なぜ、俺は『病』墜ちしたサイコパスなJK(彼女ではない)と、束縛がヤバ過ぎる同棲生活を送っているのか?

夏目くちびる

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第一章 ヤンデレと呼ぶには、少し症状が進み過ぎている

京の世界①

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 ○ ○ ○


「欲しい物は、奪ってでも手に入れなさい」
「はい、お父様」
「誰よりも、優れた人間になるのよ」
「はい、お母様」
「ワガママを、必ず押し通しなさい」
「はい、お父様」
「誰にも理解されない事を、誇りに思うのよ」
「はい、お母様」
「粛清は、君が行いなさい」
「はい、お父様」
「誰もが、憧れる対象になるのよ」
「はい、お母様」


 子供の頃は、それがおかしな事であるとは、まったく思っていませんでした。


 これらの学びは、『矢箕流帝王学』とでも呼べばいいのでしょうか。そんな覇道を往く教育が、私の常識でした。ですから、それ以外のすべては私にとって非常識なモノなんだと認識していました。私は特別であり、だからみんなの規範となるべきなんだと考えていました。


 その生き方に疑問を持ったのは、11歳の時。学校の授業参観を終えた、夕方の頃でした。


「ねぇ、秋津。どうして、お父様は来てくれなかったの?」
創元そうげん様は、現在シンガポールにてお仕事をなさっているからです」
「じゃあ、どうしてお母様は来てくれなかったの?」
美旗みはた様は、現在スイスにてお仕事をなさっているからです」


 理由を訊いても、返ってくるのはいつも『所在』と『事実』だけでした。けれど、それを咎めて反抗しても、きっと両親は私に教えた教育を実践するだけなのだろうと感じて、ベッドの上で手紙を書くだけに留まってしまいました。


 ここにあるのは、「会いたい」とは書けず、私の残した「結果」のみを綴った、無機質な手紙だけでした。


 ……時が経ち、人がそろそろ己の力を理解し始める中学生の頃。渦巻いていた疑問は、ゆっくりと私の心を蝕んでいきました。


「凄いですね、矢箕さん。また、ピアノのコンクールで最優秀を獲得したんですってね」
「えぇ。ただ、皆さまがお力添えをしてくださったからです。決して、私一人の実力ではございません」
「凄いですね、矢箕さん。今度は、絵画でも優秀な成績を修めるだなんて」
「たまたまですよ。今回は、少しだけ運がよかったんです」
「凄いですね、矢箕さん。全国模試、トップ5入りですよ」


 ……そうですね。


「凄いですね、矢箕さん。また、殿方からのラブレターが――」
「凄いですね、矢箕さん。今日も――」
「凄いですね、矢箕さん――」
「凄いですね――」


 いつからだったでしょうか。隣に誰もいない事に、不安を覚え始めたのは。憧ればかりで、一度も褒められた事がないと思い知ったのは。涙を流している自分に、気が付かなくなったのは。


 そして、どうして私は、そんな事に気が付いてしまったのでしょうか。


「本当に、凄いですね。矢箕さんは」


 違うんです。私には、それ以外に何も許されていなかっただけなんです。ずっと、辛かったんです。本当は、みんなと遊びたくて。それでも、歯を食いしばっていたんです。そのせいで、私の心は結果に相応しい成長が出来なかったんです。誰も教えてくれなくて、逃げ方を知らなかっただけなんです。


 ……ですから、お願いします、お父様、お母様。「よくやった」と褒めて下さい。私は、あなたたちに褒められたくて、こんなに頑張ったんです。たった一言でいいのに、求める事は間違っているのですか?


 お願いします、みなさま。「一緒に頑張ろう」と言ってください。私は、あなたたちと共に成し遂げたいんです。どうして、その輪の中に私を入れず、遠くで私を見ているのですか?


 寂しい。寂しいんです。ずっと、寂しかったんです。お願いします、仲間外れにしないでください。だって、だって私は、こんなに努力をしたのは、特別じゃなくて認めてほしかっただけで。最しょからずっと、ぱぱとお母さまと、いっ緒に遊んでほしくて。みんなといっしょに、ごはんを食べて、おはなしをしていたくて。なのに、どうしてみんなはたのしそうなのに、私だけがんばらなければいけないのですか。お願いだから、ひとりにしないで。さびしいの。ゆるしてください。たすけて。たすけて。たすけて。たすけて。たすけて。


 だれか、みやこをみつけて。
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