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第二話 焦熱~繭の戯れ
#5 あなたの指でしてほしい ※
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花は緊張していた。
それはそうだろう。
男を知らない生真面目な処女が、ハプニングバーで器具を使ったプレイを受けようというのだから。
Dは静かな口調でゆっくりと説明を始めた。
「これからすることを説明するね」
メニューとシナリオの説明と同意は、Ilinx(イリンクス)の鉄則だ。
「このスティックを、最初はパルスなしで君の中に挿れる。少しずつ馴らして、中を触ってみて、大丈夫そうならスイッチを入れてみよう」
花の指がぴくりと動いた。まるで電流が流れたかのように。
「そうして、中の気持ちいいところを刺激する。Gスポットはわかる?」
「わかります」
「まずGスポットでイッてみる。中だけで難しそうなら、他のところも一緒に触るけど、そのあたりはその時になってからでいいかな」
「はい」
「Gスポットでイケたら、次はポルチオだ。ポルチオはわかる?」
「……はい」
「未開発だとすぐには無理かもな性感帯だけど、まあやってみよう」
丁寧な説明に沿って、これからされることを克明に想像してしまった。顔が熱い。
「じゃあ、いくね」
心づもりはできていたはずだった。
なにより、それを体験したいと自ら望んだことなのだ。
未知の体験だから、少しくらい緊張するのは仕方ない。でもみんな普通にできていることなのだから、きっとできるはず。
そう自分に言い聞かせて、その瞬間を待つ。
そして。
つぷ──
(きた……!)
そう思った瞬間。
侵入する異物感に全身がこわばった。
力を抜かなくては。
でも身体が言うことをきかない。自分の身体でないようだ。どうしようもなくこみあげる違和感に、押し潰されてしまいそうだ。
「や……」
震える声がかぼそくかすれる。
「それ、やだ……っ」
言葉が口から発せられるより前に、すでに器具は抜かれていた。
硬くこわばる花の様子で、Dが何かを察したのだ。
だが、花の震えはおさまらない。
「やだやだやだ……それはいや」
堪えきれない大粒の涙がぽろりとこぼれる。
「抜いて」
「花」
「抜いて抜いて抜いて抜いて……!」
ほぼ半狂乱になった花の意識の奥底で、蝶子は驚いていた。
(そんなに?! いくら処女だからって、初めてってこんなに大変だったっけ?)
「花、もう抜いた。大丈夫、もう何もないよ」
いやいやいや。
壊れた人形のように首を振る花を、Dは胸の中に抱きしめた。
「ごめん、怖かったね」
ぎゅっと抱きしめ、しゃくりあげる背中をゆっくりと撫でる。
「挿れる前に気づいてあげられなくて、ごめん」
ゲストの不安を察しきれず、こんなふうに泣かせてしまうなど、Ilinx(イリンクス)のソムリエにあるまじき大失態だ。
「今日は中はやめよう。そして僕にお詫びをさせて。普段はしない僕のとっておきで慰めさせて」
だが花は、まだ震えながらも、ふるふると首を振った。
「中でいきたい」
「でも花……」
案ずるDを目で制して、花が口を開く。何度か言い淀んだ末に、かすれる声で呟いた。
「Dさんの、指でしてほしい」
「え?」
「指がいい。Dさんを──感じたいから」
Dのそんな顔を、付き合いの長い蝶子ですら見たことはなかった。
驚きに目をみはったDは、ごくかすかに、だが確かに頬を染めていたのだ。
「だめでしょ、そんな顔して、男にそんなこと言っちゃ」
紅潮を苦笑に隠して、Dは花の額にコツンと額を当てる。
「どうして?」
「……可愛すぎて、抱き潰してしまいそうだ」
こぼされた甘いため息に、深層の蝶子は撫然とする。
(できっこないくせに。する気もないくせに)
そして続く言葉に驚愕した。
「花、口でさせて? それがいちばん優しくできる」
Dは、跪かんばかりのうやうやしさで花の手を掲げ、目を合わせたまま、甲に優雅に口づけた。
(うそでしょ?)
「……」
「だめ?」
「だめっていうか、Dさんは、それはしない人だって」
「普段はね。でも今夜は特別。それに、花、君だから」
「……」
Dが口淫をしないのは、イリンクスでは有名な話だ。蝶子もされたことがない。
それを、本当にするというの?
