ブレイクソード

遊者

文字の大きさ
上 下
57 / 110

五十六話 合格

しおりを挟む
あれから三日が経ち、約束の時が来た。正直な話、今俺はものすごい興奮している。何故ならこの三日間の間にものすごい成長が出来たからだ。始めの方は不安だったが今は自信にあふれている。恐らくアイツよりも使えるんじゃないかって思えるくらい。



前までは血を浴びないと解除できなかった縛りも克服した。今は餓狼のエネルギーを一定の量を放出すれば解除できるようになった。効率はまだまだ悪いが楽になったとは思う。



それにイメージを強く意識しなくても具現化が出来るようになった。霧以外にも盾だったり、剣に形を変えたりすることが出来る。威力はエネルギーを与えてやればその分上がってくれる。



前は剣の調整をミスったせいで、唯一の癒しだった一本の木が無くなってしまった。余り力は込めていなかったはずなんだが。



まだまだ話したいことはあるが、どうやらその時が来たようだ。



辺りが黒い霧で包まれていく。あの時とは打って変わって最初から発動してきているようだ。餓狼を発動して警戒をしておくか。



「守れ」~黒盾~

俺の周りに黒い盾が現れ回転を始めた。これは餓狼のエネルギーを盾として出力して具現化させている。回転をさせているから攻防一体となってくれるだろう。



「そこまでできるようになったのか」霧の中からあの男が現れた。服装も変化していて、アーマーが無くなり、パーカになっている。何か特殊な効果でも付いているものだろうか。マフラーは相も変わらず風によって靡いている。



「お前に勝ちたいからな」地面に刺さっていた短剣を抜き取り男に向ける。男は不敵な笑みを浮かべながら話し始めた。ずいぶんと余裕がありそうだなだな。



「俺に勝ちたいとまで出たか。面白い。全力でかかってこい。傷一つでも俺に与えられたら質問に答えてやろう」男は両手をポケットの中にしまいながら挑発をしてきた。



舐めたこと言いやがって。その余裕そうな面と話し方をへし折ってやるよ。そして俺の質問に全て答えてもらうぞ。



「あの時とは違うぞ?餓狼!!」全身が黒く覆われていく。あの時と同じように狼の形態をとる。だが理性が完全に残っている。これなら戦えそうだ。



「また同じ手で来るのか?がっかりだな」男は片手を出し、霧の中から狼を召喚した。俺のことを舐めているこいつがしてくることは予想が出来ている。



「本当にそう思うか?」短剣に餓狼の力を纏わせ、狼を両断する。今まではただの鉄くずだったが、今はこいつの首を狙うことの出来る牙になっている。



「思っていたよりもできるな。これならどうだ?」~狼現門~

霧は魔方陣のような形を取り、門のようなものが中から現れた。また狼でも召喚するつもりか?あの程度の雑魚ならいくらでも殺せるぞ。



「開門」男がそう発すると門が開いた。先ほどまでは何の変哲も無い、ただの門が、黒く禍々しいものに変容した。これはまずいな。本能が頭が割れそうなくらいに警鐘を鳴らしている。それでも俺はこの先が見たい。高みに行きたい。



「ワオオォォン」中からさっき殺した狼よりも一回り、いあや二回りは大きい狼が遠吠えや方向をしながら、氾濫した川の様に俺の方に流れ込んできた。。



「ぐっ!」あまりの勢いに後退を余儀なくしてしまう。だが、オレオただ黙って下がっているわけじゃない。殺せそうなやつ、深手を追わせられそうなやつを狙って攻撃している。



「どうした?その程度なのか?」狼の川の向こうから嘲笑の声が聞こえる。うるさいな。今すぐに俺の顔を拝ませてやるよ。



「喰らい尽くせ!」短剣が餓狼の力によって形が変形していく。短剣からロングソードに、そして鎌の形に変化した。だが、変形はまだまだ終わらない。鎌の刀身は狼の口の様に変わり、獲物はいつ凝るのかを待つように震わせている。



