追放した回復術師が、ハーレムを連れて「ざまぁ」と言いに来た。

夏目くちびる

文字の大きさ
68 / 71
正義の正しさ編(最終章)

第64話 なら、勝ったほうが正義だ

しおりを挟む
「滅びる、だと?」
「そうだ。人間は、あまりも強大な存在になりすぎた。そして、その欲望は未だ留まる事を知らない。富を独占しようとする者が現れれば、戦争が起きるのは必然。魔王様は、そんな世の中を救うために、ある日この世界に現れて我々を生み出したのだ」
「……まるで、救世主だな」


 その言葉に、ブランドは目を向けるだけで返事をする。


「だが、戦争程度、これまでの歴史でも何度も繰り返されている。それは、繁栄のために仕方のない犠牲だ」
「違う。この問題は、戦争自体やスキルの効果ではない。スキルの発動そのものなのだ」
「発動?」
「貴様らは、不自然だとは思わなかったのか?なぜ、それだけ強力な力を一切のデメリットもなく使えるのか。なぜ、発動する制限もなくただ振るい続ける事が出来るのか。そして、発動するまでに存在していた元の形は、一体どうなってしまうのか」


 瞬間、俺は気がついた。スキルとは、アトムを組み替えて出現させる方法。ならば、使用したアトムは。


「今この時も、あらゆるアトムを、魔王様は原子と言ったがな。人間は消費し続けているのだ。強力であればあるほど、より多くの原子を使っているのだ。スキルは無からは生まれない!そして、貴様らが支払っていない対価は、この星が払い続けているのだ!ならば、それが枯れ果てた時にこの星には何が残る!?」
「……そう言う事か」
「ここまで言えば、ナロピアとラシエル以外に人間が住んでいない理由もわかっただろう。我々は、それを食い止めるために魔王様より科学を賜ったのだ!」


 その手を広げて、見渡すように言う。


「電気、機械、銃。この世界の常識を覆す、圧倒的な技術。この水槽も、魔王様が自分の寿命が尽きた時、我々へモニター越しに指示を与えてくださる為に作られたのだ。しかし、明らかなオーバーテクノロジーは世界を破壊する。だからゆっくりと、魔王様の世界が歩んだ歴史を追って浸透させていくはずだったのだ」


 その声は、極めて落ち着いていた。


「そして、最後には何一つ不自由のない、唯一無二の原子も失われることのない。そんな世界が完成する。それが、我々の計画のすべてだ」


 つまり、他の大陸はスキルを酷使したせいで、人間が生きるために必要なアトムを使い切った。毒の大気を充満させて、生物の生存を許さない場所にしてしまった。


 全て、俺たちのせいだったってわけか。


「この星の裏側には、形骸化した街だけが残っていた。紛れもなく、貴様らの先祖が住んでいた証拠だ。そして、その大陸の大気のデータはそこにある通りだ。我々の調査によれは、残った2つの大陸も500年と持たずにその水準まで低下する」


 言って、机の上を指差す。


「しかし、貴様ら人間は我々が悪魔だという理由で話し合いの場を断った。魔王様を、この世界の人間でないからと断ったッ!ならば!魔王様はどうすればこの世界を救えるか!?答えは簡単だ!貴様らを支配して、我々の声が届くようにしなければなるまい!!」
「……なるほど。正義だ、あんたたち」


 人間。確かに、ブランドはそう言った。そうか、この世界以外の場所にも、人間がいたんだな。そいつは、わざわざ俺たちの世界にやってきて、寿命が尽きて脳みそだけになっても、こうして悪魔たちに指示を出していたってわけか。


「感動だな」


 クロウは、皮肉混じりの笑みを浮かべた。


 同感だ。だったら、俺たちはもう戻れないところまで来ている。話し合いで解決出来ないところまで、来てしまっている。それができるなら、何百年も争ったりしていない。まして、話をするのは俺たち現場の人間であるはずがない。王様だ。あの人の一存も無しに……。


