ブレイクソード

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第十五話 憧憬をなぞって

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目が覚めるとなのも無い空間に居た。なのも無いというと語弊があるな。

白い空間で、暗い光を放つところと、強い光を放つところがある。

今分かるのは、ここが俺が暮らしていた世界じゃないということだ。

「なぁ、作者、ここはどこだ?」

とりあえず、この物語を綴っている、作者に問いかける。普通は神とかだろって?

見たことないからな何とも言えない。その点作者は返答してくれるからな。

【そこは生と死の狭間だよ】

え?つまりは俺は瀕死ってことか?

【そうだね。生きるか死ぬかは君の意思によって決まるよ】

oh,,,まじか。それは生きる一択だろ。

【生きる選択肢でいいのかい?】

当たり前だろ!やり残したことがたくさんあるからな。

【でも、君の先祖が呼んでいるよ】

「おーい、お前もこっちにこいよー」

声がした方の見ると、確かに先祖がいた。

それも俺が大好きだった、じいちゃんたちだった。

一人は、俺の愛剣を作ってくれた、俺が思う世界一の鍛冶師。

もう一人は、気ままに旅をしていた、自由の象徴だった俺の憧れの人だ。

「いまはまだ行けない。向こうでやることがあるから」

「そんなことを言わないでくれよ。わし達はブレイクとこっちで話がしたいんだ」

「でも、また会えるだろ?」

【分かんないな。魂が消えてしまうかも】

作者が驚きのことを言った。どういうことなんだ?魂が消えるとどうなる?

【簡単なことだよ。この物語から消えてしまう】

嘘だろ,,,まさか、作者が敵だなんて。

【敵じゃないよ。この物語のことを教えているんだ。設定で決まっているだろ】

そうだとしても,,,あんまりじゃないか?俺の大事な人達を見捨てろってのか!?

【そう怒んなよ。もとはこうなるはずだっただろ】

だけど、もっと後半じゃなかったか?

【君たちが自由にやりすぎたからね。調整をしないと】

それは、俺が悪いけどよ、代償は十分に払ったじゃないか!

【確かに貰ってはいるけど、足りないよ】

俺はある程度自由にやらせてもらうにあたってある程度の代償を払っている。

青かった髪は赤に、生まれは貴族から平民に、騎士からニートに、と言った具合で、俺が不便になるようになっている。

これは俺が決めたのではなく、作者が決めたものだ。

次はお前は何を取るんだ?覚悟を決めて、問いかける。

【アクセルかブランの命。それで君は生き返れるし、二人の魂は残ったままになる。悪くないだろ?】

お前、まじで終わってんな。そんなのを選ぶくらいなら、ここでくたばってやるよ。

そうすれば、このくだらない茶番劇も終わるだろ?

【君らしい回答だね。気に入ったよ。今回は特別だ。魂は残しておくよ】

お前もこの物語が終わるのが嫌か。

【違うよ。君が君を保てなくなるのが嫌なんだ】

どういうことだ?

【教えるにはまだ早い。それよりも、じいさんたちと話して来たら?なぁに、死んだりしないよ】

納得できないが、仕方ない。それよりも、大好きなじいさんたちと話せることを喜ぼう。

そこからは。じいさんたちと昔の話をしたり、亡くなった後の話をした。

じいさんたちは、反応が良い。俺もしっかりと遺伝している。

気の許せる人たちと話せるのはこんなにも楽しくて心が躍るものなのか。

笑われないし、むしろ応援をしてくれる。このままでもいいのかもな。

おっと、そうしたら本当に死んでしまうな。

ある程度のところで切り上げないとな。名残惜しいが。

俺のことをよくわかっている二人だ。

俺が帰ろうとしているのが分かったのだろう。

「もう行くのか。次はいつ会えるかの」

しわだらけの顔を歪ませながら、二人は笑う。泣きそうだ。こんな何もない空間で、俺をまた待つなんて。

「ブレイク、そんな顔をするな。お前は笑顔が良く似合う」頭を撫でられる。

ごつごつとした岩のような手。この手で、俺の愛剣を作ってくれた。

今もあの光景を鮮明に思い出せる。

真っ赤に光る金属を、一心不乱に叩く、叩く、叩く。

小さな、小さな金属が、俺の想いにこたえるように大きくなっていく。

「ブレイクは大剣が好きなのか。わしと一緒じゃな」

当たり前だろ。あんたの背中を見てきたんだから。

「そうだぞ、ブレイク。泣くのは息を呑む美しい光景を目にした時だけだ」

そう言って、一枚の地図を渡された。とても見覚えのあるものだった。

俺が今も持っているものと同じ地図だ。

俺が十歳の誕生日を迎える前に渡された一枚の紙。

そこにはロマンのすべてが詰まっていた。

世界地図。前人未到の地ですらも踏破している幻の地図。

これを見て、愛剣を持って旅をするという妄想をずっとしていた。

理由は、憧れの軌跡をなぞりたかったから。

「ありがとう。今までも、これからも」

二人に抱き着いた。泣き顔ではなく、とびっきりの笑顔で。

「おまえはその顔が良く似合う」「気を付けていくんだぞ」

激励の言葉を貰う。

「行ってきます」

振り返って、光が強い方向に向かう。

声が聞こえるけど、振り返らない。

振り返ったら、足が止まってここから出れなくなる。

次に会うときは、もっと立派になって帰ってくるよ。

光に包まれながら、強く、強く誓った。
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