上 下
38 / 48

36話 手合わせ

しおりを挟む
「じゃあ早速、俺とやろうぜ!」

「わ、分かりました」

 最初に戦う相手は、第3首ハンマーのジローナか。
 やっぱり注意すべきは、あの大きなハンマーだよな。
 はぁ、あんなの当たったら、俺なんてイチコロだろ……。

 俺とジローナは距離を取り、互いに向かい合った。

 でも、こう見るとなんかあれだな。
 相手だけ武器持ってるの、ずるくない?

「はっはっは、行くぜ!」

「はぁ、めちゃくちゃ嫌なんですけど……。
 まぁ、やるしかないか」

 俺も一応構えを取った。
 すると次の瞬間、ジローナが地面を蹴った。
 それも、あの巨体からは想像できない速さで。

「死ねぇ!」

「うっそぉ、速すぎない……」

 殺意溢れる強烈な一振り。
 衝撃波だけで、芝生に亀裂が走る。
 でもまぁ、フリーズで部分的に氷壁を作れば大丈夫か。

「フリー……」

 しかし、その一振りが俺に届くことはなかった。

 カキィィィィィィィン!

「チッ、誰だ!」

「えっ、剣?」

 ジローナのハンマーを交差する形で受け止めた2本の剣。
 その剣の持ち手には、動物のシルエットが描かれている。

「ハース様に近寄るな、ガウ!」

「おい筋肉ダルマ、調子乗んなよ」

「フェンリアル!?
 レオル!?」

 そう。
 その一振りを受け止めたのは、獣魔隊副隊長フェンリアルとレオルだ。

「大丈夫ガウ?」

「大丈夫ですか?」

 そういえば、この2人は獣魔隊副隊長。
 かなりの強者であることは間違いないだろうが、真剣な姿を見たことがない俺は2人の実力を全く知らない。
 
「魔王様、こいつら何者ですか?」

 ジローナはパパさんに尋ねた。

「うーん。
 今の発言から察するに、ハースくんの仲間か部下ってところかな」

「あー、そういう事ですか。
 なら、手合わせ続行で!」

 再びハンマーを構えるジローナ。

「ハース様、ここは私とレオルにお任せガウ!」

「はい、お任せください!」

「わ、分かった。
 でも、無理だけはするなよ」

「もちろんガウ!」

「もちろんです!」

 ニコッと笑うフェンリアルとレオル。
 でも、2人にいつもみたいな朗らかさは無い。
 寧ろ逆。
 この威圧感、間違いなく殺気だ。

「ねぇジローナ」

「あ? なんだよディアンナ」

「相手はハースくんを含めて3人。
 つまり、うちとゲルハルトを合わせたら同数になるわね」

「あぁ、そゆこと。
 俺はもちろんいいよ」

「あーもう、お前はいつもいつも遠回しに言いやがって!」

「はぁ、これだから筋肉にしか目がない男は……」

「おいディアンナ、てめぇから片付けるぞ」

 ゴォォォォォという音を立て、著しく高まる魔力。

「だから、うちは3対3で戦いましょうって言ってるのよ」

「あー、なんだ。そんな事かよ。
 いいぜ。
 でも、俺の邪魔だけはすんなよ」

 ギロッとディアンナを睨むジローナ。

「はぁ全く、誰に向かって言ってるのかしら」

 というわけで、3対3で戦うことになりました。

「じゃあ、俺は狼ちゃんとやろうかな」

「サングラス男が相手……。
 もちろん、望むところガウ!」

 双剣のゲルハルトvsフェンリアル、決定!

「じゃあ、俺はこの生意気なライオン男とやるぜ!」

「筋肉ダルマ……。
 ボコボコにしてやる」

 ハンマーのジローナvsレオル、決定!

「じゃあ、うちはハースくんで」

「あ、あは、あはは……」

 大剣のディアンナvsハース、決定!

