫らに響いて、肌を舐めていた。

──蝶子

 声にならない吐息で呼ぶ。

 水中で脛を撫でおろした手が、今は足の甲を包み、足指を弄っている。細い足指を一本いっぽんを丹念にくるんでは指の股にすべりこみ、可愛らしい指を捏ね、小さな桜貝を愛おしそうに撫でる。

「ん……」

 大きな手はやがて再び足の甲を遡ってくるぶしを探り始めた。

 切なげに濡れる吐息と、水の鳴る音が入り交じって、芳香の満ちたバスルームにむせかえるほどのエロティックな気配が立ちこめた。

 ちゃぷ……ちゃぷん……。

 抱きすくめられて、鋼の二の腕にあずけた蝶子の頭は、次第にくったりと重くなっていく。

「塁」

 甘い声に求められて、セクシーな指が細い顎をとらえた。
 流れるように唇が重なり、舌がすべりこむ。

 ちゅく、ちゅく、ちゅく、ちゅく──

 口の弱い蝶子はみるみる蕩けていく。

「は、んっ……」

 いつもならプライドが邪魔をする。
 だからキスなどさせもしない。まして自らねだるなどありえない。
 けれど今日は溺愛ごっこだ。
 むしろ素直に甘えて、優しく奉仕する舌にしおらしく身をゆだねた。
 だってそういうプレイなのだから。

 ちゅく、ちゅく、ぢゅ、ぢゅっ──

 深い口づけは、甘く淫らに、次々と快感を開かせていく。
 紳士的なのに手加減なく、すべてを暴いてしまう。
 隠しごとなどさせてはくれない。

 ちゅく、ちゅく、ちゅく、ちゅぷ…ちゃぷん……ぴちゃ……──

 二種類の水音が混じって、湯気のたちこめる浴室になまめかしく響く。
 夢見心地のキスは、なおも気が遠くなるほど長く続いた。

 ようやく顔が離れ、とろとろに潤んだ蝶子の頬に、長い指が優しく触れる。

「続きはベッドでね」

「ん……」

 花のしおれるように瞼を落として、逞しい肩に頭をあずけた。

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