ハカイジ

過客

平野蓮が高額の借金返済が不能となり、この施設に連れてこられてから、半年が経過した。

そして、去勢手術と定期的な女性ホルモンの投与により、僅かな期間でレンの体は劇的に変化した。

早くも乳房の膨らみと乳首、乳輪の著しい肥大が見られ、体つきも皮下脂肪が付き、丸みを帯び、女らしく変貌した。

そして、外見だけではなく、内面についても大きな変化が見られた。

覇気がなくなり、何事にもやる気が起きなくなってしまったのだ。
勿論、借金のせいで、このような施設の地下に閉じ込められていたのでは、そうなっても無理はない。

だが、そういう直接的な理由でやる気が起きなくなってしまったのではなく、内から湧き上がる力強さのようなものが無くなってしまったという実感を、本人は持っていた。

一言で言えば、元気が出ないのだ。

やはり、去勢をしたからか…

気性の荒い競走馬に、去勢手術を行うと聞いたことがあるが、今の自分は、まさにそうだと、レンは、自嘲気味に笑った。


惰性で生きる

まさにそんな毎日を送るレンであった。


そんなレンが、唯一、感情を露わにして拒絶したのが、不定期で行われる「四則演算」と呼ばれるものだった。

これは、施設の人間が名付けたのではなく、いつの日か、自然発生的に受刑者達によって、そう呼ばれるようになったものである。




そして、今日

会長の安田が来たことにより、「四則演算」が急遽行われる事となった。


レン達は、いつものように、それが行われる部屋に入っていった。

地下階所属の総勢二十名が、全裸となり部屋の壁に張り付いて立ち、中心に向かうようにして、ぐ
るりと取り囲んだ。

待つ事、五分

ドアが開き、安田が部屋に入ってきた。


「会長、おはようございます！」

と、レンの隣に立っていた片山が、頭を下げて挨拶をすると、一呼吸置いて、他の人間も同じように挨拶をした。