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幕間
番外編 拝啓、あの時の私とキータへ②(ヒマリ視点)
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「親父、あの墓石をぶん投げちまえよ!」
聞くと、ジャンゴさんはスキル、フェザアウェクを唱えてから埋まっていた墓石を持ち上げ、デムルトゥールに向かって投げつけた。フェザアウェクは、レベル2の初歩的な強化スキル。唱えると、瞬間的にパワーを覚醒させて力強い一撃を叩き込む事が出来る。
「アァァァア!!」
泣き声を上げたのは、墓石が濡れた体にめり込んだからだ。しかし、デムルトゥールは無数に生えた手で取り込むように掴んで、墓石をゆっくりと体内へ沈め込んでいった。
「ソル!叩き込むわよ!」
「よっしゃァッ!」
私がバフを掛けると同時に、ミレイとソルは同じ場所に別の角度から重たい一撃を振り下ろす。血が噴き出し、彼らの顔を真っ赤に染め上げたが、傷口はウネウネと動いてから弾け飛ぶように広がった。
「あの傷、違和感……」
それを覚えたのは、復活した方法を考えたからだ。恐らく、教団の教徒たちはその身を捧げてあの肉体を錬成したはずだ。だからこそ、多頭で、多手で。そして、生物が持っているエネルギー、すなわち魔力と体力を持って活動している。それなのに、あれは無機物を吸収できるというの?
……いや、そうじゃないんだ!
「マズイ!ジャンゴさん!防御を!」
言葉と同時に、回復スキル、ウェルケアを先に置くようにジャンゴさんに唱える。瞬間、デムルトゥールの口のような器官から真っ黒の礫が高速で発射され、そのうちの二つがソルとミレイを守った彼の体を貫いた。頭にはラブリュスを構えて守っていたモノの、腕とお腹に大きな穴が開いてしまったが、何とか痛みを感じるよりも前に治療する事ができた。
「……ぐっ、回復が少し遅れてたらヤバかった」
しかし、ダメージが無いわけではない。それに、ジャンゴさんの体に穴を開けるなんて相当な威力だ。私たちがくらったら、そのわ部分ごと吹き飛んでもおかしくない。
早く、打開策を見つけないと。そう考えた時、デムルトゥールの体が今までよりも大きく崩れ、半分が肉と蛭に変わった。それを見たヤツは、嘆くように血だまりをすすって、すぐに体を再生させる。
……疑問が、浮かんだ。それは、あの姿は教団が望んでいた邪神の姿なのかという事だ。
壊れる度に周囲の物に手を伸ばしてを吸収しようとして、弾ける蛭を惜しむように手を伸ばして。まるで、必死に形を保とうとしているみたい。
「ミレイ。あれにウェルヘイルを掛けてくれる?」
「わかったわ」
一度、陣形を立て直す為に呼び戻すと、同時にミレイは触れた相手を凍らせる氷柱を発射するスキル、ウェルヘイルを唱えた。それを、予想通りにデムルトゥールは吸収して、再び真っ黒な礫を私たちに見舞う。だけど、来ると分かっていれば防げないモノではない。私とジャンゴさんは、攻撃を跳ね返す防御系のスキル、ミラカーテンを発動した。
「だが、俺のスキルじゃ威力が高すぎて返せないぞ」
「違います。角度を付けて、軌道を逸らすんです!」
ジャンゴさんは、すぐに意味を理解した。防御は、鋭角に。そして礫が僅かに触れた瞬間に力を込める事で、遥か後方へと弾き飛ばした。
間髪入れずに、泣き叫ぶ体にライフレアを叩き込むと、やはりすぐに礫を飛ばして来る。きっと、何をやってもその繰り返し。普通に攻撃したのでは、ダメージは通らない。でも、だったら体が崩れた理由は?
