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追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。編
第49話 1万年前より愛を込めて
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「お待たせ」
「遅いよ、もう飲んじゃってるんだから」
言って、彼女は丸い銀色の筒を揺らした。見た事の無い形の入れ物だ。
「キータもいる?」
「あぁ、ありがとう」
蓋にはピンのようなモノが付いていて、それを引っ張るとプシュと音を立てて小さな飲み口からモコモコと泡が湧いてきた。思わず、口を近づけてそれを飲むと、飲み物の正体はビアだった。この入れ物も、魔王が作ったのだろうか。
「おやおや?キータ君、お酒が進んでいませんねぇ」
「いや、今来たところだし」
前にハードポイントの酒場で飲んでいた時よりも、随分と酔っぱらっている。きっと、旅が終わって緊張の糸が切れてしまったのだろう。
「キータに知ってるコトぜーんぶ話したから、ヒマリちゃんの旅は終わりなのです。だから、もう頑張らなくていいんだもーん」
ゴクゴクと喉を鳴らして、ベンチの下から更に缶を取り出した。前言撤回、暗くて気づかなかったけど、入れ物の数を見るにこの短時間で既に出来上がる量を飲んでいる。あの日、病院のベッドで見た泣き顔とは似つかない、少し赤い笑顔だ。
「……そうだ、これ」
「んー?なぁに?」
「この街のペーパームーンって店で見つけたんだ。これが。ひまわりなんだってさ」
言って、俺は彼女に花の香りの付いたポストカードを渡した。写っているのは、黄色とオレンジの花弁を持った、とんでもなくデカい花だ。それが、全てが太陽の方向を向いて咲いている。もしこれが実際にこの街にあった景色なんだとすれば、そこは本当に天国のような場所だったと思う。
「改めて、お疲れさま。よく頑張ったね」
不意にその言葉が出たのは、きっと俺がいつも言われているからだ。しかし、彼女はひまわりの花を見てから少しだけ何かを思い出すような素振りを見せて、目尻を拭うとおどけたように笑った。
「頑張ったけどさ~、酷くない?だって、私はアトムの使い方を一つしか知らないのに、ミレイはあっという間に3つも見つけたんだよ?やっぱ、この世界って才能が全てだよ。もう、悔しい!」
誰もいない道だから、彼女の声は遠くの紅茶畑にまで響いた。
「まぁ、否定はしないよ」
「しなさいよ~、このこの」
言って、人差し指で俺の頬をつく。しかし、ヒマリは自分自身が無能な人間の希望であることに、気がついているのだろうか。それとも……。
「まぁ、いいや。何にせよ、私の旅は終わったんだから。もう戦わないもん」
「また、冒険者ギルドの受付をするの?」
「わかんない。でも、私にはサポートのほうが向いてるからそうかも」
「そっか。なら、もう会うこともないかもね」
静寂。風が、レッドルビーマウンテンから吹き抜ける。
「……ま、まぁ。キータには命の借りがあるし?別に着いてきてくれっていうなら行ってあげないこともないですけど?」
「いや、いいよ。危ないし」
それに、あの時に命を救ったのは紛れもなくシロウさんとジャンゴさんだ。俺は、彼女に何もしていない。
「で、でもさぁ、私ならヒーラーだから宝具が無くても役に立てるよ?」
「回復なら、俺が回してるから大丈夫」
「そんなこと言ってぇ、キータの得意系統って強化系でしょ?」
「ポーションがあるから……」
「気付けよ!バカ!」
……気付いてる。なんなら、初めてあった時から恋に落ちてる。
だから、絶対に一緒には行けない。俺は、少しでも彼女を危ない目に合わせたくない。だから、代わりにこんな提案をしたんだ。
「もし、行く当てが決まってないなら、俺が魔王を倒した後に、一緒にトーコクに来てくれないか?」
「……へ?」
俺は、意識するわけでもなく彼女の事を見つめていた。
「俺の故郷なんだ。別にいい思い出のある場所じゃないけど、静かでいい街だと思ってる。だから、俺と一緒に来て欲しいんだ」
「そんな、まるでプロポーズみたいな」
「プロポーズだよ」
音は、いつの間にかない。
「好きだ。この数ヶ月、何回ヒマリの連絡に救われたか分からない。だから、俺が帰る場所になって欲しいんだ」
「……でも、いきなり過ぎてちょっと困っちゃうよ」
「なら、友達でいてよ」
笑えたのは、俺が形に拘らないくらい、彼女の事を好きだからなんだと思う。心の底から尊敬出来る、二人目の人だからなんだと思う。
「どうしても、一緒に行っちゃいけないの?」
「うん」
「……分かった。じゃあ、待ってるよ」
気が付けば、さっきまでの陽気な雰囲気はすっかりと醒めていて、その代わりにため息を吐くと、ヒマリは一人分空いていたベンチの隙間を詰めてから、俺の肩に頭を置いた。
「あ~あ、無理やり着いて行っちゃおうと思ってたけど、そんな顔見たら言えないじゃん」
「顔?」
「うん。なんか、キータはとっくにシロウさんの隣にいたって感じがする。目がね、おじさん二人にすっごく似てきてるんだもん」
……なんて答えればいいのか、分からなかった。だから…俺は最初に思い浮かんだ言葉を、彼女に伝えたんだ。
