オレ、母になる

理論上不可能な話

「あっ」

神社の外に出た祐希は、思わず声を上げてしまった。

何故なら、前方から歩いてきた人物が顔見知りだったからである。

しかし、祐希のビジュアルはこの一年で大きく変貌しており、過去につながりがあった人達は、この女性が祐希だとわかる者は一人もいなかった。


しかし、その人物は、祐希に近づき、声をかけてきた。


「真希君！」

と、姉と間違ってしまっていたが…

双子の姉、真希を知っている者であれば、性転換して寸分違わぬ真希のコピーとなった祐希を、見誤るのは当然の事だった。

祐希は、一瞬、真希として振舞おうとしたが、すぐにバカらしくなってやめた。


「違います。田子浦教授…

真希じゃなくて、祐希の方です。」

祐希は、正直に自分の正体を伝えた。


「えっ、祐希君なのか？」



「はい…

ご無沙汰しています…」


「これは驚いた。

まるで真希君そのものじゃないか。」


「そうだと嬉しいんですが…」

田子浦は、祐希がなぜ女性の姿をしているか、よく理解していた。

その理由を、祐希本人から聞いていたからだ。

それゆえに、祐希の生き方等について責めるような事はしなかった。

その代わりに


「祐希君

キミに話があったんだよ。

時間はあるか？」


祐希と話がしたいと言ってきたのである。


「はい、大丈夫です。」


孤独な正月を送っていた祐希は、田子浦の誘いに素直に乗ったのである。