「……分かりました」
「何がだ?」
「デムルトゥールは不完全で、今まさに生前の姿へと返り咲こうとしています。そして、ヤツが吸収しているのは体力や魔力などではなく、熱のエネルギーです。だから、この街の消えない炎を必要としていたんです」
「だったら、何だって言うんだ?」
「熱を与えずに、回復してあげましょう。そして、未完全なままで完璧な体力を持たせれば」
「なるほど、吸収したエネルギーで自壊するってわけね」
頷くと、私とミレイはすかさず回復系スキルを唱える。しかし。
「……ッ!?」
その作戦は、すぐに否定される事となった。あろうことか、デムルトゥールはまたもや真っ黒の礫を飛ばしてきたのだ。……いきなり当てが外れたけど、気に病んでいる場合ではない。むしろ考えなければいけないのは、回復スキルにも熱を含む何かがあるってことだ。切り替えないと。
「俺らはライケアとジリーケアしか使えないけど、それでいいのか?」
ソルを先頭に礫を防いで、二人は私たちに振り返る。被弾しているハズなのに、体はいつの間にか血塗れなのに。彼らは、少しだって弱音を吐かない。それどころか、目線を配って私とミレイの状態を確認して、強く武器を握り直すだけだ。
……まだ、私は守られるだけなの?
「だ、大丈夫です。二人には攻撃を防いでもらわなければいけませんから、ジリーケアをお願いします」
ジリーケアは、一度かければジワジワと少しずつ回復していく呪術由来のスキル。魔法由来のスキルは瞬間的な効果を、呪術由来は持続的な効果を得られるというのがスキルの常である事を、この世界の人間は意外と知らない。
「オーライ。行くぞ、ソル」
「もう行ってるっつーの!」
ソルは、少しずつ肥大化して更に醜く姿を変えたデムルトゥールの、地面の紙一重を裂いて手を切断する。バランスを崩したヤツはゴロリと転がって声を上げ、上空に向かって二発の巨大な礫を吐いた。だが、すぐに口のような器官を別の場所に移動させると、手を生やして体勢を立て直し、いくつかの礫を吐き散らかす。
「やっぱ、剣も意味ねえですね。ミレイさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ソル、一度私と変わって回復を……」
しかし、ミレイは最後まで言葉を言う事が出来なかった。何故なら、上空へ放った礫の破片が雨のように降り注いで、三人を攻撃したからだ!まさか、こいつに技を使う知能があるだなんて!
「回復が、追いつかない……」
倒れかけ、しかし武器を持ってそれを拒否する。みんな、必死で戦っている。でも、もうギリギリだ。次に何かをくらえば、確実に立てない。
どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。私が、何とかしないと。私が動かないと、みんなが死んじゃう。
「……嫌だ」
ダメだ。それだけは、絶対に許さない。それだけは許しちゃいけない。
だったら、考えるの。才能は無いんだって、求めるだけじゃ誰も助からないんだって!ずっと前から分かってた事じゃない。だったら、今なの。今、私は見つけ出さなきゃいけないの。この状況を打開する何かを!
「回復を……っ!」
……思い出したのは、回復でも礫が生まれるという事。
どうして?
