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快楽調教11

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最近腰が鈍く痛い。
一騎当千の無慈悲鬼武将と呼ばれている
不死身の武士が百歳年をとったようだ。

明るく活気のある城下町を帯刀して歩くも
よろよろ足取りが危なっかしく、定期的に
トントン腰を擦って労っている。

原因はちゃんと分かる。
夜の時間があれば絶え間なく熱心に
快楽調教師の元へ通っているせいだ。

分かっていて止められるなら世話ない。
毎度のように死ぬほど気持ちよくされるし
奴も駆け引きが上手いと身をもって知った。
もっと、もっとと貪欲に欲しがらせ、
男の股を開かせる術に長けているんだ。
そういう経緯で万年腰痛だ。

だが、武士の象徴である紺碧の着物の
裾を揺らす町の英雄が毎晩男に淫らに
抱かれていると町人の誰が気づくだろうか。

若い女人はと言うと、人気の武士を影から
覗いては目が合っただの合図をしただの
黄色い声を上げて仲睦まじくはしゃいでる。

それどころじゃない武士はぼんやりと今夜も
暇があれば懲りずに店に通う予定を立てるが
ぐう、と鳴る下腹を丸く撫でた。

…その前に腹ごしらえが必要なようだ。
行きつけの飯処に近道しようと細い道に
足を踏み入れると…。

「うん?」

道を塞いだゴロツキ数人が羽織で顔を隠す
髪の長い女を取り巻いていた。
どこかで見たことあるかもしれない。
思い出に耽っている場合でもなく、
投げ掛けられている卑猥な言い回しからも
これはよろしくない事態だと察した。

「おい、そこのやつら。俺は今機嫌悪い。
片足か両腕か失いたくないなら失せろ。」

大きな声に気づいたゴロツキは振り返り、
一瞬反抗の意思を見せたが紺碧の着物と
容赦なく愛刀に手を掛ける様子を見るなり
声を上げる間もなく尻尾を巻いて逃げた。

どれだけ長い間絡まれていたか知れないが
うら若き身で健気に己の貞操を守っていた
相手を称えようとと近寄って顔を覗く。

「うん?お前…。」

「流石武人ですね。女人であれば惚れる上、
危うく腰砕けになるところでしたよ。」

「…シロか?」

人相を隠し、女物の着物を着ていたので
すっかり別人の女と思っていた。
しかし体格や目元を見ればそれは
よく見知った顔だった。

一体どういうことだ?

「どうしてこんなところに?ああいや、
別に出歩くなと言ってる訳じゃないが
輩に襲われていたように見えたが?」

「まぁ仕事ですよ。帰る所だったんですが
近道したら案の定絡まれまして。
あなたに助けて貰うのは二度目ですね。」

その言葉に首を傾げた。

「何を言ってるんだ?初めてのことだろ。」

「…その言葉が真実ならこれは悲恋です。」

「何をぶつぶつ言っている?」

「いえ。助けてもらったお礼に一つ。
宜しければ飯でも奢らせて下さいな。」

「そんな…」

そんなつもりで助けた訳じゃない。
断ろうと身振りすると、狙ったかのように
腹がぎゅるると自己主張して鳴いた。
俺の意思と腹は全く別の動きをするようだ。

「あぅ…。」

「ふふ、美味い蕎麦処を知ってるんです。」

「何っ!?蕎麦は好物だ!」

そういうことならついていこう!
警戒することを忘れた武士はご機嫌な様子で
女装した調教師の後ろを追った。

珍しいことだが、明るいうちに外で
快楽調教師と食事をすることになった。

飯時を過ぎても町人で賑わう蕎麦処。
馴染みはなく、見たこともない店柄だ。

城下町のことは幼い頃から何でも知ってて
自分の庭のように思っていたが、
まだまだ知らないこともあるんだなと思う。

我が身の変わりようを思えば
知らないことがいくつあっても
特別不思議なことはないがな。

満腹の商人たちと入れ替わりで店内に入り、
乾いて朽ちかけた椅子に腰を降ろす。

「ええと…蕎麦一つ。」

控えめな声で看板娘に声を掛けると
変装したシロは俺をみて小さく笑う。

「お侍さんがそんな微量で足るのですか?
私はこれでも人気調教師でごさいますから。
多少銭はあるので腹一杯食べなさいな。」

「それなら…蕎麦四杯!大至急頼む!!」

空腹に好物は腹に染みる!

