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38話 中にいる者
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「ハースさんが眠り始めて、もう3日です……にゃ」
「ハース、さっさと起きるにゃ。
早く起きないと、早く起きないと、身体が臭くなっちゃうにゃ!」
この時、シロは思った。
お姉さま、それズレてます……にゃ。
「おいハース、早く起きるのだ。
お前が起きないと、我は、我は……」
「シェルヴィ様……」
「シェルヴィ様……」
ベッドで眠るハースの手をしっかりと握るシェルヴィ様の瞳は、今にも溢れ出そうな何かを必死に堪えていた。
そしてそれは、この2人も同じである。
「ハース様、あの凄まじい力について早くお話したいガウ……」
「ハース様、早く元気な姿を我々に見せてください……」
バレないように窓の位置を少しずつベッド横へとずらし、張り付くようにして様子を見守るフェンリアルとレオル。
そう、多くの人が今、ハースの目覚めを待っているのだ。
一方その頃、俺は正方形の白い空間にいた。
そこには何も無く、ゆえに静かである。
「ここは一体……」
声が反響してる。
ということは、密室か。
「おっ、お目覚めか?」
「やっと起きたの?」
「誰だ!?」
知らない声と聞き覚えのある声。
この2人、今まで気づかなかったのが不思議なほど凄まじい魔力を持っている。
俺は、恐る恐る声のする方に目を向けた。
するとそこには……。
「俺はアスモデウスだ、よろしく」
「やっほー!
僕はアース、よろしくね!」
「えっ、本当に誰?」
空間の隅と隅に寄りかかるピンク髪の男と白髪の男。
背丈は俺と同じくらいだが、身体から溢れる圧が違う。
「えーっと、そちらの方がアスモデウスさん、でしたっけ?」
「あぁ、そうだけど何か?」
はぁ、これだけは聞かないと。
「どうして学ラン着てるんですか?」
「あ? だめなのか?」
「いえ、お似合いです」
「ぷっ、ははははは!
そんなにびびることねぇじゃん!
でも、ありがとな」
「はい」
アスモデウスって、確か悪魔の名前だよな。
まぁ黒い角が2本生えてて、赤い目をしてたら悪魔か。
でも、怖くて仕方ないはずなのに、学ランを着ているせいか親近感が湧いてしまう。
「それで、そちらの方がアースさんですよね?」
「うん、アースだよ!」
度々耳にする声の主はこの人か。
なんか見た目も俺と似てるし、よく耳にする声だし、黒軍服を着てるし、こっちもこっちで親近感湧くなぁ。
「アースさん、ここはどこなんですか?」
「ここはね、君の中だよ!
ねっ、アスモデちゃん」
「おい、その呼び方やめろって言ったよな?」
「えっ何それ、初耳なんですけど」
「てめぇ!」
空間内を走り回る2人。
でもまぁ、ふざけているところを見ると、この空間をよく知っているのだろう。
「あのー、俺帰っていいですか?」
「えっ、もう帰っちゃうの?
やっと会えたのに、僕寂しい」
一瞬立ち止まったアースは、俺を見てそう言った。
やっぱりそうだ。
その言い方をするってことは帰れるってことだよな。
「俺に隙を見せるとはいい度胸だ!」
そして、その一瞬の隙を狙ってアースに掴みかかるアスモデウス。
「ほいっ」
だが、アースは逆をつくステップで華麗にそれをかわした。
「チッ、これだからすばしっこい鼠は嫌いなんだよ」
「人を鼠呼ばわりするなんて、アスモデちゃん最低、ブーブー」
「はぁ、まじムカつく」
その様子はまるで、子供同士の喧嘩を見ているようだ。
「2人は仲良しなんですね」
「おいおい、こんな鼠と仲良しなわけねぇだろ。
俺は最強の悪魔だぞ?」
「はいはい、アスモデちゃんかっこいいかっこいい」
「殺す!」
再び空間内を走り回る2人。
ここまで来ると、コントを見ている気分だ。
「いやぁ、こんな貴重な体験が出来て楽しかったです。
でも、そろそろ帰りたいので、帰り方を教えてもらえますか?」
よしっ、帰ろう!
「帰り方?
僕そんなの知らないよ。
アスモデちゃんは?」
「そんなもの俺は知らん」
・・・。
「えっ?
じゃあ、俺はここからどうやって帰ればいいんですか?」
「僕は知らないよ。
アスモデちゃんは?」
「そんなもの俺は知らん」
・・・。
「えええええええええ!」
これはもう、まずいとかそういう話じゃない。
確実に詰んでいる。
「早くシェルヴィ様の元へ帰りたいのに、こんなのって無いよぉぉぉ」
無性に床を殴りたくなった俺は、何度も何度も床を殴った。
「ねぇアスモデちゃん、なんか可哀想じゃない?」
「まぁそうだな。
俺もこんな空間に突然入れられたら嫌だし……」
「しゃあねぇ、出してやるか」
「出してあげよっか」
床と睨めっこする俺の横で、急速に高まる2つの魔力。
しかし、その人間離れした膨大すぎる魔力は、ただでさえ広くない空間を激しく圧迫した。
「くっ……!」
な、なんだ!?
