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18話 自分に誇れる自分であれ

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 俺はベンチから立ちあがり、伸脚と屈伸、それから手首のストレッチを行った。

「ハースさん、突然どうしたガウ?」

「ちょっと用事が出来てしまったので、少し行ってきます」

「はぁ。
 この場合は、行ってらっしゃいませ……?
 んんー……なんか新妻っぽすぎるかも……。
 あっ、行ってらっしゃい!」

「はい、行ってきます」

「新妻……新妻……新妻っ……!」

 俺はドッジボールコートへ走った。

「シェルヴィ様!
 少しいいですか?」

「ハース!?
 な、何しに来たのだ?」

 おっ、その顔はいつものシェルヴィ様だ。
 やっぱ、安心するなぁ。

「ねぇあの人、噂のイケメンさんじゃない?」

「あっ、ほんとだ!」

「うわっ、かっこよ!」

 俺はあっという間に、女の子たちに囲われてしまった。

「ねぇねぇ何しに来たの!」

「もしかして、シェルヴィ様の許嫁なの!?」

「シェルヴィ様ずるーい!」

「そ、そんな訳ないのだ……」

 この勝手に話が大きくなったり、逸れていってしまう辺りが実に子供らしくて可愛らしい。

「1つお願いがあるのですが……俺もまぜていただいてよろしいですか?」

「なっ……!」

「ハースさん……!」

 驚くシェルヴィ様とナタリアさん。
 まぁ、急に高校生が小学生のドッジボールにまぜてと言ってきたら、驚くだろうな。
 しかも、その相手は女の子だし。

「えっ、やろやろ!」

「もっちろんいいですよ!」

「で、どっちのチーム入ります?」

 ただ、他の女の子たちは歓迎してくれた。

「そうですねぇ……。
 なら俺は、シェルヴィ様の相手チームに入ります」

「ぐぬぬぬぬぬ……。
 ハース、絶対に当ててやるのだ……!」

 そして、ドッジボールが再開された。
 1度流れが止まったこともあり、相手チームの外野からスタートのようだ。
 まぁ、俺が止めたんだけど……。

「よしっ!
 イケメンさん行きますよ!
 そりゃ!」

「……よっと!」

 俺は腹の前に飛んできたボールを両手でがっしりとキャッチした。

「おぉ、ナイスキャッチなのだ!」

「ハースさんすごい!」

 もちろん、俺がまぜてもらったのには理由がある。
 当然……シェルヴィ様を狙うためだっ!

「シェルヴィ様行きますよ!
 はっ!」

 バックスピンがかかったボールは、一直線にシェルヴィ様へと向かっていく。
 ありゃりゃ……ちょっと強すぎたかなぁ……。

「ふっふっふ、ハース甘いのだ!」

 しかし、足元に飛んできたボールをシェルヴィ様は華麗にキャッチした。

「反撃開始なのだ!」

「ふへぇ……まじか」

「とりゃ!」

 シェルヴィ様の投げたボールは、こっちチームの女の子を捉えた。

「うわぁ、当たっちゃった……」

「シェルヴィちゃんすごい!」

「ふっふっふ、これくらい当然なのだ」

 そこからの試合展開は面白かった。
 何が面白かったと聞かれたら、答えは決まっている。
 先程のプレーでリーダー的立ち位置となったシェルヴィ様を狙うボールが増え、心から笑うシェルヴィ様を見られたことだ。

 そして試合は、15分ほどでシェルヴィ様チームが勝利した。

「ふっふっふ、我は負け知らずなのだ!」

「流石シェルヴィちゃんだね!」

「シェルヴィ様すごかったよ!」

「ねぇ、もう1回やろ!」

「別にやってやらんこともないのだ」

「じゃあ決まりね!」

 いい雰囲気だ。
 よし、俺はもう用済みだな。
 俺は空間転移で、ベンチへ移動した。

「あっ、おかえりガウ」

「ただいま」

「に、新妻っぽい……」

「ん?
 今何か言いました?」

「な、何も言ってないガウ」

 笑顔で友達と遊ぶシェルヴィ様。
 それをベンチから見守る俺。
 これを幸せと呼ばずしてなんと呼ぶのか。

 それから、30分はシェルヴィ様を眺めていたと思う。
 そして、キーンコーンカーンとチャイムが鳴り、放課終了10分前のアナウンスが流れた。

「へぇ、学校ぽいな」

「ここは学校ガウ」

「あっ、そうでした」

 暖かな日差しと、座り心地のよい木のベンチ。
 そして何より、笑顔のシェルヴィ様。
 てっきり、最高の休日かと思ってしまった。

「ナタリア、早く戻るのだ」

「う、うん……」

「ん?
 どうしたのだ?」

「ちょっと走りすぎちゃって、歩く気力が残ってないかも……えへへ」

「もう、ナタリアは情けないのだ」

「ごめんね……」

 あれ?
 ナタリアさんが座り込んでる。
 何かあったのかな……。
 俺は空間転移で、ナタリアさんの背後に移動した。

「ナタリアさん、何かお困りですか?」

「ハ、ハースさん……!?」

「あっ、そういえばハースがいたのだ」

 あ、あれ?
 かっこよく登場したつもりだったんだけど、シェルヴィ様冷静だなぁ……。

「ハースよ、ナタリアを教室まで運ぶのだ」

「はい、お任せ下さい。
 それで……抱っことおんぶ、どちらがいいですか?」

「えぇっ!
 な、なら……おんぶでお願いします……」

 あっ、女の子に抱っこはないよな……。
 反省反省。

「かしこまりました。
 では、どうぞ」

 俺は地面に片膝を付き、ナタリアさんに背を向けた。

「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

 ナタリアさんをおんぶし、歩き始めて数分。

「すーすー……」

「あれ?
 ナタリアさん寝ちゃいましたね」

「ありゃ、本当なのだ」

 それにしても、清々しい陽気だ。
 晴れ渡る空、涼しい風。
 これが平和か。

「そ、そういえばハース。
 どうしてまざってきたのだ?」

「あっ、そうでした。
 その事で、シェルヴィ様に1つお伝えしたいことがあります」

「ん?
 なんなのだ?」

「自分に誇れる自分であれ。
 これは俺の大好きな言葉です。
 シェルヴィ様は立場上、みなさんから少し距離を置かれているのかもしれません。
 でもそれは、シェルヴィ様に課せられた使命であり、課題です。
 もっともっとシェルヴィ様らしく振舞い、みなさんにどんな人間なのかよく知ってもらいましょう。
 シェルヴィ様は、一緒にいて楽しい人です。
 それは俺が保証します」

 きっかけは些細なことでいい。
 それも子供同士なら尚更だ。

「う、うむ。
 それは分かったのだ。
 でも……1つだけ間違いがあるのだ」

「間違い……ですか?」

「うむ。
 もうすでに、我は我が誇らしいのだ!」

「流石はシェルヴィ様です」

「えっへん!」

 あっそういえば、フェンリアルはどこ行ったんだろ。
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