ブレイクソード

遊者

文字の大きさ
上 下
56 / 110

五十五話 終わったかも

しおりを挟む
「とは言ったもののどうするかな」一週間くらいなら寝ないで活動できるから、フルで時間を使っていきたい。しかしどうすればあのような動きにできるのか全く想像がつかない。



「とりあえず発動させてみるか。目標は一部分だけの餓狼化」今回は腕だけに集中してここだけを餓狼状態にすることを目標にしている。



どんどん腕が黒い体毛で覆われていくのが分かる。本来ならここから広がっていくが、ここで留める。



「なかなか,,,上手くいかな,,,いっ!!」膨大な力を一点に止めておくのは想像を絶するものだ。内側から肉が裂けていくような感じがする。これを耐え続けなくてはいけないのか?いや考えろ、アイツは周囲にも影響を及ぼすって言っていたな。これを周りに放出できれば,,,



「ぐあぁ!!」何て考えている間に全身に体毛が広がってしまった。急いで解除しないと。あ,,,今の俺には自力で解除が出来ないんだ。また瀕死の状態にしないといけないのか。あれが一度きりのものだったら困るが。今は理性が生きている間にできることをしないと。



短剣を手に取って体に刺していく。自分自身を痛めつけるのは気分がいいものではない。不意を突かれた攻撃だったらまだ耐えれるが、いつくるのかわかっているから痛みが余計に増す。



「ここでも駄目か,,,」足、腕、腹と突き立てていったがいまだに解除できる気配が無い。心臓や喉元を刺さないといけないのか。本当に急所を狙わないと。覚悟を決めろ、俺。死んだら死んだで終わりだ。これが力を得るための最善策だ。



「よし、行くぞ」心臓に向かって思いっきり短剣を突き刺す。加減はしない。中途半端な状態で回復したら目も当てられない。それにこの痛みを経験するのは一回だけでいい。



「っぐ,,,ふ」短剣が刺さったまま、前の方に倒れる。万が一力が足りなかった時の保険だ。でも今回はいらないみたいだな。しっかりと心臓を貫いているし、餓狼が解除されていく感覚がある。これで一日が潰れるのか。最悪だな。薄れていく意識の中で悪態をついた。



目が覚めた時には予想通り一日が経っていた。この調子で大丈夫なのだろうか。一抹の不安を抱えながら、今日の餓狼の制御を試みる。



前回の実験で分かったのはアイツの言葉通り周囲に影響を及ぼせるということだ。完全に餓狼になる前にあいつと同じような霧のようなものが出せた。あれを再現できれば大きく前に進むことが出来るだろう。



「イメージは溜まった力を変換する感じで,,,」昨日と同じように腕に集中して餓狼を発動させる。腕が瞬く間に黒くなっていく。ここまでは順調だ。次にやらないといけないのはこの溜まっていく力を別の力に変換することだ。



何を媒体にすればいいんだ。地面か?それともあの木にするか?できる限り力が伝わりそうなものを探す。やはり空気しかないのだろうか。



「これを,,,こうして,,,」余裕があるうちに試行錯誤をする。空気に直に力を与えてみたり、魔法の様に変換してみたりした。だが何も上手くいかなかった。何か足りないものでもあるのだろうか。



「力が溢れたときに霧になったよな,,,全開で出力してみるか」一か八かの賭けに出る。俺の予想が正しければ餓狼の力が限界になったときに具現化する。されなかったらまた別の方法を模索すればいい。



「ぐ,,,あ,,,」腕が無くなっていくような感覚と共に、周囲が霧で包まれ始めた。あまりにも痛い。恐らく効率が悪いせいだろう。ここからさらに研究を重ねていく必要がありそうだ。



そんなことよりこれを維持しないと,,,霧の状態をイメージしながら力を変換させようとする。上手くいかないな。ぐにゃぐにゃ動いたり、石の様になったり安定しない。それでも完全に餓狼になることは無かった。一応成功はしているだろう。



ともかく、これで心臓を貫いたりして瀕死にならなくて済むしいいか。痛みに対する耐性も付くだろうし。それよりもどうすればよくなるか考えていかないと。



今は限界まで溜まった力を漏らしているだけだ。これをいかに少ない力で発動できるかがカギになるだろう。あいつはそんなのもお構いなしに使っているだろうが熟練の技ってものだろう。あそこに行くまでは時間が掛かりそうだ。