柄は俺の右腕と餓狼を通して繋がっていて、根元から斬り落とされない限りは攻撃ができるようになっている。



「うおおぁぁ!!」鎌を狼の群れに向かって薙ぎ払う。肉が引き裂かれる音と、骨が砕かれていく鈍い音が山頂を支配している。たったの一振りで狼の群れは無くなり、眼前には男が立っていた。



「次はお前だ」鎌を振りかぶり、男の首を狙う。ここまでくれば傷の一つや二つは負わせることが出来るだろう。なんて考えていたが予想外な事が起きた。



「ここまでできれば合格だ」男は指をパチンッと鳴らすと俺の餓狼は強制的に解除された。俺たちを覆っていた霧も晴れていて、太陽が優しく照らしてくれている。



「合格って何のことだ?それよりお前の正体は?なんでこんなことをした?」突然の発言に戸惑ってしまい立て続けに質問を投げかけしまう。



「落ち着けよ。時間はまだある」男は俺の好物の飲み物を渡してその場に座り込んだ。



「そ、そうだよな。とりあえず聞きたいことがある。お前の正体は?」渡された飲み物を飲みながら一番知りたかったことを聞く。



「お前は俺だよ」男は深く被っていたフードを取って顔を見せてきた。俺とそっくりの顔が現れた。違うのは向こうの方が多少大人びた雰囲気を纏っているくらいだ。



「もしかしてブレイクが言ってた,,,」



「別の軸から来た」俺の発言に被せるように俺が言った。



「なんで今頃になって接触を図ってきた?」ブレイクもブランも俺よりも早い段階で別の軸の自分に出会っている。俺だけ遅いのは何か理由があるのかもしれない。



「俺のところの軸が安定したからやっとこっちの方に来れた。俺のことは,,,ダストって呼んでくれ」ダストは何かを達成したような顔で教えてくれた。



「軸の安定ってなんだ?」



「言葉通りさ。軸の安定ってひぢshdんcぱ9ふぁ」突然ダストの様子がおかしくなった。壊れたスピーカーの様に同じ様な言葉を羅列し、姿も半透明になったり、服装が目まぐるしく変化している。



「俺が話せるのはここまでか」急に言葉が聞き取れるようになって姿も安定した。ダストは悲しそうな顔で地面を見つめていた。もしかしてこの世界に迫ることでも話そうとしているのだろうか。



「話せることが制限されているのか?」俺は疑問に思ったことをダストに聞く。もしも規制が掛かっているならこの質問の回答も先程の様になるだろう。



「話す方に制限はない。聞く方に制限が掛かっている。お前はまだまだ聞き取れるところの来ていない」どうやら俺の考えは間違っていたようだ、しかし、聞き手の制限が掛かっているということは何か知られたくないものでもあるのだろうか。



「どうすれば聞き取れるようになるんだ?」



「強くなれ。これしか言うことが無いな。今回はお前が壁に当たりそうだったから来ただけだ」ダストはこの先の俺のことを知っているような口ぶりだった。軸が違うということは、時間の流れも違うのだろうか。



