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正義の正しさ編(最終章)
第64話 なら、勝ったほうが正義だ
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「滅びる、だと?」
「そうだ。人間は、あまりも強大な存在になりすぎた。そして、その欲望は未だ留まる事を知らない。富を独占しようとする者が現れれば、戦争が起きるのは必然。魔王様は、そんな世の中を救うために、ある日この世界に現れて我々を生み出したのだ」
「……まるで、救世主だな」
その言葉に、ブランドは目を向けるだけで返事をする。
「だが、戦争程度、これまでの歴史でも何度も繰り返されている。それは、繁栄のために仕方のない犠牲だ」
「違う。この問題は、戦争自体やスキルの効果ではない。スキルの発動そのものなのだ」
「発動?」
「貴様らは、不自然だとは思わなかったのか?なぜ、それだけ強力な力を一切のデメリットもなく使えるのか。なぜ、発動する制限もなくただ振るい続ける事が出来るのか。そして、発動するまでに存在していた元の形は、一体どうなってしまうのか」
瞬間、俺は気がついた。スキルとは、アトムを組み替えて出現させる方法。ならば、使用したアトムは。
「今この時も、あらゆるアトムを、魔王様は原子と言ったがな。人間は消費し続けているのだ。強力であればあるほど、より多くの原子を使っているのだ。スキルは無からは生まれない!そして、貴様らが支払っていない対価は、この星が払い続けているのだ!ならば、それが枯れ果てた時にこの星には何が残る!?」
「……そう言う事か」
「ここまで言えば、ナロピアとラシエル以外に人間が住んでいない理由もわかっただろう。我々は、それを食い止めるために魔王様より科学を賜ったのだ!」
その手を広げて、見渡すように言う。
「電気、機械、銃。この世界の常識を覆す、圧倒的な技術。この水槽も、魔王様が自分の寿命が尽きた時、我々へモニター越しに指示を与えてくださる為に作られたのだ。しかし、明らかなオーバーテクノロジーは世界を破壊する。だからゆっくりと、魔王様の世界が歩んだ歴史を追って浸透させていくはずだったのだ」
その声は、極めて落ち着いていた。
「そして、最後には何一つ不自由のない、唯一無二の原子も失われることのない。そんな世界が完成する。それが、我々の計画のすべてだ」
つまり、他の大陸はスキルを酷使したせいで、人間が生きるために必要なアトムを使い切った。毒の大気を充満させて、生物の生存を許さない場所にしてしまった。
全て、俺たちのせいだったってわけか。
「この星の裏側には、形骸化した街だけが残っていた。紛れもなく、貴様らの先祖が住んでいた証拠だ。そして、その大陸の大気のデータはそこにある通りだ。我々の調査によれは、残った2つの大陸も500年と持たずにその水準まで低下する」
言って、机の上を指差す。
「しかし、貴様ら人間は我々が悪魔だという理由で話し合いの場を断った。魔王様を、この世界の人間でないからと断ったッ!ならば!魔王様はどうすればこの世界を救えるか!?答えは簡単だ!貴様らを支配して、我々の声が届くようにしなければなるまい!!」
「……なるほど。正義だ、あんたたち」
人間。確かに、ブランドはそう言った。そうか、この世界以外の場所にも、人間がいたんだな。そいつは、わざわざ俺たちの世界にやってきて、寿命が尽きて脳みそだけになっても、こうして悪魔たちに指示を出していたってわけか。
「感動だな」
クロウは、皮肉混じりの笑みを浮かべた。
同感だ。だったら、俺たちはもう戻れないところまで来ている。話し合いで解決出来ないところまで、来てしまっている。それができるなら、何百年も争ったりしていない。まして、話をするのは俺たち現場の人間であるはずがない。王様だ。あの人の一存も無しに……。
「……いや、違うな」
俺にとっては、少なくともそうじゃない。だって。
「こっちは、恩人殺されてんだよ。あまりナメた事抜かすな」
そして、水槽に矢を打ち込んで、脳みそを貫いた。
「ま、魔王様ァ!」
激高した周囲の悪魔が、一斉に弾丸を射出。しかし、その全てはモモコちゃんとクロウによって阻まれた。
もう、面倒なのは止めよう。俺は、使命を果たしに来たんだ。
「なぁ、ブランド」
「なんだ」
「話せば、なんとかなるって思ったのか?だから、俺たちに魔王の正体を明かしたのか?」
「……否定しきれない」
しかし、ブランドは静かに涙を流すだけで、それ以外を口にしなかった。
「俺たちの世界なんだよ、わかるか?ここは、俺たちの世界だ。なぁ、ブランド。死ぬも生きるも、俺たちが決める。くたばろうが生き延びようが、全て俺たちが責任を負うんだよ。そんなどこのヤローとも分からないヤツが、勝手に俺たちの世界救おうとするんじゃねぇよ。誰も、頼んでないだろうが」
王様も、同じことを考えたんだ。だから、勇者なんて制度が生まれたんだ。この世界の人間たちが、圧倒的な力に抗うために。自分たちで、未来を変えるために。
だって、自分たちの運命を、そんなどこから現れたかも分からない者に任せるわけにはいかないだろ。意地がある。矜持がある。それをかなぐり捨てて生き延びようなんて、そんな事を人間は望まない。
現に、ヒマリもアトムを見つけた。俺は、意識を使う方法を見つけた。なら、未来にはそんなヤツが何人も現れるに決まってる。だって、俺たちは凡人だから。凡人が、この世界に何人いると思ってやがる。その上に、天才だっているんだぞ。だったら、そういう可能性に賭けてみるのが人間ってもんじゃないのか?
