上 下
14 / 34

快楽調教14

しおりを挟む
扉の前で、止めようかと躊躇した。

「……、…。」

こんな時間に訪問しても迷惑に決まってる。
前も似たような状況で怒鳴り込んだ
覚えもあるが、今回は冷静というか、
気持ちが不安定だ。弱々しくなっている。

そうだ、軽く叩いて気づかれなかったら
すぐ帰ろう…、そういうことにした。
袖の裾を握りしめて、なるべく音を
立てぬように木製の扉を小突く。

こん、こん…。

……。

も、もう一回だけ…。

こん、こん…。

………。

「………。」

そうだよな、寝てる時間だろう。
人を頼ったりせず、もう帰ろう。

決心した、というよりは逃げる思いだった。
この姿を調教師に見られたくない、
見せたくない思いが早々に帰宅を急かす。
力の入らない拳をきゅ、と握る。

月明かりの差し込まない暗い店の二階を
軽く見上げて、踵を返し帰ろうとすると…。

カララッ…

「はあ…こんな夜更けにどちら様ですか。
うちのおっとさん寝覚めが悪いんですよ。」

「…!!!」

眠そうなシロの声が背後から聞こえた。
その瞬間金縛りにあったようだった。

「し、ろ…?」

「ん?あなたでしたか。」

振り返ると武士に気づいた眠たげな
調教師がふわっと微笑んで見せたが、
その姿を見てみるみる顔が青ざめていった。

「な…んですか、…その、有り様は…?」

「~~~~っ…!」

絶対、絶対泣かないと決めていたのに、
俺の身を案じて気遣う声色で尋ねてくれる…
シロの声が心地よくて、目頭が熱くなる。
奴は、らしくない荒い声で問い詰めてきた。

「なんと…暴漢に襲われたのですか…っ!?
命知らずのクズ野郎も居たもんだ!
あなたはっ…そう、あなたが誰の愛人か
教えてやりましょう!お館様にーーー」

「……っ!」

最後の言葉にびくっと反応した。
するとシロの動きが一瞬止まる。

「……は?」

「………。」

…端から見ればそうなるだろう。
今夜のためにあつらえた、香を染み込ませた
一張羅の着物はあられもなく乱れに乱れ、
はだけた肩も腿もさらけ出されたままだ。
首や手首には両手の形の濃い痣がある。