そして同時に、私はこの世界に、何か見えないモノが存在している事を疑った。
例えば、核のような、物質を構築する為の何かがスキルには含まれているって事だ。デムルトゥールは、回復スキルで礫を放った。なら、それは存在しているかもしれない。
もし、それを理解することが出来たら、どうなるんだろう。それを利用する事が出来れば、更に強いスキルを生み出す事も出来るのかもしれない。僅かに残された可能性が、そこにしかないんだとすれば。
「やるしか、ない」
言い聞かせた時、墓石を吸収して私に放たれた礫を、瀕死のソルが寸での所で弾いた。破片が、私の瞼を掠めて彼方へ飛んでいく。血が出て、視界を赤く覆っていく。ゆっくり、浸食するように、赤く、紅く。振り返った彼の顔は、幼くも必死で、そんなことを考えている自分が、少しだけ不思議だ。
……目的は、回復。行きたいのは、レベル5のその先だ。スキルという全ての異能の統合した、それでも未だに見えない場所。そして、人間が知ろうともしなかった、小さな何かを道具にする為の方法。
「ミレイ、危ないっ!」
声が遠くに聞こえる。
「ヒマリさん!親父が!」
紅い景色に、ミレイを庇ったジャンゴさんの体に、今までよりも大きな礫が衝突して彼の足が地面を離れたのを見た。ラブリュスは宙を舞い、地面に突き刺さって砕け散る。彼女の悲鳴が聞こえる。デムルトゥールの体は、更に肥大化して破裂しそうなくらいだ。
「……死なせない」
そっか。ここに、あったんだ。
ねぇ、キータ。隣で戦うって誓った答え。私、見つけたよ。
才能じゃない、視点だったんだ。この結果を否定したいって。それを認めない事だけじゃ叶わない。成長する為に必要なのは、一つの閃きと、実行する勇気。この世界に存在しているハズの、小さな何かを信じられるなら。
後は、唱えるだけだ。
「スキル、アルティケアァッ!!」
クリスナイフを突き出して、術を唱える。自分を中心に、星空のように点と線が浮かんでいるような錯覚に陥る。やっぱり、ここにあったんだ。
瞬間、力無く倒れかけたジャンゴさんは目を開けて礫を掴み、着地と同時に強く踏み込んで。
「ウルォォォおおぉぉぉォオオォッッ!!」
それを、ヤツに向かって投げ返した。吸収するエネルギーのない無温の塊は、不完全な体を圧し潰して地面に落ちて、体は血飛沫を巻き上げた。その中に、立ち尽くして敵を見る影が二つ。このスキルの効果は、対象を選ばないみたいだ。
「ソル、ミレイ。後は、頼んだよ」
効果を受けたのは、パーティのメンバーともう一つ。デムルトゥールの体は、パンパンに膨れ上がった風船のようで、空に浮かんでいるお月様と対照的に、歪く丸く、赤く光っている。
「スキル、ザングレイズ」
ザングレイズは、武器に魔力を付与して最強の一撃を放つスキル。二人の持っている魔力の全てを、あの状態のデムルトゥールに叩き込めば。
「殺せない道理は、ない」
ソルの一撃で、泣き声が止んだ。そして、続くミレイの一撃で。
「……終わりよ」
醜い体は破裂して、赤い雨を降らせたのだった。
聞くと、ジャンゴさんはスキル、フェザアウェクを唱えてから埋まっていた墓石を持ち上げ、デムルトゥールに向かって投げつけた。フェザアウェクは、レベル2の初歩的な強化スキル。唱えると、瞬間的にパワーを覚醒させて力強い一撃を叩き込む事が出来る。
「アァァァア!!」
泣き声を上げたのは、墓石が濡れた体にめり込んだからだ。しかし、デムルトゥールは無数に生えた手で取り込むように掴んで、墓石をゆっくりと体内へ沈め込んでいった。
「ソル!叩き込むわよ!」
「よっしゃァッ!」
私がバフを掛けると同時に、ミレイとソルは同じ場所に別の角度から重たい一撃を振り下ろす。血が噴き出し、彼らの顔を真っ赤に染め上げたが、傷口はウネウネと動いてから弾け飛ぶように広がった。
「あの傷、違和感……」
それを覚えたのは、復活した方法を考えたからだ。恐らく、教団の教徒たちはその身を捧げてあの肉体を錬成したはずだ。だからこそ、多頭で、多手で。そして、生物が持っているエネルギー、すなわち魔力と体力を持って活動している。それなのに、あれは無機物を吸収できるというの?
……いや、そうじゃないんだ!
