「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶

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番外編

リカルド・クロイツという男

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 とある休日、クロイツ邸にて、カナリアとサリナは中庭でお茶会をしていた。

「え?ロイに妹?居ないよ」

 カナリアは茶菓子に手を伸ばしながら言うと、サリナは何か思い浮かべるような顔をする。

「へ~、じゃあ校長はお父さんの従兄弟さんか、噂の弟さんの奥さんかな?家名同じだもん」

 サリナの脳裏には父親と同じ金色の長い髪を巻いた女性の姿が映る。

「何言ってるの?リカルド君は男だよ」
「え、えぇ!?おっぱいあって、身長高めだけど声も高い女性だったよ!?」
「おっぱいは魔法で作って、身長も声も地のゴリゴリの男だよ」



「改めて結婚おめでとう兄上」
「あぁ。お前もこれればよかったのにな、リカルド」

 ラピス魔法学校の校長室でロナルドとリカルドは対面していた。
 リカルドは女性のような笑みを浮かべ「ウフフ」と笑声を出す。

「全くよもう!緊急の会議なんてブッチしてやれば良かったわ!」
「それではほかの教員が困るだろ」
「分かっているわよ。にしても見たかったわ、義姉上のウェディングドレス姿」
「そういうと思って、持ってきたぞ」
「?」

 ロナルドは懐から一冊のアルバムを取り出すと、リカルドに差し出す。

「これって…」
「式の前撮りだが、あいつとサリナ、俺の3人の集合写真を含めた物に数枚ある」
「まぁ!貰っていいの!?」
「予備を含めて数冊あるからな」

 そう言いながら紅茶を飲むロナルドに、アルバムを受け取り嬉しそうに微笑むリカルド。

「しかし、あの仲の悪かった2人が結婚とはね…」

 リカルドはしみじみと思い出す。



「あ、兄上。その怪我どうしたんですか?」

 数年前、ラピス魔法学校の生徒であったリカルドはたまたま帰省しており、実家で対面した自身の兄の姿を見て驚愕した。
 ロナルドは右腕を負傷しており、包帯でガッチリ固定されていたのだ。
 回復魔法を使えればいいが、治癒系統の魔法はとても貴重で滅多なことで使われなかったのだ。

「同僚にやられた」
「同僚…って、魔法省の!?」

 ロナルドは少し不貞腐れながら答えるが、リカルドはまた驚愕する。
 魔法省はエリートばかりが集まる機関である。
 そのため、怪我をさせるような野蛮な事をする者がいる事に驚きを隠せなかったのだ。

「あいつ、いつか絶対後悔させてやる…!」
(こんな兄上初めて見た…)

 あの冷静沈着な兄がここまで感情的になるのは珍しい、この頃まだ女装に目覚めていないリカルドはそう感じた。


「えっと、この書籍は…」

 数日後、ラピス魔法学校へ戻ったリカルドは図書室で書物を漁っていた。
 リカルドは暇さえあれば図書室で本を読む生活を送っていた。

「あ」

 探してる書物を見つけたが、先客ですでに手に持たれていた。
 見た所外部訪問者らしく、首から名札を投げていた。
 長くて美しい白百合のごとく真っ白な髪を纏め上げた、気品溢れる姿の女性だった。

(綺麗…)

 リカルドはぼーっと見ていると、その視線に気づいたのか相手は目をリカルドの方へ動かす。
 蛇のように吊り上がった赤い瞳が、リカルドをまるで獲物を捕らえようとする獣のように捉える

「お探しの本、これ?」
「え、あ、はい…。あ、でも大丈夫ですよ!僕他を探しますので!!」
「良いよ。たまたま手に取っただけだから」

 はい、と差し出される本をリカルドはつい受け取ってしまう。

(邪魔しちゃったかな…)

 リカルドは1人反省していると、女性は声を上げる。

「君、3年生だよね?この範囲まだ先だよね?予習するなんて偉いね~」
「え」

 突然褒められ、リカルドは硬直する。
 初めて褒められたのだ。
 リカルドの実家、クロイツ家は実力こそ全ての家だった。
 その中でも特に自身の兄は若くして魔法省の大臣にまで上り詰めたエリートだ。
 そんな彼に比べられ、リカルドはいつしか兄に劣等感を抱き始めた。
 それでも、努力することは辞めず、ひたすら走り続けた。
 だが、その事を兄はおろか両親すら褒めたことはなかった。

(嬉しい…!)

 リカルドは歓喜の声を心のなかで叫んだ。
 そんな中、女性の足元で何か動くのを感じ取る。
 視線を下げてみると、そこには巨大な蛇の体があった。
 目元には不自然なほど似合わないゴーグルがかけられた、そんな蛇だった。
 驚きのあまり声を失うリカルド。
 しかし、女性は驚く素振りを見せず、蛇に向かって口を開く。

『   』
「え?」

 声にならない、かすれた空気の様な音が響く。
 するとその音に反応して、蛇は女性の足を伝い上へ上がってくる。

「よしよし。いい子いい子」

 女性は何の躊躇いもなく、蛇の頭を撫でる、が、その姿を見てリカルドはさらに言葉を失う。
 何故なら女性が撫でてる蛇はバジリスクだったからだ。

「ば、ばじ、バジリスク…っ!?」
「あら、よく知ってるね」
「危険飼育禁止魔法生物じゃないですか!?」

 リカルドは恐怖を感じ声を上げる。
 危険飼育禁止魔法生物とは、その名の通り危険のあまり飼育を禁止されている生物の事だ。
 飼育しているだけでも罰則されるが、そもそも飼っている事で即死するものばかりだ。
 特にバジリスクは見たものを石化させたり、その毒は魔法を腐食させたりする、魔法を使う者にとっての天敵だった。

「可愛いでしょ。ナーシャっていうんだよ」
「え、えぇ?」

 獰猛であるはずのバジリスクがまるで懐いた猫の様に女性に甘える。
 その異様な光景にリカルドは顔を引くつかせる。

「撫でてみる?」
「え!?で、でも…」
「大人しいから!ほら」
「え、ちょ!?」

 女性に手を引っ張られ、リカルドはバジリスクに触れてしまう。
 その感覚はひんやりしていて、プニプニしていて、どこか癖になりそうな感覚だった。

「可愛い…」
「ね?」

 つい言葉を発したリカルドに、女性は微笑む。
 その笑みを見て、何処か恥ずかしげにリカルドは顔を赤くした。

 これが、リカルド・クロイツとカナリア・スタインベックの出会いだった。
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