ブレイクソード

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第二十四話 山龍 終

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こいつの動きは止まったか?なんかまだ動いているような気がするんだが」

心臓を二つも壊したのにまだ動くんだったら、あと何個あるんだよ。

「どうやら、あと一つあるみたいです。それもすぐ近くに」

何日も歩くことにはならなくて済みそうだな。

「どの辺にあるんだ?」ようやく終わるとなると、心が躍るな。

「えっと、それが,,,」

アクセルが汗を流している。まさか分からないってことじゃないよな?

そうだよな?

「なんだよ、早く教えてくれよ」

こっちはもう出れるってわかってうずうずしてるんだ。

「こっちに向かってきています!!皆さん壁のほうに走ってください!!」

突然なアクセルの大声で腰を抜かしたブランを持って壁に向かって走る。

ここから壁まで数百メートルはあるぞ。

それに向かってきているってどういうことなんだ?

その正体はすぐに分かった。

ドドドドドドドドドと音を立てて、何かが奥から向かってきている。

ドラゴンだ。大きさは、縦五十、横百メートルってとこだろうか。

数秒後には俺たちがいた場所を駆けていた。

アクセルが気づいていなかったら、死んでいたな。

「アクセル!!あれが最後の心臓か!!」

向かいの壁に居るアクセルに聞こえるように叫ぶ。

ブランの耳は俺がしっかりと抑えているから、心配はない。

「そのようです!死なないように心臓が形態を変化させたみたいです!!」

まじか。あんな巨体に対して攻撃が通るのか?

おとなしく逃げた方がいいんじゃないか。

パーティーリーダーとして、選択が迫られる。

仲間を危険に晒すことなんかできるわけがない。

ここまできての撤退はきついが、命のほうが大事だ。

「お前ら!撤退するぞ!手元にある転送石を砕け!」

全員の耳に届くように叫ぶ。アクセルはもう転送したらしい。

緑色の残滓が見える。あとは、俺とブランか。

「ブラン!お前持っているよな!」

なかなか転送を始めないブランに確認を取る。

「,,,いわ」声が小さくて聞こえない。

「大きな声で言ってくれ!」

「転送石がないわ!」泣きながら、叫ぶブランが見える。

転送石は一つにつき、一人だけしか、転送できない。

こうなったのは俺の責任だ。

「お前はこれを使え!」

ブランに俺が持っていた転送石を投げる。

「でも、これを使ったらあんたが,,,」

ブランが何かを言おうとしていたが、転送された。

時間ぴったりだな。壊れるぎりぎりまで傷を入れておいた。

あとは、すこしの衝撃で、発動されるってわけだ。

「待たせて悪いな」

後ろに居る、圧倒的な力を持つ、ドラゴンに言う。

「ガオオオオオォォンンンッ!!」

返答をするように、咆哮が帰ってきた。

咆哮でこの威力かよ。なんて思いながら俺は宙に飛ばされる。

音の壁にぶつかったような感じだ。

生きて帰れるかな。愛剣を握りしめ、ドラゴンに向けながら思う。

見た目は心臓とは思えないな。本当に俺たちを殺すために変異したんだろうな。

赤黒い鱗に、血が滴っている爪と牙。

俺を見下ろす二つの目は、怒りを体現しているかのように、真っ赤になっている。

弱点である逆鱗も無いのか。

観察をしながら攻撃が通りそうなところ、死角になりそうなところを探す。

まともに戦って勝てる敵ではない。逃走を第一に立ちまわなければ。

向こうもこちらを観察している。どうすれば一撃で終わるのかを。

とりあえず、スキルを使って、生存率を上げるか。

「母なる大ち,,,」スキルを発動させようとした瞬間に、

咆哮が飛んできた。まじか、頭回りすぎだろ。

今度は飛ばされないように踏ん張る。グチャアアァ!肉が削れる音が聞こえる。

こいつは体がボロボロになってもいいのか。それとも山龍の正体がこいつなのか。

今はそんなことはどうでもいい。攻撃を避けなければ。

いつの間にか目の前まで突進をしてきたドラゴン。

咄嗟に爆破魔法で自分のことを飛ばして避けようとする。

くそっ!避けられない!左手の感覚がない。いや左腕の感覚がない。

肩から先が熱い、熱い熱い!!見たくない、知りたくない。

ぽちゃ、ぴちゃ、と液体が落ちる音がする。

でも、戦いを進めるには、見なくては。

「がああああぁぁぁっぁぁぁっぁぁっぁぁあ!!!!」

視認をするとともに、常人では耐えられない強烈な痛みが脳に送られてくる。

想像通り、左の腕が無い。「おええぇ」理解が追い付かず、嘔吐してしまう。

「ぐううぅぅぅ!!」これ以上血が無くならないように、魔法で、断面を焼く。

臭い。こいつの肉を焼くのとは違う匂いが辺りに立ち込める。

この匂いがまた、腕を無くしたという現実を突きつけてくる。

それよりもなんでドラゴンは攻撃をしてこないんだ。

ドラゴンがいる方を見る。

そこには見たことを後悔したくなるほど、凄惨なことがされていた。

俺の左腕で遊んでいたのだ。あの巨体で、器用に、馬鹿にするように。

こちらの視線に気づいたのだろうか。口角をグイッと引き上げると、

腕を、ぐちゃ、ごり、ぐちゃと音を立てながら食べ始めた。

やめろ、やめてくれ。それが無いと、剣を、仲間をブランを抱けないじゃないか。

「もう十分だろ。これ以上俺の尊厳を壊さないでくれ,,,」

俺の言葉が届かないとしてもこの惨状を前にして、

そう懇願することしかできなかった。

俺の腕の咀嚼音が聞こえなくなった。最後に飲み込んで終わりかと思ったが、

こいつは予想と斜め上のことをした。「ペッ」俺の腕を吐き出したのだ。

それを腕と言っていいのかも分からないほどの物だった。

赤と白が混ざった肉の塊。所々から、指のようなものが見える。

それを見て、また吐いてしまう。

そしてすべてがどうでもよくなった。生きるのもあいつらのことも。

腕が無ければ剣を振ることが出来ない。俺のかちはもうないのだ。

おとなしく死が来るのを待つ。

ズシン、ズシンと死の音が近づいてくるのが分かる。

こんな世界糞くらえ。

バクンッ!!

俺はドラゴンに飲み込まれてしまった。

この先何が起こっても、俺の知ったこっちゃない。

案外、死というのは優しいものなのかもしれないな。

幼い頃からの記憶を辿りながら、そんなことを思い意識を手放した。
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