「もしかしてダストは俺よりも先の時間に生きているのか?」



「正解だ。軸と軸が重なってたまたま俺が生まれた」なるほど。自由にブレイクが動いたせいで、分岐がたくさんあって、その中から確立されたのがダストというわけか。



「それで先が分かってるダストは俺のところに来たわけだな」



「そういうことだ。これからは結構楽に旅が出来るぞ」胸をドンと押された。自分に鼓舞されるのはなんか変な感じがするな。でも,,,悪くは無いな。



「助かったよ。ありがとな」ダストに向かって手を出す。



「気にすんな。お前も俺が困ったら助けてくれよ」ダストは俺の手を強く握り締めてくれた。



「冗談がきついな。でも気長に待っててくれ」俺は笑いながら返す。でもいつかはダストを超えないといけない気がする。そこまでは頑張るか。



「お前ならすぐだ。それじゃ、俺は元の軸に戻るよ」何もない空間に亀裂が入り、ダストはその中に入って消えてしまった。名残惜しい気もしたが、いつかまた会えるだろう。



その時には今よりも強くなって度肝を抜いてやろう。餓狼もまだまだ研究できるからな。それに大和国に行けば更なる剣術が俺のことを高めてくれるだろう。



「ここからは忙しくなりそうだな」未来に対して多少の不安はあるが、それを上回る程に、期待と楽しみが俺の心を埋めてくれている。



「でもまずは飯だな」ここ数日はろくに飯も食べていないせいで、骨が見え始めている。近くの街によってたくさん食べて休養を取らないといけないな。



山頂からゆっくりと下りながら、近くに街が無いか確認する。大和国の方角に街があったら楽が出来るんだが、真反対にしかなさそうだ。



地図を見て俺は少し肩を落とす。遠回りになるかもしれないからな。まぁ、急いでもいいことは何もないよな。自分のペースで進んでいこう。強くなるには積み重ねが大事だ。今回のは,,,例外だが仕方がない。防ぎようがなかったからな。



「モンスターを倒しながら行くか。金が無いからな」魔法空間の中には一リルも入っていない。まさに無一文だ。素材やら肉やら集めて、ギルドで売るか。幸いにもこの山の下にある樹海は魔素が濃いから上質なモンスターが居そうだ。



「この一週間でどこまで強くなったか確認できそうだ」自分が前よりどれだけ進んでいるのか気になって仕方がない。早くモンスターと戦いたい。



「ちょうどいいところにトレントが居るな」索敵スキルにトレントの反応があった。大きさからして上位の個体なのは間違いないだろう。もしかしたら二つ名持ちの可能性もあるな。



「悪いが実験台になってもらう」餓狼を発動させてトレントに近づく。おぉ、自分の目で見ると大きさが全く違うな。高さは二十メートルは超えているし、幹の太さは五メートルくらいはありそうだ。



「ギギ!ギギ!」どうやら向こうもこちらの存在に気が付いたようだ。隠密も使ってないから当たり前か。真っ向勝負でどこまで強くなったか確認ができるからいいか。



「ギギギ!」トレントが腕を地面に突き刺すと、地面から根が俺を貫くように何本も生えてきた。先端は紫色で鋭く尖っていて、後ろにあった岩を余裕で貫いていた。



直撃するとやばそうだな。早めに終わらせるか。短剣に餓狼の力を与え刀身を黒に染め上げる。これでこの太い幹も斬ることが出来るだろう。



「ふっ!」素早くトレントの後ろに回り斬撃をお見舞いする。この一撃でどれくらいのダメージが入るかな。深手くらいなら上出来なんだが。



なんて思っていたら、トレントは真っ二つになってしまった。あれ?こんなに威力が高いのか。対人戦には向いてないな。それよりも俺は結構強くなったのか?こいつが弱かっただけなのか?



多少の疑問を持ちながら討伐したトレントを解体していく。この大きさだと俺の魔法空間には全て入りきらなさそうだな。勿体ないがいらない端材は捨てていくか。



「街に着くまでに溜まればいいと思っていたが、こんなにも早く終わるなんてな」予定だと、一日かけて集まるか集まらないかくらいだと思っていたんだが、こんな大物が居るとはな。これは付いているな。



「さてと、街まで走りますか」あまり動かせてなかった体を動かすのには十分な距離がある。軽くストレッチをして、俺は走り出した。



街に到着したのは空が赤く染まる頃だった。久しぶりだからか、ちょっと遅くなってるかもしれない。また鍛え直さないとな。そんなことwお思いながら俺は町へと入っていった。
しおりを挟む

処理中です...