呼吸をするという当たり前の動作が、辛い……。
「ハースくん、3、2、1でこの壁に向かって走るんだ!」
「チッ、1回しかやんねぇから逃すなよ!」
「わ、か……」
くそっ、声が出ない。
俺は口を閉じ、静かに頷いた。
「じゃあ行くよ!
3……2……1……!」
掛け声に合わせ、俺は壁目掛け全力で走った。
「魔静術……消去」
「魔静術……消滅」
アースの人差し指から放たれた純黒の魔弾とアスモデウスの手のひらから放たれた暗黒の魔弾。
その2つが空気中で合わさり、無の空間に人1人がギリギリ通れるくらいの穴が空いた。
デリートって、まさか……。
「さぁハースくん、行って!
(君に会えてよかった)」
アースさん。
「もう2度と来んじゃねぇぞ!
(こんな地獄は、俺と鼠だけで十分だ)」
アスモデウスさん。
「ありがとうございました!」
無の空間を走り抜けると、突如眩しい光に包まれた。
「う、うわぁぁああああ!」
眩しすぎて、何も見えない。
果たして俺は今、生きているのだろうか?
それすらも分からない。
「……ース」
あれ?
今、光の先から、シェルヴィ様の声が聞こえたような……。
いや、気のせいか。
「ハース」
いや、シェルヴィ様が俺を呼んでいる。
シェルヴィ様、俺はここです!
「ハース! ハース! ハース!」
シェルヴィ様は、間違いなくあの光の奥にいる。
俺は必死に手を伸ばした。
届け、届け、届いてくれぇぇぇぇぇえええ!
「シェルヴィ様!」
「ハース!」
ゴツン。
「いったぁぁぁあああ!」
「痛いのだぁぁぁあああ!」
勢いよく身体を起こしたせいで、俺のおでことシェルヴィ様のおでこがぶつかった。
「はぁ、なんでこうも上手くいかないのにゃ」
「でも、ハースさんらしいです……にゃ」
ポコっと膨れ上がる俺とシェルヴィ様のおでこ。
「ぷぷっ、ハースのおでこ変なのだ!」
「それはシェルヴィ様もですよ」
俺とシェルヴィ様はお互いのたんこぶを見て、笑い合った。
「ハース、さっさと起きるにゃ。
早く起きないと、早く起きないと、身体が臭くなっちゃうにゃ!」
この時、シロは思った。
お姉さま、それズレてます……にゃ。
「おいハース、早く起きるのだ。
お前が起きないと、我は、我は……」
「シェルヴィ様……」
「シェルヴィ様……」
ベッドで眠るハースの手をしっかりと握るシェルヴィ様の瞳は、今にも溢れ出そうな何かを必死に堪えていた。
そしてそれは、この2人も同じである。
「ハース様、あの凄まじい力について早くお話したいガウ……」
「ハース様、早く元気な姿を我々に見せてください……」
バレないように窓の位置を少しずつベッド横へとずらし、張り付くようにして様子を見守るフェンリアルとレオル。
そう、多くの人が今、ハースの目覚めを待っているのだ。
一方その頃、俺は正方形の白い空間にいた。
そこには何も無く、ゆえに静かである。
「ここは一体……」
声が反響してる。
ということは、密室か。
「おっ、お目覚めか?」
「やっと起きたの?」
「誰だ!?」
知らない声と聞き覚えのある声。
この2人、今まで気づかなかったのが不思議なほど凄まじい魔力を持っている。
俺は、恐る恐る声のする方に目を向けた。
するとそこには……。
「俺はアスモデウスだ、よろしく」
「やっほー!
僕はアース、よろしくね!」
「えっ、本当に誰?」
空間の隅と隅に寄りかかるピンク髪の男と白髪の男。
背丈は俺と同じくらいだが、身体から溢れる圧が違う。
「えーっと、そちらの方がアスモデウスさん、でしたっけ?」
「あぁ、そうだけど何か?」
はぁ、これだけは聞かないと。
「どうして学ラン着てるんですか?」
「あ? だめなのか?」
「いえ、お似合いです」
「ぷっ、ははははは!
そんなにびびることねぇじゃん!
でも、ありがとな」
「はい」
アスモデウスって、確か悪魔の名前だよな。
まぁ黒い角が2本生えてて、赤い目をしてたら悪魔か。
でも、怖くて仕方ないはずなのに、学ランを着ているせいか親近感が湧いてしまう。
「それで、そちらの方がアースさんですよね?」
「うん、アースだよ!」
度々耳にする声の主はこの人か。
なんか見た目も俺と似てるし、よく耳にする声だし、黒軍服を着てるし、こっちもこっちで親近感湧くなぁ。
「アースさん、ここはどこなんですか?」
「ここはね、君の中だよ!