「マズイ!ジャンゴさん!防御を!」
言葉と同時に、回復スキル、ウェルケアを先に置くようにジャンゴさんに唱える。瞬間、デムルトゥールの口のような器官から真っ黒の礫が高速で発射され、そのうちの二つがソルとミレイを守った彼の体を貫いた。頭にはラブリュスを構えて守っていたモノの、腕とお腹に大きな穴が開いてしまったが、何とか痛みを感じるよりも前に治療する事ができた。
「……ぐっ、回復が少し遅れてたらヤバかった」
しかし、ダメージが無いわけではない。それに、ジャンゴさんの体に穴を開けるなんて相当な威力だ。私たちがくらったら、そのわ部分ごと吹き飛んでもおかしくない。
早く、打開策を見つけないと。そう考えた時、デムルトゥールの体が今までよりも大きく崩れ、半分が肉と蛭に変わった。それを見たヤツは、嘆くように血だまりをすすって、すぐに体を再生させる。
……疑問が、浮かんだ。それは、あの姿は教団が望んでいた邪神の姿なのかという事だ。
壊れる度に周囲の物に手を伸ばしてを吸収しようとして、弾ける蛭を惜しむように手を伸ばして。まるで、必死に形を保とうとしているみたい。
「ミレイ。あれにウェルヘイルを掛けてくれる?」
「わかったわ」
一度、陣形を立て直す為に呼び戻すと、同時にミレイは触れた相手を凍らせる氷柱を発射するスキル、ウェルヘイルを唱えた。それを、予想通りにデムルトゥールは吸収して、再び真っ黒な礫を私たちに見舞う。だけど、来ると分かっていれば防げないモノではない。私とジャンゴさんは、攻撃を跳ね返す防御系のスキル、ミラカーテンを発動した。
「だが、俺のスキルじゃ威力が高すぎて返せないぞ」
「違います。角度を付けて、軌道を逸らすんです!」
ジャンゴさんは、すぐに意味を理解した。防御は、鋭角に。そして礫が僅かに触れた瞬間に力を込める事で、遥か後方へと弾き飛ばした。
間髪入れずに、泣き叫ぶ体にライフレアを叩き込むと、やはりすぐに礫を飛ばして来る。きっと、何をやってもその繰り返し。普通に攻撃したのでは、ダメージは通らない。でも、だったら体が崩れた理由は?
「……分かりました」
「何がだ?」
「デムルトゥールは不完全で、今まさに生前の姿へと返り咲こうとしています。そして、ヤツが吸収しているのは体力や魔力などではなく、熱のエネルギーです。だから、この街の消えない炎を必要としていたんです」
「だったら、何だって言うんだ?」
「熱を与えずに、回復してあげましょう。そして、未完全なままで完璧な体力を持たせれば」
「なるほど、吸収したエネルギーで自壊するってわけね」
頷くと、私とミレイはすかさず回復系スキルを唱える。しかし。
「……ッ!?」
その作戦は、すぐに否定される事となった。あろうことか、デムルトゥールはまたもや真っ黒の礫を飛ばしてきたのだ。……いきなり当てが外れたけど、気に病んでいる場合ではない。むしろ考えなければいけないのは、回復スキルにも熱を含む何かがあるってことだ。切り替えないと。
「俺らはライケアとジリーケアしか使えないけど、それでいいのか?」
ソルを先頭に礫を防いで、二人は私たちに振り返る。被弾しているハズなのに、体はいつの間にか血塗れなのに。彼らは、少しだって弱音を吐かない。それどころか、目線を配って私とミレイの状態を確認して、強く武器を握り直すだけだ。
……まだ、私は守られるだけなの?
「だ、大丈夫です。二人には攻撃を防いでもらわなければいけませんから、ジリーケアをお願いします」
ジリーケアは、一度かければジワジワと少しずつ回復していく呪術由来のスキル。魔法由来のスキルは瞬間的な効果を、呪術由来は持続的な効果を得られるというのがスキルの常である事を、この世界の人間は意外と知らない。
「オーライ。行くぞ、ソル」
「もう行ってるっつーの!」
ソルは、少しずつ肥大化して更に醜く姿を変えたデムルトゥールの、地面の紙一重を裂いて手を切断する。バランスを崩したヤツはゴロリと転がって声を上げ、上空に向かって二発の巨大な礫を吐いた。だが、すぐに口のような器官を別の場所に移動させると、手を生やして体勢を立て直し、いくつかの礫を吐き散らかす。
「やっぱ、剣も意味ねえですね。ミレイさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ソル、一度私と変わって回復を……」
しかし、ミレイは最後まで言葉を言う事が出来なかった。何故なら、上空へ放った礫の破片が雨のように降り注いで、三人を攻撃したからだ!まさか、こいつに技を使う知能があるだなんて!
