町娘は王子様に恋をする

くさの

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 話す前にもう一度、羽柴先輩を目で探す。いつの間にかまた違う場所で、違う人の隣に座っていた。
 いつもならもう少し、声をかけてくれるのに。あの日から、距離感が微妙に変わった気がする。元々今の距離が普通なのかもしれない。
 そう思って、胸がキュッと苦しくなる。
 けれど、楽しそうだとそれはそれで嬉しくなる。
 羽柴先輩はこういう場所が好きだし、自分からこういう場を設けることも昔はしていた。偶然にせよ、先輩の周りはいつの間にか騒がしくなっていることが多かった。
 私の視線の先に気付いて、加宮さんが私の顔の横に自分の顔を寄せて同じ方を見た。少し恥ずかしさを覚えた。
 加宮さんの柔らかくて、でも張りのあるほっぺたが当たっている。なんだか役得になってしまった。

「どうして羽柴さんなの?」
「えっ」

 頬から温もりが去っていくと同時に疑問を投げかけられる。
 はたと、そんな調子で気付かされてしまうその度に、好きな部分を浮かべて、その部分だけが私の目が彼を追う理由なのかとモヤモヤを残す。
 いままでみてきた羽柴先輩の姿の、どこが、私の一番奥に引っかかっているのだろう。
 どうしてそれは、いつまでも抜けないで、私に彼から離れるという選択を選ばせないのだろう。
 どうして。
 この間の事もそうだ。どうして、距離があんなにも近づいただけで、あの一分もない短い時間のことを思い出してはドキドキと胸を高鳴らせてしまうのだろう。

「どうして、だろうね」
「まあ、理由ははっきりと言語化できないこともあるだろうし、出来る事もあるだろうけど、私は、うさぎがいいならそれでいいと思うよ。ただ、羽柴さんが不器用にみえて……その辺りですれ違ってるのかな? って。あと、昔の自分と郁哉を見せられてるみたいでとてつもなく恥ずかしい。傍から見たら一目瞭然でも、当人たちは当人たちで必死に悩んでるから、ズレが起こるんだよね」
「ズレる?」
「なんてことない、ってうさぎが思ってる羽柴さんの行動あるでしょ? けどそれって他の社員からすると、なんてことあること多いよ。……うさぎは羽柴さんの事、好きでしょ?」
「す! ……嫌いではない……」
「大丈夫だよ。私はうさぎの味方だし、きっとそうだろうなって思ってた。いつ教えてくれるのかなって、待ちたかったけどずっと聞きたくもあった。ごめんね、うさぎは自分のこういう話、したくない人だよね」

 へへっと、誤魔化すように笑って加宮さんがレモンサワーのグラスを傾けた。
 私は一旦アルコールから離れてグレープソーダに替えてちびちび舐めるように飲んでいる。お酒は弱くはないけれど、強くもないから飲み過ぎには注意しなければ。
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