なぁ、魔王。もしお前の世界で同じ事をされたとして、お前の国の王様はそれを受け入れるのか?それとも、受け入れた王様がお前なのか?指咥えて、自分の世界が他人にいじくり回される様を、じっと眺めて終わるまで待っていたのか?お前たちの全く知らない世界に作り替えられて、そこで暮らす事が幸せだって思えたのか?
あり得ないだろ。だから。
「迷惑だ」
そんな複雑な感情を、1か0で割り切れる訳がない。
「……ちょうどいい。我輩も、部下を失って心底頭にキテいた。希望を抱いて魔王様を失った自分に心底腹が立つ。もう、魔王様が失われた今、他の事などどうでもいい。貴様らを、理想抜きでなぶり殺してやりたいと、そう思ってたところなのだ」
「……上等」
おかげで、この戦いが勧善懲悪ではない事を確信した。だからだろう。奇妙だけど、俺はブランドに尊敬の感情を抱いたんだ。
「なら、勝ったほうが正義だ」
「あぁ……」
静寂は、一瞬だった。
「八つ裂きにしろォッ!!」
「アオヤ君!モモコちゃん!」
そして、俺は駆け出したアオヤ君へバフを掛け、モモコちゃんに指で指示を出す。炎と槍で悪魔を散らせてフォーメーションを整えると、中央にブランドまでの道を作った。
「クロウ、作戦は聞いてただろ?」
「指図するなと、言ってるだろうがァ!!」
ホーリーセイバーを握り、低空姿勢で駆けると、足を払うように引き抜いて斬撃を見舞う。しかし、それを踏みつけて尾で攻撃を打ち込み、さらに連射式の銃を二階からクロウへ放った。
……そんなものが、あの天才に当たるわけない。悔しいくらいに、それだけは疑いようが無かった。
「そうだ。人間は、あまりも強大な存在になりすぎた。そして、その欲望は未だ留まる事を知らない。富を独占しようとする者が現れれば、戦争が起きるのは必然。魔王様は、そんな世の中を救うために、ある日この世界に現れて我々を生み出したのだ」
「……まるで、救世主だな」
その言葉に、ブランドは目を向けるだけで返事をする。
「だが、戦争程度、これまでの歴史でも何度も繰り返されている。それは、繁栄のために仕方のない犠牲だ」
「違う。この問題は、戦争自体やスキルの効果ではない。スキルの発動そのものなのだ」
「発動?」
「貴様らは、不自然だとは思わなかったのか?なぜ、それだけ強力な力を一切のデメリットもなく使えるのか。なぜ、発動する制限もなくただ振るい続ける事が出来るのか。そして、発動するまでに存在していた元の形は、一体どうなってしまうのか」
瞬間、俺は気がついた。スキルとは、アトムを組み替えて出現させる方法。ならば、使用したアトムは。
「今この時も、あらゆるアトムを、魔王様は原子と言ったがな。人間は消費し続けているのだ。強力であればあるほど、より多くの原子を使っているのだ。スキルは無からは生まれない!そして、貴様らが支払っていない対価は、この星が払い続けているのだ!ならば、それが枯れ果てた時にこの星には何が残る!?」
「……そう言う事か」
「ここまで言えば、ナロピアとラシエル以外に人間が住んでいない理由もわかっただろう。我々は、それを食い止めるために魔王様より科学を賜ったのだ!」
その手を広げて、見渡すように言う。
「電気、機械、銃。この世界の常識を覆す、圧倒的な技術。この水槽も、魔王様が自分の寿命が尽きた時、我々へモニター越しに指示を与えてくださる為に作られたのだ。しかし、明らかなオーバーテクノロジーは世界を破壊する。だからゆっくりと、魔王様の世界が歩んだ歴史を追って浸透させていくはずだったのだ」
その声は、極めて落ち着いていた。
「そして、最後には何一つ不自由のない、唯一無二の原子も失われることのない。そんな世界が完成する。それが、我々の計画のすべてだ」
つまり、他の大陸はスキルを酷使したせいで、人間が生きるために必要なアトムを使い切った。毒の大気を充満させて、生物の生存を許さない場所にしてしまった。
全て、俺たちのせいだったってわけか。
「この星の裏側には、形骸化した街だけが残っていた。紛れもなく、貴様らの先祖が住んでいた証拠だ。そして、その大陸の大気のデータはそこにある通りだ。我々の調査によれは、残った2つの大陸も500年と持たずにその水準まで低下する」
言って、机の上を指差す。
