追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

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追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。編

第48話 運命のカウントダウン

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「……え?」


 素っ頓狂な声を出して、持っていたツールを床に落としてしまった。


「急に、どうしてそんなことを」
「俺は、この世でお前が一番、勇者に相応しいと思ってる。だから、確認しておきたかったんだ」


 その理由を、聞きたくなかった。だから、返事はしなかった。でも、シロウさんはそれが当たり前のことのように笑って、壁に体を預けた。


「エンゼルプレグ、知ってるか?」


 チャンナンで聞いた、ルシウスが最も恐れた言葉だ。しかし、どこで何を調べても、その情報を手に入れることは叶わなかった。


「……知りません」
「なら、きっちり話しておかねえとな。むしろ、遅すぎたくらいだ」


 そして、シロウさんは俺に全てを伝えてくれた。


 なぜ、自分が居なくなると知っているのか。なぜ、自分の命に執着がないのか。なぜ、奥さんと子供が死んでしまったのか。なぜ、俺が勇者に相応しいのか。


 そんな話を、いつも言う冗談かのように。そして、これまでのどの瞬間よりも優しく、明るくだ。


 でもそれは、俺にとって全く笑えない話だった。


 × × ×


「つまりね、アルケーって私たちの魔力に作用するエネルギーの形そのものなんだよ。もっというと、アトム同士をくっつけて、人の見える形に変える技術がスキルってこと。これなら、分かりやすいかな」
「なるほどなぁ。ヒマリ、お前すげえよ。ジャンゴもお前と旅が出来て、本当によかったと思ってるだろうな」
「そんなこと無いですよ。そもそも、アトムやアルケーの存在に気がついていたのはデムルトゥールの復活に力を使われていたミレイの両親やその研究者たちですし。私はたまたま使えるモノを見つけて、そこにたまたま名前があっただけです」
「それがすげえって話さ」


 言いながら、シロウさんはノートにヒマリの言葉をまとめていた。恐らく、王都に報告する為に文章を作っているのだろう。


「とりあえず話を整理すると、スキルで形にしたアルケーに本来使うことのなかった別のアトムを無理やりくっつけて、そのアルティケアってスキルを発動したって事でいいのかな」
「うん。でもね、アトムは無作為に選んだんじゃないよ。繋げるためのラインがね、実はちゃんとあるの」


 言って、ミレイはドヤ顔を披露した。


「ライン?」
「そう。スキルに組み込めるのは、『決められたスキルだけでは扱いきれない、同じ力を持つアトム』なの」
「火なら火に関係してるモノって事?」
「それがね、どうも違うみたい。ね、ミレイ」


 話を振られ、静かに話を聞いていた彼女が口を開く。


「そうね。一見相互性の無さそうなアトムでも、アルケーに力を及ぼすことがあるみたいだわ。例えば、こんな具合に」


 言うと、ミレイは氷柱を生み出すヘイルのスキルを発動して、目線を動かして何かを探し始めた。一体、彼女には何が見えてるんだろうか。


「……見つけた」


 呟いた瞬間、手のひらにあった小さな氷柱は、まるで空気を多分に含んだかのように真っ白に染まり、そして周囲に心地の良い冷たい風を吹かせた。


「すげえっすね。ミレイさん、これなんですか?」
「氷に、風の力を付与したの。これで、例えばここに火を放てば、大爆発を起こす事ができるわ」


 言って、静かにそれを消滅させる。色を透明に戻して、氷を溶かす。どうやら、発動と逆の手順を踏まなければ解除も出来ないようだ。


「見るまでは信じられなかったけど、これとんでもないっすね」
「私にも出来るかなぁ」


 二人は、ミレイの手元を食い入るように眺めている。殺伐とした戦闘を重ねてきたけど、それでもこうして素直に物事を受け入れられるのは、彼らの本当に素晴らしい長所だ。


「ちょっとしたコツさえ掴めば、誰にだって出来るわよ。きっと、これからはもっと強力スキルが生まれてきて、更に便利な世界になるハズよ」
「出来れば、平和のためになる効果だといいね」


 そんな事を言って、二人は小さく笑った。


「すまないが、この情報の王都への報告は、俺に任せてくれないか?」
「いいですけど、どうしてですか?」


 訊かれ、シロウさんは現在王都にアマクダリのスパイが侵入している事を、二人に伝えた。


「だから、こいつが世に広まると必然的に魔王にも知れ渡っちまう。この力は、なるべく秘密にして切り札として使いたいんだ」
「そういうことなら、大丈夫です。まぁ、シロウさんが技術を独占して儲けようとは思いませんよね」
「あぁ。魔王が死ぬか、俺が死んで勇者が受け継がれるかした時には、このノートの内容を公開するように王様に言っておく。だから、それまでの約束だ」
「ちょっとシロウさん。縁起でもないコト、言わないでくださいよ」
「ホントっすよ。まったく、相変わらずジョークはつまらないっすね」


 そして、彼らは俺を残して、いつものように笑いあっていた。


「それじゃ、しばらくはこの街に滞在するか。3日は自由時間にするから、各自ギルドで仕事を受けるなり、アトムの使い方を磨くなりしておいてくれ。次に集まった時は、覚えたスキルで新しい作戦を考えよう」
「分かりました」


 そして、俺たちは解散した。しかし、宿屋に帰る途中にヒマリからの連絡があった為、言われた通りの時間に場所へ足を運ぶと、そこには装備を下ろしてラフな格好をした彼女が待っていた。


 世界を変える大発見をしたというのに、遠くから眺めたその姿は、まるで普通の女の子のようだった。
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