Dad, save me

ため息

ショックを受けている。

体が女性化してしまったからだ。

さっきトイレに行ったけど、オシッコのやり方もよくわかんなかった。

なんとか済ませて、手を洗おうと鏡の前に立つと、見た事もない女がそこにいた。

ちゃんと髪も伸びてんだよなあ。
コレってどういうことなんだろ…

ヤング山中の言うように、俺が女になったのもタイムトラベルの事故ではなく、この時代に来る事によって生じた、必然なんだろうか。

今はそんなことを考えている場合ではない。
体がどう変化しようと、俺は癌を抱えており、残された時間が少ないことには変わりない。

トイレから戻ると、ヤング山中が待ち構えており

「昴君
疲れているところ悪いが、もう少し話を聞かせてくれないか。」

と、言ってきた。


「あ、全然いいですよ。」

この高い声も慣れんわ。

「2015年の話を聞かせて欲しいんだが、どんな世の中になっている？」

「どんな？

どうなんだろう。何が違うかなあ。」


「この時代にはなくて、二十五年後には当たり前に存在するものとか、そういうものはあるのか。」


「そうですね。
スマホ…あ、携帯じゃないですかね。
携帯電話。」


「携帯電話？

ショルダーホンの事かね？」


「あー、そうですそうです。

昔はバッテリーがデカくて肩から提げてたんですよね。
テレビか何かで見た事があります。

今は手のひらサイズで、そこに置いてあるパソコンよりも遥かに性能が良いです。」


「えっ、そうなのか？」


「はい。僕もこの時代のパソコンのことはよくわかりませんが、携帯の方が全然優秀だと思いますよ。」


「信じられんなあ。
まあ、日本のメーカーは優秀だからなあ
そういう未来になっていてもおかしくはないが。」


「あ、スマホのシェアはアップルがトップですよ。

国内シェアは半分くらいはあるんじゃないですかね。」


「アップル？

アップルってアメリカの？
マッキントッシュの？」


「ええ、そうです」


「あんな低迷している会社が、どうやったら回復するんだ…全くもって信じ難い話だ。」


「アップル製品は最高ですよ。
僕も職場のパソコンは、企画の仕事をしてる関係でMac…
アップルのを使ってます。」


「なんという恐ろしい未来なんだ。

総理大臣は誰だ？」


「総理大臣ですか…

安倍首相です。」


「安倍？

今、入院してるってニュースでやってたけど、そんなに長生きしたのか。

いや、2015年だったら九十歳くらいじゃないか。
さすがに総理は務まらんだろう？

全くの別人か。」


「多分、それって今の安倍首相のお父さんじゃないですかねえ。」


「なんだ、息子も政治家になってるのか…

それが総理？

めちゃくちゃじゃないか」


ヤング山中の好奇心は尽きず、この後も質問責めで寝かせてくれなかった。

俺、病人なんだけどなあ。