ねっ、アスモデちゃん」
「おい、その呼び方やめろって言ったよな?」
「えっ何それ、初耳なんですけど」
「てめぇ!」
空間内を走り回る2人。
でもまぁ、ふざけているところを見ると、この空間をよく知っているのだろう。
「あのー、俺帰っていいですか?」
「えっ、もう帰っちゃうの?
やっと会えたのに、僕寂しい」
一瞬立ち止まったアースは、俺を見てそう言った。
やっぱりそうだ。
その言い方をするってことは帰れるってことだよな。
「俺に隙を見せるとはいい度胸だ!」
そして、その一瞬の隙を狙ってアースに掴みかかるアスモデウス。
「ほいっ」
だが、アースは逆をつくステップで華麗にそれをかわした。
「チッ、これだからすばしっこい鼠は嫌いなんだよ」
「人を鼠呼ばわりするなんて、アスモデちゃん最低、ブーブー」
「はぁ、まじムカつく」
その様子はまるで、子供同士の喧嘩を見ているようだ。
「2人は仲良しなんですね」
「おいおい、こんな鼠と仲良しなわけねぇだろ。
俺は最強の悪魔だぞ?」
「はいはい、アスモデちゃんかっこいいかっこいい」
「殺す!」
再び空間内を走り回る2人。
ここまで来ると、コントを見ている気分だ。
「いやぁ、こんな貴重な体験が出来て楽しかったです。
でも、そろそろ帰りたいので、帰り方を教えてもらえますか?」
よしっ、帰ろう!
「帰り方?
僕そんなの知らないよ。
アスモデちゃんは?」
「そんなもの俺は知らん」
・・・。
「えっ?
じゃあ、俺はここからどうやって帰ればいいんですか?」
「僕は知らないよ。
アスモデちゃんは?」
「そんなもの俺は知らん」
・・・。
「えええええええええ!」
これはもう、まずいとかそういう話じゃない。
確実に詰んでいる。
「早くシェルヴィ様の元へ帰りたいのに、こんなのって無いよぉぉぉ」
無性に床を殴りたくなった俺は、何度も何度も床を殴った。
「ねぇアスモデちゃん、なんか可哀想じゃない?」
「まぁそうだな。
俺もこんな空間に突然入れられたら嫌だし……」
「しゃあねぇ、出してやるか」
「出してあげよっか」
床と睨めっこする俺の横で、急速に高まる2つの魔力。
しかし、その人間離れした膨大すぎる魔力は、ただでさえ広くない空間を激しく圧迫した。
「くっ……!」
な、なんだ!?
呼吸をするという当たり前の動作が、辛い……。
「ハースくん、3、2、1でこの壁に向かって走るんだ!」
「チッ、1回しかやんねぇから逃すなよ!」
「わ、か……」
くそっ、声が出ない。
俺は口を閉じ、静かに頷いた。
「じゃあ行くよ!
3……2……1……!」
掛け声に合わせ、俺は壁目掛け全力で走った。
「魔静術……消去」
「魔静術……消滅」
アースの人差し指から放たれた純黒の魔弾とアスモデウスの手のひらから放たれた暗黒の魔弾。
その2つが空気中で合わさり、無の空間に人1人がギリギリ通れるくらいの穴が空いた。
デリートって、まさか……。
「さぁハースくん、行って!
(君に会えてよかった)」
アースさん。
「もう2度と来んじゃねぇぞ!
(こんな地獄は、俺と鼠だけで十分だ)」
アスモデウスさん。
「ありがとうございました!」
無の空間を走り抜けると、突如眩しい光に包まれた。
「う、うわぁぁああああ!」
眩しすぎて、何も見えない。
果たして俺は今、生きているのだろうか?
それすらも分からない。
「……ース」
あれ?
今、光の先から、シェルヴィ様の声が聞こえたような……。
いや、気のせいか。
「ハース」
いや、シェルヴィ様が俺を呼んでいる。
シェルヴィ様、俺はここです!
「ハース! ハース! ハース!」
シェルヴィ様は、間違いなくあの光の奥にいる。
俺は必死に手を伸ばした。
届け、届け、届いてくれぇぇぇぇぇえええ!
「シェルヴィ様!」
「ハース!」
ゴツン。
「いったぁぁぁあああ!」
「痛いのだぁぁぁあああ!」
勢いよく身体を起こしたせいで、俺のおでことシェルヴィ様のおでこがぶつかった。
「はぁ、なんでこうも上手くいかないのにゃ」
「でも、ハースさんらしいです……にゃ」
ポコっと膨れ上がる俺とシェルヴィ様のおでこ。
「ぷぷっ、ハースのおでこ変なのだ!」
「それはシェルヴィ様もですよ」
俺とシェルヴィ様はお互いのたんこぶを見て、笑い合った。
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