「……いや、違うな」


 俺にとっては、少なくともそうじゃない。だって。


「こっちは、恩人殺されてんだよ。あまりナメた事抜かすな」


 そして、水槽に矢を打ち込んで、脳みそを貫いた。


「ま、魔王様ァ!」


 激高した周囲の悪魔が、一斉に弾丸を射出。しかし、その全てはモモコちゃんとクロウによって阻まれた。


 もう、面倒なのは止めよう。俺は、使命を果たしに来たんだ。


「なぁ、ブランド」
「なんだ」
「話せば、なんとかなるって思ったのか?だから、俺たちに魔王の正体を明かしたのか?」
「……否定しきれない」


 しかし、ブランドは静かに涙を流すだけで、それ以外を口にしなかった。


「俺たちの世界なんだよ、わかるか?ここは、俺たちの世界だ。なぁ、ブランド。死ぬも生きるも、俺たちが決める。くたばろうが生き延びようが、全て俺たちが責任を負うんだよ。そんなどこのヤローとも分からないヤツが、勝手に俺たちの世界救おうとするんじゃねぇよ。誰も、頼んでないだろうが」


 王様も、同じことを考えたんだ。だから、勇者なんて制度が生まれたんだ。この世界の人間たちが、圧倒的な力に抗うために。自分たちで、未来を変えるために。
 だって、自分たちの運命を、そんなどこから現れたかも分からない者に任せるわけにはいかないだろ。意地がある。矜持がある。それをかなぐり捨てて生き延びようなんて、そんな事を人間は望まない。


 現に、ヒマリもアトムを見つけた。俺は、意識を使う方法を見つけた。なら、未来にはそんなヤツが何人も現れるに決まってる。だって、俺たちは凡人だから。凡人が、この世界に何人いると思ってやがる。その上に、天才だっているんだぞ。だったら、そういう可能性に賭けてみるのが人間ってもんじゃないのか?


 なぁ、魔王。もしお前の世界で同じ事をされたとして、お前の国の王様はそれを受け入れるのか?それとも、受け入れた王様がお前なのか?指咥えて、自分の世界が他人にいじくり回される様を、じっと眺めて終わるまで待っていたのか?お前たちの全く知らない世界に作り替えられて、そこで暮らす事が幸せだって思えたのか?


 あり得ないだろ。だから。


「迷惑だ」


 そんな複雑な感情を、1か0で割り切れる訳がない。


「……ちょうどいい。我輩も、部下を失って心底頭にキテいた。希望を抱いて魔王様を失った自分に心底腹が立つ。もう、魔王様が失われた今、他の事などどうでもいい。貴様らを、理想抜きでなぶり殺してやりたいと、そう思ってたところなのだ」
「……上等」


 おかげで、この戦いが勧善懲悪ではない事を確信した。だからだろう。奇妙だけど、俺はブランドに尊敬の感情を抱いたんだ。


「なら、勝ったほうが正義だ」
「あぁ……」


 静寂は、一瞬だった。


「八つ裂きにしろォッ!!」
「アオヤ君!モモコちゃん!」


 そして、俺は駆け出したアオヤ君へバフを掛け、モモコちゃんに指で指示を出す。炎と槍で悪魔を散らせてフォーメーションを整えると、中央にブランドまでの道を作った。


「クロウ、作戦は聞いてただろ?」
「指図するなと、言ってるだろうがァ!!」


 ホーリーセイバーを握り、低空姿勢で駆けると、足を払うように引き抜いて斬撃を見舞う。しかし、それを踏みつけて尾で攻撃を打ち込み、さらに連射式の銃を二階からクロウへ放った。


 ……そんなものが、あの天才に当たるわけない。悔しいくらいに、それだけは疑いようが無かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

掃除婦に追いやられた私、城のゴミ山から古代兵器を次々と発掘して国中、世界中?がざわつく

タマ マコト
ファンタジー
王立工房の魔導測量師見習いリーナは、誰にも測れない“失われた魔力波長”を感じ取れるせいで奇人扱いされ、派閥争いのスケープゴートにされて掃除婦として城のゴミ置き場に追いやられる。 最底辺の仕事に落ちた彼女は、ゴミ山の中から自分にだけ見える微かな光を見つけ、それを磨き上げた結果、朽ちた金属片が古代兵器アークレールとして完全復活し、世界の均衡を揺るがす存在としての第一歩を踏み出す。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

処理中です...