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12.クラウディアの決意

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とうとうクラウン王立学院に入学する日を迎えた。
当日はクラウディアと一緒に登校するために、伯爵邸に馬車を向かわせた。

馬車の中で独り、これからのことを考えた。
この学院を卒業するまでには三年ある。
その三年の間に、クラウディアとの距離を取り、彼女の相手―――もう既にある程度絞っているが―――を決めなければならない。
しかし、いきなり距離を取るのは不自然なので、一年程度は一緒に登校する。そして徐々に徐々に離れ、彼女の僕への依存を無くしていくのだ。

もちろん、僕自身はヒロインとお近づきになる気は毛頭無い。
極力近寄らないようにするつもりだ。
彼女と恋に落ちるのが怖いわけではない。落ちない自信はある。
しかし、クラウディアに下手に誤解を与えて、彼女が悪役令嬢になることは防がなければならない。
正直、彼女の悪役令嬢姿というのはまったく想像できないけどね。

まあ、仮に僕の天使がヒロインを虐めまくったとしても、僕が目を瞑っていればいいわけで。性格の悪い僕にはそんなこと簡単だ。
逆に彼女を虐める女がいたら、即断罪するだろうけど。

でも、僕の天使は最後まで天使でいて欲しい。悪さをするクラウディアは見たくない。
なので、用心するに越したことはないのだ。

そんなことを思い巡らしているうちに、伯爵邸に着いた。
クラウディアは思った通り、門の外で待っていた。真新しい学院の制服がよく似合う。

「おはよう。クラウディア」

「おはようございますっ! カイル様! 今日は良い天気ですねっ! 入学式日和ですわ!!」

いつも以上のハイテンションな彼女に少し違和感を覚える。
とても緊張しているようだ。それも仕方がない。彼女にとっても今日は特別な日なのだろう。

僕はいつものように彼女を馬車にエスコートした。
馬車に乗り込むと、彼女はニコニコとした顔をして僕を見ている。
だが、その笑顔は今まで見たことのないとても嘘っぽいものに感じた。何よりも笑っている目が僕をしっかり捕らえていない。

「カイル様! 今日は迎えに来ていただいてありがとうございました! でも、明日からは結構ですわ。我が家の馬車で通います」

「どういうこと?」

僕は驚いて彼女に尋ねた。

「毎日エスコートしていただかなくても、一人で通えますわ。ご心配要りません」

僕は自分の指先が冷たくなるのが分かった。一瞬、血が引いたようだ。
まだ一年は一緒にいるつもりだったのに! 明日から別々だって?!
それを先にクラウディアに言われるなんて・・・!

「どうして? 僕たちは婚約者同士なのだから、一緒に通って当然だろう?」

「そうですが・・・」

彼女からフッと笑みが消え、俯いた。
その時になってやっと気が付いた。彼女の目がとても腫れていることに。
きっと、昨日の夜、泣き明かしたに違いない。

しかし、彼女はまた顔を上げるとにっこりと笑った。

「私、一生懸命考えましたのよ。私はやはり悪役令嬢にはなりたくありませんわ。だってカイル様に嫌われたくありませんもの。ではどうするべきか。まずはカイル様との距離を取るべし!」

彼女は人差し指を立てた。

「私は異常なほどカイル様に依存しておりますから、そこからまず改善しないと。そして二つ目!」

彼女は二本指を立てた。

「ヒロインとの恋を応援する! 嫉妬は止む無し! だが極力抑え、行動せず!」

力強く言い切る君。一体、何を言ってるの?

「嫉妬はどうしてもしてしまいますわ、きっと! でも、嫌がらせなんて否! その様な行為、そもそも人として恥じる行為です。そんなことするからカイル様に嫌われてしまうのです。それどころか、周りの人の信用も失ってしまいますわ。よって、三つ目!」

指が三本になった。

「心清らかな友人を作る!」

「友人・・・?」

クラウディアは大きく頷いた。

「物語の強制力で、どうしてもヒロインを虐めたくなってしまうかもしれません。その時に、力尽くでも私の悪事と止めてくれる友人が必要なのです。それには選民意識がある人は絶対NG! だってヒロインは男爵令嬢だから。逆に助長されてしまいますわ」

彼女はそう言い終えると、寂しそうに笑って俯いた。

「私はカイル様に幸せなってもらいたいのです。なので、お二人の恋の為に喜んで身を引きます。でも、せめて婚約破棄を言い渡される時、嫌われないように・・・、最後にクラウディアもいい子だったなと思ってもらえるように・・・、いい思い出だったなって、そう思ってもらえるようなお別れがしたいのです・・・」

最後の方は声が掠れてる。

僕は頭を抱えて膝に顔を埋めた。
後頭部をガンと殴られたような衝撃を受けたのだ。
それほどクラウディアの発言は僕にショックを与えた。

僕の幸せの為に何だって?
自ら僕と距離を置く?
他の女と一緒になることを応援するだと?

何を言っているんだ、ディア!
そんなことされて、僕が喜ぶとでも思うのか?
僕を全然信用していないことと同じじゃないか!

そして、改めて重大な事に気が付いた。

彼女と全く同じことをしようとしていた自分に。

ああ、僕は何て愚かだったんだろう・・・。
被害は自分が遭ってみないと分からないものだ。その立場になってやっと分かった。
自分の為と言いながら捨てられるこの苦しさ・・・。

僕はこれをクラウディアにしようとしていたなんて!
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