「しかし、貴様ら人間は我々が悪魔だという理由で話し合いの場を断った。魔王様を、この世界の人間でないからと断ったッ!ならば!魔王様はどうすればこの世界を救えるか!?答えは簡単だ!貴様らを支配して、我々の声が届くようにしなければなるまい!!」
「……なるほど。正義だ、あんたたち」
人間。確かに、ブランドはそう言った。そうか、この世界以外の場所にも、人間がいたんだな。そいつは、わざわざ俺たちの世界にやってきて、寿命が尽きて脳みそだけになっても、こうして悪魔たちに指示を出していたってわけか。
「感動だな」
クロウは、皮肉混じりの笑みを浮かべた。
同感だ。だったら、俺たちはもう戻れないところまで来ている。話し合いで解決出来ないところまで、来てしまっている。それができるなら、何百年も争ったりしていない。まして、話をするのは俺たち現場の人間であるはずがない。王様だ。あの人の一存も無しに……。
「……いや、違うな」
俺にとっては、少なくともそうじゃない。だって。
「こっちは、恩人殺されてんだよ。あまりナメた事抜かすな」
そして、水槽に矢を打ち込んで、脳みそを貫いた。
「ま、魔王様ァ!」
激高した周囲の悪魔が、一斉に弾丸を射出。しかし、その全てはモモコちゃんとクロウによって阻まれた。
もう、面倒なのは止めよう。俺は、使命を果たしに来たんだ。
「なぁ、ブランド」
「なんだ」
「話せば、なんとかなるって思ったのか?だから、俺たちに魔王の正体を明かしたのか?」
「……否定しきれない」
しかし、ブランドは静かに涙を流すだけで、それ以外を口にしなかった。
「俺たちの世界なんだよ、わかるか?ここは、俺たちの世界だ。なぁ、ブランド。死ぬも生きるも、俺たちが決める。くたばろうが生き延びようが、全て俺たちが責任を負うんだよ。そんなどこのヤローとも分からないヤツが、勝手に俺たちの世界救おうとするんじゃねぇよ。誰も、頼んでないだろうが」
王様も、同じことを考えたんだ。だから、勇者なんて制度が生まれたんだ。この世界の人間たちが、圧倒的な力に抗うために。自分たちで、未来を変えるために。
だって、自分たちの運命を、そんなどこから現れたかも分からない者に任せるわけにはいかないだろ。意地がある。矜持がある。それをかなぐり捨てて生き延びようなんて、そんな事を人間は望まない。
現に、ヒマリもアトムを見つけた。俺は、意識を使う方法を見つけた。なら、未来にはそんなヤツが何人も現れるに決まってる。だって、俺たちは凡人だから。凡人が、この世界に何人いると思ってやがる。その上に、天才だっているんだぞ。だったら、そういう可能性に賭けてみるのが人間ってもんじゃないのか?
なぁ、魔王。もしお前の世界で同じ事をされたとして、お前の国の王様はそれを受け入れるのか?それとも、受け入れた王様がお前なのか?指咥えて、自分の世界が他人にいじくり回される様を、じっと眺めて終わるまで待っていたのか?お前たちの全く知らない世界に作り替えられて、そこで暮らす事が幸せだって思えたのか?
あり得ないだろ。だから。
「迷惑だ」
そんな複雑な感情を、1か0で割り切れる訳がない。
「……ちょうどいい。我輩も、部下を失って心底頭にキテいた。希望を抱いて魔王様を失った自分に心底腹が立つ。もう、魔王様が失われた今、他の事などどうでもいい。貴様らを、理想抜きでなぶり殺してやりたいと、そう思ってたところなのだ」
「……上等」
おかげで、この戦いが勧善懲悪ではない事を確信した。だからだろう。奇妙だけど、俺はブランドに尊敬の感情を抱いたんだ。
「なら、勝ったほうが正義だ」
「あぁ……」
静寂は、一瞬だった。
「八つ裂きにしろォッ!!」
「アオヤ君!モモコちゃん!」
そして、俺は駆け出したアオヤ君へバフを掛け、モモコちゃんに指で指示を出す。炎と槍で悪魔を散らせてフォーメーションを整えると、中央にブランドまでの道を作った。
「クロウ、作戦は聞いてただろ?」
「指図するなと、言ってるだろうがァ!!」
ホーリーセイバーを握り、低空姿勢で駆けると、足を払うように引き抜いて斬撃を見舞う。しかし、それを踏みつけて尾で攻撃を打ち込み、さらに連射式の銃を二階からクロウへ放った。
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