ハカイジ

最高の食材

レンが自身の身の上話を終えると、安田はニヤニヤしながら呟いた。


「酷い話だな。

それで嫁さんは今どうしてる？」



「わかりません。

愛想を尽かされて、別れてからは一切会っていませんし…」



「まあ、そうだろうな。

金のない男はどうしようもないが、金にだらしない奴は、それ以下のクズだ。」



「はい。

ワタシも今はそう思います。」


「ところで、お前をマルチ地獄に嵌めた男は、今でもその世界にいるのか？

もし、いるのなら、私が復讐をしてやってもいいぞ。

褒賞の代わりにな。」



「いえ…

ワタシを嵌めた柿崎という男は亡くなりました。」


「ほう…


何で死んだ？」



「ワタシと共にマルチの商品を無理矢理買わされた三井という人物がいたのですが、彼はワタシと同じで、内向的な人間で、他の人と会話するのも苦手にしていました。

ワタシとは仲良くしていましたが…」



「その三井がどうかしたのか。」



「はい。

ワタシ達は、柿崎達の駒として動き、セミナーに参加したり、数少ない友人に商品を勧めたりと、色々やらされました。

三井もかなりストレスを感じてたんだと思います。

思うように動けずに、柿崎に叱責され、罵倒されてましたから。毎日のように。


それからしばらくして、ワタシと三井は柿崎に呼び出されたんですが、時間になってもワタシ以外、待ち合わせ場所に来ず、おかしいなって思ってたんです。

三井は電話にも出ませんでしたし。」


「まさか…」



三井は、柿崎を待ち伏せして、殺害してしまったんです。


「それは、酷い話だな。」



「はい。

彼は今、服役中です。

ワタシは、また彼と会いたい…

その一心で毎日をすごしています。」


レンは、珍しく、ハッキリとした口調で、そう言い切った。