「だめかな。君の許しがほしいんだ」
そんな言い方、ずるい。
と、蝶子なら言えたかもしれないが、免疫のない花である。熱い視線に射抜かれて、顔が燃えるように熱い。
こくんと顎をわずかに引くだけの行為が、とても大変だった。
「ありがとう。嬉しい」
Dは花の脚の間に顔を埋める。
「舐めるよ?」
「……ん」
花は息をつめてその瞬間を待つ。
(こんな可愛い女だったら、私ももっと違う恋ができたのかしら)
ほろ苦く蝶子の胸を灼いたのは、憧憬だったか、羨望だったか、寂寞だったか。
花の中で、蝶子も目を瞑って沈んでいく。
ぴちゃ──。
Dの舌先が、濡れた音を立てて、触れた。
次ページへ続く
それはそうだろう。
男を知らない生真面目な処女が、ハプニングバーで器具を使ったプレイを受けようというのだから。
Dは静かな口調でゆっくりと説明を始めた。
「これからすることを説明するね」
メニューとシナリオの説明と同意は、Ilinx(イリンクス)の鉄則だ。
「このスティックを、最初はパルスなしで君の中に挿れる。少しずつ馴らして、中を触ってみて、大丈夫そうならスイッチを入れてみよう」
花の指がぴくりと動いた。まるで電流が流れたかのように。
「そうして、中の気持ちいいところを刺激する。Gスポットはわかる?」
「わかります」
「まずGスポットでイッてみる。中だけで難しそうなら、他のところも一緒に触るけど、そのあたりはその時になってからでいいかな」
「はい」
「Gスポットでイケたら、次はポルチオだ。ポルチオはわかる?」
「……はい」
「未開発だとすぐには無理かもな性感帯だけど、まあやってみよう」
丁寧な説明に沿って、これからされることを克明に想像してしまった。顔が熱い。
「じゃあ、いくね」
心づもりはできていたはずだった。
なにより、それを体験したいと自ら望んだことなのだ。
未知の体験だから、少しくらい緊張するのは仕方ない。でもみんな普通にできていることなのだから、きっとできるはず。
そう自分に言い聞かせて、その瞬間を待つ。
そして。
つぷ──
(きた……!)
そう思った瞬間。
侵入する異物感に全身がこわばった。
力を抜かなくては。
でも身体が言うことをきかない。自分の身体でないようだ。どうしようもなくこみあげる違和感に、押し潰されてしまいそうだ。
「や……」
震える声がかぼそくかすれる。
「それ、やだ……っ」
言葉が口から発せられるより前に、すでに器具は抜かれていた。
硬くこわばる花の様子で、Dが何かを察したのだ。
だが、花の震えはおさまらない。
「やだやだやだ……それはいや」
堪えきれない大粒の涙がぽろりとこぼれる。
「抜いて」
「花」
「抜いて抜いて抜いて抜いて……!」
ほぼ半狂乱になった花の意識の奥底で、蝶子は驚いていた。
(そんなに?! いくら処女だからって、初めてってこんなに大変だったっけ?)
「花、もう抜いた。大丈夫、もう何もないよ」
いやいやいや。
壊れた人形のように首を振る花を、Dは胸の中に抱きしめた。
「ごめん、怖かったね」
ぎゅっと抱きしめ、しゃくりあげる背中をゆっくりと撫でる。
「挿れる前に気づいてあげられなくて、ごめん」
ゲストの不安を察しきれず、こんなふうに泣かせてしまうなど、Ilinx(イリンクス)のソムリエにあるまじき大失態だ。
「今日は中はやめよう。そして僕にお詫びをさせて。普段はしない僕のとっておきで慰めさせて」
だが花は、まだ震えながらも、ふるふると首を振った。
「中でいきたい」
「でも花……」
案ずるDを目で制して、花が口を開く。何度か言い淀んだ末に、かすれる声で呟いた。
「Dさんの、指でしてほしい」
「え?」
「指がいい。Dさんを──感じたいから」
Dのそんな顔を、付き合いの長い蝶子ですら見たことはなかった。
驚きに目をみはったDは、ごくかすかに、だが確かに頬を染めていたのだ。
「だめでしょ、そんな顔して、男にそんなこと言っちゃ」
紅潮を苦笑に隠して、Dは花の額にコツンと額を当てる。
「どうして?」
「……可愛すぎて、抱き潰してしまいそうだ」
こぼされた甘いため息に、深層の蝶子は撫然とする。
(できっこないくせに。する気もないくせに)
そして続く言葉に驚愕した。
「花、口でさせて? それがいちばん優しくできる」
Dは、跪かんばかりのうやうやしさで花の手を掲げ、目を合わせたまま、甲に優雅に口づけた。
(うそでしょ?)
「……」
「だめ?」
「だめっていうか、Dさんは、それはしない人だって」
「普段はね。でも今夜は特別。それに、花、君だから」
「……」
Dが口淫をしないのは、イリンクスでは有名な話だ。蝶子もされたことがない。
それを、本当にするというの?
「だめかな。君の許しがほしいんだ」
そんな言い方、ずるい。
と、蝶子なら言えたかもしれないが、免疫のない花である。熱い視線に射抜かれて、顔が燃えるように熱い。
こくんと顎をわずかに引くだけの行為が、とても大変だった。
「ありがとう。嬉しい」
Dは花の脚の間に顔を埋める。
「舐めるよ?」
「……ん」
花は息をつめてその瞬間を待つ。
(こんな可愛い女だったら、私ももっと違う恋ができたのかしら)
ほろ苦く蝶子の胸を灼いたのは、憧憬だったか、羨望だったか、寂寞だったか。
花の中で、蝶子も目を瞑って沈んでいく。
ぴちゃ──。
Dの舌先が、濡れた音を立てて、触れた。
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