ハカイジ

希望

「着きました。


ここでよろしいでしょうか。」


男は、車を愛果の住んでいるアパートの前に停めて言った。


「ありがとうございます。

こんな遠いところまで。」



「いえ、仕事ですので気になさらないで下さい。」


愛果は、男に深々と一礼し、車から出ようとした。


そのとき


「あの…愛果さん。」


男は、徐に愛果の名前を口にした。


「はい。」



車を降りようとしていた愛香の動きが止まり、ルームミラー越しに男の目を見つめると


「先ほども申し上げましたが、ご主人を助け出す事を諦めないで下さい。」


「えっ

それは…


はい。」


「自分の会社を悪く言うのは少し気が引けますが、ハッキリ言って、ウチの会長はやりすぎだ。

そのうち、天罰が下ると思います。」


「…」


「今のところ、ご主人が早く施設を出るには、会長のお気に入りとなり、恩赦を受けることです。」
　　

「今日みたいな事ですか？」


「ええ。

今日は、悪ノリが過ぎましたが、もっと簡単な形になることも多々あります。

ですから、奥さん


ご主人を信じてあげてください。」



「わかりました。

今日、あの人に会って、私の中で揺るぎない彼に対する愛情が残っていることを再認識しました。


私も諦めません。」


愛果は、男に力強く答えると、車を降り、深々と一礼をした。