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快楽調教16

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それからは地獄だった。愛しい地獄。
一方的な官能と苦悩と苦痛の日々。

俺のカラダを気に入って下さった
お館様は、頻繁に俺を呼びつけて夜伽を
求められるようになった。

本来武士として有るべき姿の剣術の稽古も
ままならない、気の休まる暇もない。
眠れぬ揺りかごに抱かれていた。

それから体に増えるのは絞めた痣ばかり。
秘密の床で行われる行為はいつも同じだ。
御前に参上すれば自分で後ろをほぐし
お館様に向かって足を開いて犯す行為を
ただ受け入れる。

怪我をしても、血が流れても終わらない。
初めの頃は汚してしまうことに恐縮したが
今はなんと言うか、どうでもいい。
どうせ終わるまで終わらないのだから。

接吻も愛撫も、余計な接触は一つもない。
ただただお館様がナカで爆ぜて吐精して
満足するまでの、官能的で単調な律動…。

毎度、必死だ。命懸けで抱かれてる。
手を抜いてると思われたら折檻される。
俺は疲労と苦痛ばかりで快楽はどこにもない。

俺が選んだことなのに…あぁ、情けない。
零れるのは涙と愚痴ばかりだ。

傷だらけになった体を一人抱きしめて、
思い出すのはシロの愛撫のことだ。

主様に情も愛なく使われていると、
彼には愛されていたとしみじみ実感する。
シロに抱かれていた時はそんなの微塵も
考えたことなかったと言うのに…。
俺は、愚かだ。

「ひ、っ…ひ、ぅ…うぅ…。」

犯され、辱しめられ放置された床の上で
惨めに体を丸め、膝を抱えてむせび泣く。

拒絶したのは俺なのに、あの男に甘えたい。
優しく抱かれて、恥ずかしい愛の言葉を
囁かれて褒められたい。
性具としてではなく、自身を認められたい。
あいつに触れて貰うのが好きだった。

しかし…こうやってすがって甘えるので、
もうシロに会うことは出来ん。
きっとシロはひどく心配する。
今度こそ自分の命を差し出すだなんて
恐ろしいことを口にするやも知れぬ。

どんな命運に転がっても俺が決めたことだ。
気を引き締めて、弛んではならないのだ。
一日百回はそう唱えた。

逃げ場のない武士は深く暗い沼に囚われる。

「………。」

日が昇れど、同じ日々。
ああ、オナジオナジオナジオナジ…。
…ひび割れた心が砕けて壊れ始めていた。

渇いて飢えて苦しくても食が喉を通らない。
疲れて、痛くて、何も食べたくない。

日が暮れるまで一人、自室に籠って
魂を抜かれたように無防備で無気力なまま
布団の中でぼーっと呆けてる。

時々見る夢の中でもお館様に抱かれていた。
激痛の前後運動に泣き叫んでいると
ナカに挿いったお館様の大蛇が膨らみ
腹を食い破ってきて俺は死んでしまう。
大声を上げて目を覚ます度にもう、
二度と眠りたくなくなる。

寝不足でふらふら城に足を運んでは
その足を従順に開く。
吐精が終わればすぐ帰るよう促される。
愛の詩を読むこともなければ休憩もない。

そうして残酷な日々が過ぎていくにつれて
武士の四肢は見て分かるほどに痩せ細った。 

腰に巻いた帯はごっそり余り、肌も唇も
カサカサに乾燥して枯れ葉のようだ。
己の肉体が鋼鉄の鎧だと自慢だった筋肉は
ガリガリの骨に吸われたようだった。

土気色して落ち窪んだ眼を血走らせて
絶えぬ痛みに呻いて城下町を這いずる姿は、
まるで墓から黄泉返った死人だ。
ちぐはぐな体ではお館様に捨てられる
かもしれぬと言うのに…。

そうだ、シロを見捨てて突き放した
俺にはもう、お館様しかいない。
お館様に飽きられたら行き場がない。
しかし傷ついた内臓が食物を受けつけない。

無理やり飲み込んだモノを吐き出して
胃の腑に溜まった残渣で生き長らえている。

この前…とうとう言われてしまった。
お館さまから、「声に張りがない」と。
最初は赤子のように元気よく鳴いていたが
近頃反応が鈍いことは自覚している。

揺すられる度乾いた声で嗚咽を漏らすだけ。
愛する人に抱かれても気持ちよくない。

…自ら墜ちた地獄の日々にふと夢を見る。
眠って見る夢ではなく、ぼんやりと日中
過ごす間に見えるアリエナイ幻想だ。

あの時、シロと共に逃げていたら…
幸せな終わりを迎えたかも知れぬ。

俺は…お館様のことしか考えていないはず。
なのに、行為になればシロを思い出す。
愛されたいと言葉が、喉元まで出掛かって
歯を食い縛って耐えている。

友人の武士が俺を見たら侮蔑するだろう。
同じ武士と思われたくないと嫌われる。
きっと死後も俺は地獄行きだな…。
贖罪の罰もきっと重いものだろう。

それなのに…最近になってシロが
お館様に訴えたことがあるなんて驚いた。

俺の唯一であるお館様から聞いたことだが…
あの快楽調教師は、「正しい行為を知るため
床に付き添わせて下さい」と言ったそうだ。
それを聞いたお館様は笑い、「裏社会の者に
寝首を掻かれては叶わん」と答えたと。

一国の城主である主様が暗殺を
警戒するのは当然のことだ。
俺も部外者からの進言なら拒絶するが
他の誰でもない、シロからの進言なのだ。
危険を省みない訴えは申し訳なくあるが
同時に心が揺れて、嬉しくもあった。

ありがとう、ごめんな、シロ。
お前の想いを無駄にしか出来なくてごめん。
直接会って言えない言葉を何度も頭に念じた。

そうこうしてる内に、今日も日が沈む。
朝方まで孔を使って満足した主人に
今日も来いと命じられた。
だから行かねばならん。

「………。」

ああ…今日も眠れない夜がくる。
主人のことは心から愛しているが、
何度も「行きたくない」と思ってしまう。

今日、何もかも終わってしまえば、と。
幾度願っただろう。
その都度、自業自得だと自嘲した。

よろめく足取りで月光を頼りに城へ向かう。
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