ハカイジ

諦めの地

「レン

お前はまた男に戻って嫁さんとやり直したいと思っているのか？」


安田は、レンの顔をじっと見ながら質問した。



「いえ…

去勢もされてしまいましたし、ワタシは、もう男ではありません。


フツーの男だったときも彼女を幸せに出来なかった人間が、こんな体になってるのに、今度は幸せに出来るなんて、あり得ない事ですから。」



「なるほどな。」



「ただ…

いつの日か、ここを出る事が出来たら、ワタシは彼女に、ちゃんと会って謝罪がしたいです。

今は、それだけです。」



「なかなか殊勝な心掛けだな。


まあ、こんなところに来たからには、お前達全員が今、地獄の真っ只中にあると言っても過言ではない。

ここでは、どこに配属されようと、地獄より辛いものばかりだからな。」



「はい…」




「だが、お前は今、大きなチャンスを掴みかけている。

それをちゃんと手に出来るか、手放してしまうかは、お前次第だ。」


「はい…」



「この地下施設も出来て何年か経つが、お前のようにチャンスを掴む機会を得た人間が、過去に一人だけそんざいする。」



「あの…


和人さんていう方ですか？」



「知っていたのか？


どうせ片山あたりが喋ったんだろ。」



「はい…」



「だが、和人がどうなったかを知る人間は誰もいない。

片山だって知らんだろう。」



「はい。
知らないとおっしゃっていました。」



「よかろう。

これも褒賞の一部だ。

和人の話をしてやろう。」


安田は、相変わらず鋭い目つきでレンを見つめ、話を始めた。