「回復が、追いつかない……」
倒れかけ、しかし武器を持ってそれを拒否する。みんな、必死で戦っている。でも、もうギリギリだ。次に何かをくらえば、確実に立てない。
どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。私が、何とかしないと。私が動かないと、みんなが死んじゃう。
「……嫌だ」
ダメだ。それだけは、絶対に許さない。それだけは許しちゃいけない。
だったら、考えるの。才能は無いんだって、求めるだけじゃ誰も助からないんだって!ずっと前から分かってた事じゃない。だったら、今なの。今、私は見つけ出さなきゃいけないの。この状況を打開する何かを!
「回復を……っ!」
……思い出したのは、回復でも礫が生まれるという事。
どうして?
そして同時に、私はこの世界に、何か見えないモノが存在している事を疑った。
例えば、核のような、物質を構築する為の何かがスキルには含まれているって事だ。デムルトゥールは、回復スキルで礫を放った。なら、それは存在しているかもしれない。
もし、それを理解することが出来たら、どうなるんだろう。それを利用する事が出来れば、更に強いスキルを生み出す事も出来るのかもしれない。僅かに残された可能性が、そこにしかないんだとすれば。
「やるしか、ない」
言い聞かせた時、墓石を吸収して私に放たれた礫を、瀕死のソルが寸での所で弾いた。破片が、私の瞼を掠めて彼方へ飛んでいく。血が出て、視界を赤く覆っていく。ゆっくり、浸食するように、赤く、紅く。振り返った彼の顔は、幼くも必死で、そんなことを考えている自分が、少しだけ不思議だ。
……目的は、回復。行きたいのは、レベル5のその先だ。スキルという全ての異能の統合した、それでも未だに見えない場所。そして、人間が知ろうともしなかった、小さな何かを道具にする為の方法。
「ミレイ、危ないっ!」
声が遠くに聞こえる。
「ヒマリさん!親父が!」
紅い景色に、ミレイを庇ったジャンゴさんの体に、今までよりも大きな礫が衝突して彼の足が地面を離れたのを見た。ラブリュスは宙を舞い、地面に突き刺さって砕け散る。彼女の悲鳴が聞こえる。デムルトゥールの体は、更に肥大化して破裂しそうなくらいだ。
「……死なせない」
そっか。ここに、あったんだ。
ねぇ、キータ。隣で戦うって誓った答え。私、見つけたよ。
才能じゃない、視点だったんだ。この結果を否定したいって。それを認めない事だけじゃ叶わない。成長する為に必要なのは、一つの閃きと、実行する勇気。この世界に存在しているハズの、小さな何かを信じられるなら。
後は、唱えるだけだ。
「スキル、アルティケアァッ!!」
クリスナイフを突き出して、術を唱える。自分を中心に、星空のように点と線が浮かんでいるような錯覚に陥る。やっぱり、ここにあったんだ。
瞬間、力無く倒れかけたジャンゴさんは目を開けて礫を掴み、着地と同時に強く踏み込んで。
「ウルォォォおおぉぉぉォオオォッッ!!」
それを、ヤツに向かって投げ返した。吸収するエネルギーのない無温の塊は、不完全な体を圧し潰して地面に落ちて、体は血飛沫を巻き上げた。その中に、立ち尽くして敵を見る影が二つ。このスキルの効果は、対象を選ばないみたいだ。
「ソル、ミレイ。後は、頼んだよ」
効果を受けたのは、パーティのメンバーともう一つ。デムルトゥールの体は、パンパンに膨れ上がった風船のようで、空に浮かんでいるお月様と対照的に、歪く丸く、赤く光っている。
「スキル、ザングレイズ」
ザングレイズは、武器に魔力を付与して最強の一撃を放つスキル。二人の持っている魔力の全てを、あの状態のデムルトゥールに叩き込めば。
「殺せない道理は、ない」
ソルの一撃で、泣き声が止んだ。そして、続くミレイの一撃で。
「……終わりよ」
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