今はゆっくりでいいから目の前の問題から片付けて行こう。それが一番の近道だ。強くなるのに楽な方法なんてない。ひたすら努力して実るのを待つだけだ。実らなかったら努力が足りなかっただけだ。



餓狼を漏らし続けて二日が経った。今判明しているのは二つ。愚見かするためには何か媒体が必要なこと。これは極論なんでもいい。人でも地面でも空気でも力が伝わればOKな感じだ。



二つ目はイメージが重要だということだ。少しでも邪念が入っていたりすると、すぐに形が崩れてしまう。霧にしたかったらなるべく具体的な想像が必要だ。俺が想像しているのはアイツが使っていた黒い霧だ。あれが一番印象に残っていて想像しやすい。



アイツが来るまであと四日はある。それまでにどこまで高みに行けるか。せめてあいつに一撃を負わせるくらいの力が欲しい。あの舐めた感じで攻撃してくるあいつに一泡吹かせることができるくらい。



ま、本当はアイツから逃げきれるくらいでいいんだが。欲張っていたって仕方がない。それよりも今はこの常時発動されている餓狼を解除できるようにならないと話にならない。



二日も発動しているせいで、腹が余計に空くし、喉の渇きも異様に早い。このままじゃ備蓄していた食料が無くなってしまう。前までだったら血を浴びれば戻れたんだがな。



あれ?これもしかして、解除に必要な血の量が増えてるわけじゃないよな?もしそうだとしたら相当な血の量が必要になる。自分を何回も殺すくらいの量の血が。



最悪だ。強化されてるってことはそれなりの代償が付くよな。このまま常時餓狼ってのも悪くはないだろうが効率があり得ない位悪いし、集中していないとイメージが飲み込まれてしまう。



体に覚えさせろってことなのか。思い出してみればアイツもスキルを発動させる前から常に霧のようなものを出していたな。はぁ、あいつですらコントロールできないってなると本当に解除するのがきついらしな。



後の四日は餓狼の制御に加えて、飢えとの戦いになりそうだな。『ぐぅ~』言った傍から腹が鳴った。このまま飲まず食わずで行ったら仙人か何かになれるんじゃないか?まじで目指そうかな。



っていやいや、そんな高尚な存在にはなりたくないな。俺はブレイク達とバカやって旅をしていたい。だからこうやって今の自分と向き合っているんだ〈強制的に〉



今の心の拠り所は三年後の約束くらいだな。そのころには二人は想像もできない位に強くなっているんだろうか。ブランはもうあり得ない位の魔法使いになっていたし、ブレイクは戦いのセンスがあるからな。レンとかと出会っていたら強くなっていそうだ。



レンって誰だって?俺がグロリア王国に居たときに仲良くしていた貴族だよ。オーバー家から疎まれていた俺と仲良くしてくれた数少ない人間の一人だ。どこから来たのかは分からないが、俺と同じ珍しい髪色をしていたからすぐに意気投合した。



この髪の色は目立つよな、とかそんな小さな話題から、大きくなったどうなりたいって話もしていた。元気にしているだろうか。俺が王国を出る前は剣聖の試練を受けていたから何もわからない。



でもアイツのことだ。無事に剣聖になって高みを目指しているだろう。あいつはギルガ家の中でもかなりの異端児で、一撃にすべてを懸けていた。後先のことを何も考えていない、馬鹿まじめな攻撃を得意としていた。



俺はそんな戦い方に魅せられていた人間の一人だった。戦闘が始まったと同時に放たれる一閃によって対峙していた相手は致命傷を負っているロマンのある戦い方に。まぁしくじれば終わりだったんだが。



それでも今は抜刀からの派生で対応しているだろうな。それか、俺の想像をはるかに超える抜刀術の使い手になっているのかもしれない。



昔話が過ぎたな。こんな辺境の地に居るんだ、人肌が恋しくなるのだろう。この何とも言えない感情を満たしてくれるのはあの二人だけだな。一時的だったら別の人間でもいいんだが。やっぱりあの二人との旅が忘れられない。



王国での嫌な暗い思い出が全て明るく塗り潰されるくらいに眩しかった。俺もおいてかれないように。同じように隣で胸を張って歩けるように、ここで自分との戦いを終わらせよう。



「ここで本当に終わるといいな」星が空を燃やすくらいに眩しいくらいの夜に俺は覚悟と決意を固めた。
しおりを挟む
1 / 2

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

人質は甘く残忍な世話に鳴き喚かされる

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

世界の誰より君がいい

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

苦手な君と異世界へ

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:32

もう会えないの

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...