ハカイジ

最初の裏切り

「レン君、お帰りなさい。」


夜遅くになったのに、愛果は寝ずに起きて待っていてくれた。


「あ、ただいま…
起きててくれたんだ…

寝ててよかったのに。」


「ううん。

眠たくないし。

それより、楽しかった？」


「えっ

何が？」


「飲み会よ。

会社の人と行ったんでしょ。」


「あ、うん…

あんまり楽しくなかった…」




「えー、そうだったんだ。」




「もう、次誘われても二度と行かないよ。」


レンは、吐き捨てるように言い、愛果を驚かせた。


後から考えれば、この日こそが、レンが人生の谷へと、転げ落ちるきっかけとなった日で、今もこのときの事を思い出しては、後悔の念に駆れる事がある。




３６万で買わされた健康食品の支払いに困り、その返済に充てるために、妻に内緒で借金を重ねて、膨大な額に膨らんでいったのをはじめ、起死回生を狙い、用意した金を全部突っ込んだ競馬にも負け、にっちもさっちも行かなくなり、ついには愛果と別れてしまった。


一人になっても借金は増え続け、あっという間に多重債務者となり、このようなところに連れてこられたのだった。


そして、現在…

女のような体にされ、会長の安田の前に立ち、この不幸な身の上話をしている。

レンは、すっかり、人生を諦め、なすがままになろうとしていた。