ハカイジ

深層

「多分、あなたも借金で首が回らなくなってここに来る羽目になったと思うんだけど。」


三橋がそう言うと、エミリは深く頷いた。


「そうです。」　　　


「慈愛夢グループに債権が移ったっていう話を聞いて、ここに来たっていう…違う？」


「その通りです。」


「そして、選択を迫られた。
地上階で働くか地下に行くか。」


「はい。
でも、地上で働いても完済には二十四年かかるって言われて…

地下なら二年で完済出来た人もいるって話を聞いたものですから。」


「それは事実よ。」


「えっ」


「ワタシもちゃんとこの目で見たからね。

来て二年でここを出た人を。」


「それが事実なら希望が持てますが…


でも、まさか、こんな体にされてしまうとは…」



「そうね。
もう男としては生きられないものね。
タマ取られちゃったし。」


「三橋さんもなんですか？」



「今、この場にいる人は全員そうよ。

来た時期はバラバラだけど。
あなたが一番最近てわけね。」


「あの…、一体ここで何をやらされるんでしょうか。」



「まあ、簡単に言うと、ご奉仕ね。」


「ご奉仕？」


「この慈愛夢グループの安田って会長の趣味なのよ。」


「趣味…」


「安田は、一代でこの巨大なグループを立ち上げ、莫大な富を得た。

欲しいものは何でも手に入れることができた。

女優やモデルみたいな美女も金の力で思いのままにすることができた…はず

でも、そうはならなかった。

何故なら、安田には性癖があったの。」


「性癖…

ですか？」


「そう。性癖。

安田は、ニューハーフが好きだったのよ。」


「ニューハーフ？

ニューハーフって…」


「今のワタシらがまさにそうじゃない？

じゃあ、何故ワタシらみたいなのが選ばれたかっていうと、それはワタシらが素人だからよ。


プロのニューハーフが好きではなかった安田は、ある事を思いついた。

ワタシらのような債務者を連れてきて、そこで選定するの。

男でも可愛いタイプとか、線の細い人間をね。

それらの人間を集めて、自分好みのニューハーフに育て上げようとした。素人達をね。


そして、実行され、この施設が存在する。」


「えっ

だったら、地上階を選んでおけばよかったってわけですか？」


「いえ、あなたが地下に行く事は最初から決まっていた事だと思うわよ。

可愛い顔してるからね、あなた。」


「…」


「ただ、地上階を選んでいても地獄に変わりないわ。
厳しい肉体労働を何十年もさせられる。

ワタシはそんな状況を見て、まだここの方がマジだって思うようにしたのよ。

謂わば、諦めの心境ね。」


三橋は、少し笑いながらレンに言った。