「今夜は、一緒にいよう」
「……うん」
言って、缶に再び口を付ける。しかし、その中身はもう入っていなかった。
「遅いよ、もう飲んじゃってるんだから」
言って、彼女は丸い銀色の筒を揺らした。見た事の無い形の入れ物だ。
「キータもいる?」
「あぁ、ありがとう」
蓋にはピンのようなモノが付いていて、それを引っ張るとプシュと音を立てて小さな飲み口からモコモコと泡が湧いてきた。思わず、口を近づけてそれを飲むと、飲み物の正体はビアだった。この入れ物も、魔王が作ったのだろうか。
「おやおや?キータ君、お酒が進んでいませんねぇ」
「いや、今来たところだし」
前にハードポイントの酒場で飲んでいた時よりも、随分と酔っぱらっている。きっと、旅が終わって緊張の糸が切れてしまったのだろう。
「キータに知ってるコトぜーんぶ話したから、ヒマリちゃんの旅は終わりなのです。だから、もう頑張らなくていいんだもーん」
ゴクゴクと喉を鳴らして、ベンチの下から更に缶を取り出した。前言撤回、暗くて気づかなかったけど、入れ物の数を見るにこの短時間で既に出来上がる量を飲んでいる。あの日、病院のベッドで見た泣き顔とは似つかない、少し赤い笑顔だ。
「……そうだ、これ」
「んー?なぁに?」
「この街のペーパームーンって店で見つけたんだ。これが。ひまわりなんだってさ」
言って、俺は彼女に花の香りの付いたポストカードを渡した。写っているのは、黄色とオレンジの花弁を持った、とんでもなくデカい花だ。それが、全てが太陽の方向を向いて咲いている。もしこれが実際にこの街にあった景色なんだとすれば、そこは本当に天国のような場所だったと思う。
「改めて、お疲れさま。よく頑張ったね」
不意にその言葉が出たのは、きっと俺がいつも言われているからだ。しかし、彼女はひまわりの花を見てから少しだけ何かを思い出すような素振りを見せて、目尻を拭うとおどけたように笑った。
「頑張ったけどさ~、酷くない?だって、私はアトムの使い方を一つしか知らないのに、ミレイはあっという間に3つも見つけたんだよ?やっぱ、この世界って才能が全てだよ。もう、悔しい!」
誰もいない道だから、彼女の声は遠くの紅茶畑にまで響いた。
「まぁ、否定はしないよ」
「しなさいよ~、このこの」
言って、人差し指で俺の頬をつく。しかし、ヒマリは自分自身が無能な人間の希望であることに、気がついているのだろうか。それとも……。
「まぁ、いいや。何にせよ、私の旅は終わったんだから。もう戦わないもん」
「また、冒険者ギルドの受付をするの?」
「わかんない。でも、私にはサポートのほうが向いてるからそうかも」
「そっか。なら、もう会うこともないかもね」
静寂。風が、レッドルビーマウンテンから吹き抜ける。
「……ま、まぁ。キータには命の借りがあるし?別に着いてきてくれっていうなら行ってあげないこともないですけど?」
「いや、いいよ。危ないし」
それに、あの時に命を救ったのは紛れもなくシロウさんとジャンゴさんだ。俺は、彼女に何もしていない。
「で、でもさぁ、私ならヒーラーだから宝具が無くても役に立てるよ?」
「回復なら、俺が回してるから大丈夫」
「そんなこと言ってぇ、キータの得意系統って強化系でしょ?」
「ポーションがあるから……」
「気付けよ!バカ!」
……気付いてる。なんなら、初めてあった時から恋に落ちてる。
だから、絶対に一緒には行けない。俺は、少しでも彼女を危ない目に合わせたくない。だから、代わりにこんな提案をしたんだ。
「もし、行く当てが決まってないなら、俺が魔王を倒した後に、一緒にトーコクに来てくれないか?」
「……へ?」
俺は、意識するわけでもなく彼女の事を見つめていた。
「俺の故郷なんだ。別にいい思い出のある場所じゃないけど、静かでいい街だと思ってる。だから、俺と一緒に来て欲しいんだ」
「そんな、まるでプロポーズみたいな」
「プロポーズだよ」
音は、いつの間にかない。
「好きだ。この数ヶ月、何回ヒマリの連絡に救われたか分からない。だから、俺が帰る場所になって欲しいんだ」
「……でも、いきなり過ぎてちょっと困っちゃうよ」
「なら、友達でいてよ」
笑えたのは、俺が形に拘らないくらい、彼女の事を好きだからなんだと思う。心の底から尊敬出来る、二人目の人だからなんだと思う。
「どうしても、一緒に行っちゃいけないの?」
「うん」
「……分かった。じゃあ、待ってるよ」
気が付けば、さっきまでの陽気な雰囲気はすっかりと醒めていて、その代わりにため息を吐くと、ヒマリは一人分空いていたベンチの隙間を詰めてから、俺の肩に頭を置いた。
「あ~あ、無理やり着いて行っちゃおうと思ってたけど、そんな顔見たら言えないじゃん」
「顔?」
「うん。なんか、キータはとっくにシロウさんの隣にいたって感じがする。目がね、おじさん二人にすっごく似てきてるんだもん」
……なんて答えればいいのか、分からなかった。だから…俺は最初に思い浮かんだ言葉を、彼女に伝えたんだ。
「今夜は、一緒にいよう」
「……うん」
言って、缶に再び口を付ける。しかし、その中身はもう入っていなかった。
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