武士の意地で椅子から童のように騒いで
立ち上がらないよう自制するので精一杯だ。
嫌みのない笑顔の娘は順に机に蕎麦を置く。

湯がきたての蕎麦はぷりぷり、艶々輝いて
いつも以上に食欲を掻き立てて美味そうだ。
口に溜まった唾液をごくりと飲み下す。

「馳走になる!」

短い礼を言って、シロより先に箸を取り
熱々の蕎麦を一気に啜った。

「うっ…!」

「う?」

「うまい!!麺がつるつる!喉を滑って
水のようだ!しかも飲み込む一瞬まで風味が
顔一杯に広がり…もう、とにかく美味い!」

感動を全て言葉に表せず、無心で麺を啜る。
好物ではあるが、もしかしたら今まで
食べた蕎麦の中でも一番美味かもしれない。

「おかわりあと二つ!」

この味を忘れたくなくて気づけば
元気よくおかわりを頼んでいた。

「気持ちいい食いっぷりですねぇ。
見てるだけで満腹な心地ですよ。」

シロは一杯の掛け蕎麦をちびちび食べている。
箸使いの慣れない幼子のようだ。

「お前の方は少食なのだな。」

「あなたの食欲に勝てないだけですよ…。」

「まあ、食わねば力が出ないからな。」

運ばれたおかわりを一杯目と同じ早さで啜る。
空気のように軽やかで心持ちとしては
際限なくいくらでも飲めるが、つゆまで
残さず飲み干していると流石に腹に溜まる。
また来よう…。心にそう誓った。

「ふうーーーっ。」

幸せに満たされ膨らんだ腹を撫でた。
武士が全ての蕎麦を食べ終えて満足した
後も調教師はちまちま蕎麦を噛んでいる。

「…や、やはり遅くないか?」

「むっ…。別にいいじゃありませんか。」

心配したつもりが自尊心を傷つけたようだ。
ちょっと不貞腐れつつ小動物のように
麺をかみかみんでいる。

暇になったので店をぐるりと見渡す。

建物は古いが手入れが行き届いている。
これなら飯を食べるのも気分いい。
大工などの男たちも利用しているようだ。

騒がしくはないが談笑につられて
頬が緩んで笑みが零れてしまう。
シロはまだ食っている。

「いい店だ。」

「お気に召して頂いて何よりです。」

つゆに濡れた紅い唇をそっと拭く仕草は
端の連中には絶世の美女に映るだろう。
違和感なくて忘れていたが気になっていた。

「何ゆえお前は女装している?
まあ似合ってない訳ではないが…。
端から見れば、俺たちはどんな風に
見えているのかな?ふふふっ。」

「…それは無意識なのですか?」

「ん?何がだ?」

急にシロの声が小さくなるので身を寄せた。
その目はどうやら…怒ってる?何故?

「見目は普通の女に見えるかも知れませんが
私は立派な男であり、熟練の快楽調教師。
今すぐあなたを机に押し倒して男のモノで
犯せば周りの見る目も変わるでしょうね。」

「なっ…。な、なんだ?不機嫌か?」

気を悪くさせるつもりはなかったので
焦って宥める口調で奴の顔色を伺う。

「おや?顔を紅くしていますか?
いやらしくも想像して興奮してますね?
実際には出来なくとも今すぐ私に衣服を
剥かれて全身の歯形を晒し、めちゃくちゃに
抱かれると思えばぞくぞくするのでしょ?」

ひそひそ声は武士にしか聞こえなかったが、
逆に武人は一言一句聞き取れていた。

「~~~っ…!♡」

確かに、机に押し倒され覆い被さってきて
人前で息もつけぬほど男根を捩じ込まれたら
甘い声を上げて連続で絶頂する自信がある。

本当にそんなことすれば俺はお館様の愛人…
いやその前に町の秩序を公で乱したとされ
仲良く打ち首か俺が耐えきれず腹を切るか
二択の結末が待っているだろう。
だが妄想するのは悪くない…よな?

「夜が更けたら遊びに来るのでしょう?」

「う、うん…。」

「それなら覚悟することですね。
今日はあまり優しくしてあげられませんよ。
そうですね…。麻縄で亀甲縛りで動きを封じ
牝墜ち三連続…牝のあなたは好きでしょ?」

卑猥で熱い吐息を耳に吹き込まれると
体が芯から火照ってドキドキしてしまう。

「うん…♡」

今宵もこの男に死ぬほど気持ち良くされる。
考えるだけでもう、体は期待してしまう。
夜が待ち遠しい…。



……結局原因不明に機嫌の悪い調教師に、
更に肌を噛むなと指示したことがますます
怒らせたようで抜かずに連続でイカされ、
その上精を顔と口にたっぷり掛けられ、
そのまま帰るという仕置きまで追加された。

これで興奮してしまう俺はいよいよ変態だ。
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