ここに来るまでにいつもの倍時間が掛かった。
よろよろ歩く足の間から血の跡が道になっていた
かもしれないが、気にする余裕などなかった。

涙で顔も、整えた頭髪もぐちゃぐちゃで
とにかく身体中に男の精を掛けられている。
みっともない、惨めな俺の姿…。

「…お、館さま、が…?」

乾いたシロの声に静かに頷いた。

「…うん。」

「そんなっ…。」

俺以上にシロの方が泣きそうな顔をした。

「こちらへっ…!」

「あ、…っ!」

荒っぽく手を掴まれ、あれよあれよと
店の中に引きずりこまれる。
最早、抵抗する力も残っていない。

下半身の痛みにふらつきながら
導かれるままに階段を上っていった。

二階のいつもの部屋にぼろ雑巾同然の俺を
連れ込んだ白い男はテキパキ事を成した。

「まずは体を洗います。話は…ゆるりと後で
聞きますから、先に治療をさせて下さい。
宜しゅうございますね。」

「俺、なんかに…。」

「治療しますから!いいですね!」

普段なら、なんだその言い草は!と
噛みつくがそんな元気、どこにもない。

「うん……。」

力なく頭を垂れて言う通りにした。

慣れた手つきで着物を剥ぎ取った男は
水を浸した手拭いで体に付着した精や
汚れを隅々まできれいに拭い取ってくれる。
されるがまま肌を清めてもらう。

「ほら、横になって。」

「うん…。」

のそりと伏せると、掛け声もなく後孔に
指を突っ込まれた。

「あぐっ…!」

精をナカから掻き出されるとびくっと
体が後ろにしならせてか細い悲鳴を上げた。

「いい、い、痛いっ痛い…、い、ぎっ…。
ひぐ、ひっく…。い、いた、痛いぃ…っ。」

乱暴にされてるわけじゃないのに、
乱暴にされた粘膜が激痛に引きつる。
ぼろぼろ涙を溢してのたうち回った。

後処理をしてくれるシロは、股から垂れる
武士の血液の混じった薄桃色の精を、
眉にシワを寄せて観察した。

「よくまぁ、…これに、耐えたものだ。
想像を絶する激痛であっただろうに。」

小声で何か呟いたようだったが
動揺する武将の耳には届かない。

「シロ…なぁ、シロっ…俺、俺もう…
使い物に、ならないのかなぁ…。もう…、
お館様に、愛してもらえないのかなっ…?」

「こんなになっても、まだ言うのですか?
人間として扱われていないのですよ!?
この有り様はただの、男の捌け口だ!
あなたは性道具ではないのですよ?!」

「もう、俺…使い物にならないのかな…。
俺、それだけが怖くて、怖くて…っ!」

同じ言葉を繰り返し、声を殺して泣く
俺を見てシロの息が詰まったようだった。

「……大丈夫ですよ、人間案外頑丈です。
ひどく裂けていないのでちゃんと治ります。」

「ほんと…?そっか…良かったぁ…。」

ここに来た一番の不安が拭われ、
心から安堵した声を乾燥した唇から洩らす。

「………。」

何度も桶で手拭いを絞っては拭いて、
シロは俺の体を清拭してくれた。
体液が全て拭われてもぐったりと
死人のように伏せて、力がこもらない。

「口は?吐き気はないですか?」

「あが…っ。」

文字通り身体に聞いているのだろうか、
口をこじ開けて薄明かりで中を覗く。
小さく首を左右に振ると安心したようだ。

「薬を煎じて来ます。傷薬や胃腸の薬など。
それからあと、粥も少々持ってきます。
食欲がなくても飲み込んでもらいますよ。」

「うん…。」

シロは弾丸のように部屋を飛び出していく。

一人残された俺は束の間の休息を得た。
懐かしいまである、シロに抱かれた布団。
ここは不思議と安心できる空間だ。
目を閉じていると何の不安もなく
心地いい眠りについてしまいそうだ。
このまま、悠久に時が過ぎてしまえば
いいのに………。

「っ、う、うぅ、ぐすっ…ひっく…、」

結局我慢出来ず、幾筋も涙が零れた。

しばらくして階段を上る音に目を開けた。

「よっ、と。」

「んんっ…、」

襖を片手で開け、盆にごちゃごちゃ器を
乗せたシロは無気力な俺の身体を一息に
起こした。

一回りは体の大きさが違うのに、
細身でも奴はやはり男のようだ。
そのまま俺の椅子になり、背中を抱いた。

「まずは胃腸の薬草を煎じたものです。
苦いですよ。一息に全部飲んで下さい。」

「んー、んー!んんーっ!」

器の縁が唇に触れた瞬間、あまりの苦さに
力を振り絞って暴れると、顎をしっかり
固定され、薬を喉奥に流し込まれる。

「はいはい、不味いのはよく知ってます。
味わわないうちに拒まないで飲んで下さい」

「んくっ…ん、ん、ごくっ…。」

それは男の精の百倍は苦く、青臭く、
どろどろで不味い深緑色の薬を飲み下した。
その辺の雑草のほうが美味いと思うほど
壮絶に不味かった。
しかし不思議と飲んだ傍から
すう、と胸の心地が和らいだ。

「ふはぁ…。」

「頑張りましたね。口直しして下さい。
シロ特製、薬草煮込み粥です。
体がぽかぽか元気が湧いてきますよ。」

「あ…。」

差し出されるさじに赤子のようにただ応える。
口を開けて、ゆっくり飲み込んだ。
粥はふわふわ温かい、甘い、美味しい。
安らぎの味がした。

「ひ、ぅっ…、…!…っ!」

また泣きそうになる衝動を
目をぎゅっと瞑って堪えた。

「美味しいでしょう?」

「ん…、うん…、」

量は少なかったが十分腹に溜まった。
体も内からほかほか暖まる。
思えば今日、初めての食事だった。

「痛み止めです。それほど苦くないので、
よく噛んでから嚥下して下さいね。」

「んぐ…。」

薬草の浮いた湯飲みを口に当てられ、
言われた通りに噛んでから飲み込む。
さっきのモノよりはシャキシャキ山菜に
近い味で、抵抗なく飲めた。

「はぁ…。」

「…これで大丈夫。しばらく休みなさい。
休息に勝る薬はありませんからね。」

「……うん、ありがとう。」

すっぽりと背中を守るように抱いて宥める
シロに身を任せ、目を閉じた。
あやすように胸をトン、トンとされて
心地いいが…とても眠ることは出来ない。

「なあ、シロ…。」

「どうされました?具合、悪いですか?」

その優しい声に流されないよう頭を振った。

「ううん、ずっと良くなったよ、
ありがとう。だけどお前、すごいな…。
ずいぶん薬に長けているようだな。」

手際の良さに中々頭がついていけなかった。
俺は薬草に詳しくないが、癒された結果は、
シロのその道の知識のおかげだと思う。

脈絡なく褒めると、固まって呆けた様子の
シロが耳元で短く笑う。

「ああ、幼少の頃は…薬師になりたいと
思っていましたから。全国の薬を集める
旅人になりたいと、そのせいですね。」

「そうだったのか。でもそれなら何故…?」

「色々あったのですよ。そう、色々と。
今の仕事にも意外と役立つので全て無駄では
ありませんでしたが…、それはまた今度。
今はあなたの話です、話して下さい。」

「……っ。」

今は…許されるだろうか。
お館様に仕える武士である体裁を忘れ、
傷ついた一人の男として洗いざらい
親身になってくれる調教師に
打ち明けてもいいのだろうか。

いや、もうどっちにしろ心が、持たない。
重い口をゆっくり開いて全てを明かす。

「実は……。」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

後悔したくないので言わせてもらいますね

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:1,013

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:505pt お気に入り:139

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,289pt お気に入り:2,216

処理中です...