 はい、ハズレくじ引いちゃった。

「それじゃあ始めようか。
 よーい、始め」

 そして、パパさんの合図で戦いが始まった。
 命を懸けた決戦が。

「うふふ、うふふ、うふふ」

「ちょっと、怖いんですけど」

 大剣を軽々と振るうディアンナ。
 フリーズで部分的に肌を凍らせ、全ての斬撃を防ぐ俺。
 正直、防戦一方だ。

「ねぇハースくん、まだ本気じゃないよね」

「さぁ、どうでしょう」

 いやいや、俺割と本気なんだけど……。

 と、ところで、フェンリアルとレオルはどうしてるだろうか。
 俺は2人に視線を向けた。

「狼ちゃん、結構強いんだね」

「ミスターサングラス、あなたも」

 この2人の剣技は、レベルが違う。
 しかも、見たことのない剣を使っている。

「双雷風の舞!」

 双剣のゲルハルト。
 右手に持つ剣は雷を操り、左手に持つ剣は風を操る。

「異なる属性の剣が2本……。
 ど、どういう原理ガウ!?」

 あっ、天然なのは変わらないんだ。

「俺が双剣を使う理由、それは……。
 最高にいかすからだ!」

「な、なんてかっこいい理由ガウ……!
 でも、私だって、ハース様のために負けられないガウ!」

 魔力が込められ、紫に輝くフェンリアルの剣。

「狼愛剣!」

 その剣は、遠吠えをあげる狼のごとく相手を狩りたがっている。

「じゃあやろうか」

「ガウ!」

 双剣の利点である2倍の斬撃を、2倍の速さで動きカバーするフェンリアル。
 でも、狼の狩りって集団じゃなかったっけ……。
 ったく、フェンリアルらしいな。

 えーっと、フェンリアルは時折反撃出来てるし、互角って感じか。

 じゃ、じゃあ、レオルはどうだろう。

「おいおい、その程度じゃねぇだろ?」

「うっせぇぞ、筋肉ダルマ」

 ハンマーの利点である強烈な振りを、持ち前の力強さで打ち消すレオル。

「おりゃぁぁぁああああ!」

 斬りかかって守る、斬りかかって守る。
 これがレオルの立ち回りらしい。

「生成魔法、泥沼!」

 一方、ジローナは隙を作る小魔法を多用している。

「なっ、足が……!」

「俺の武器はあくまでハンマー!
 魔法は武器じゃない、道具だ!」

 ハンマーを振りかざすジローナ。

「うっせぇ!」

 それを全力で受け止めるレオル。

 えーっと、レオルはバチバチにやっているが、まぁ互角って感じか。

 あれ……?
 これもしかして、押されてるの俺だけなんじゃね!

 まずい、これは沽券に関わる問題だ。
 よしっ、1回だけ攻撃してみよう。

「じゃあ、俺も反撃開始ってことで」

「あら、今なんと?」

「ディアンナさん、構えないと少し危ないですよ」

「あらあら、面白いこと言うじゃない」

 相手は魔王軍幹部第1首。
 おそらく、1番という意味だ。

 つまり、死ぬ気で戦わなければ……俺は死ぬ!
 俺は全力で魔力を高めた。

「魔静術……デリート」

 俺は右人差し指から純黒の魔弾を放った。

「これはまさか……デリート!?」

 ディアンナは焦った様子で右親指の先端を噛むと、自身の血を大剣に垂らした。

「魔剣解放、ディアボロ!」

 その直後、大剣は姿を変えた。
 ギザギザとした剣身に、禍々しい魔力。
 見るのは初めてだが、確信できる。
 その大剣は正しく、魔剣だ。

「イラショナル!」

 そして、その魔剣は俺のデリートを斬り裂いた。

「ふぅ、危ない危ない」

「こ、この人、化け物だ……」

 俺はこの時、魔王軍幹部の実力を知った。
 そして、同時にこうも思った。

「こんなの、勝てるわけなくね」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

村に勇者が来た

BL / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:361

学校の人気者は陰キャくんが大好き 

BL / 連載中 24h.ポイント:1,050pt お気に入り:29

脇役転生者は主人公にさっさと旅立って欲しい

BL / 連載中 24h.ポイント:16,894pt お気に入り:314

ヒロイン聖女はプロポーズしてきた王太子を蹴り飛ばす

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:156pt お気に入り:13

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:667pt お気に入り:6

新妻よりも幼馴染の居候を優先するって、嘗めてます?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:142

妹を盲信溺愛する婚約者には愛想が尽きた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:176

てめぇの所為だよ

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:40

夫は私を愛してくれない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42,077pt お気に入り:211

処理中です...