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17.進捗状況

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「ところでディア。何か聞きたいことがあったんじゃないの?」

真っ赤な顔で恥ずかしそうに拗ねているクラウディアに、僕はワザとらしく首を傾げた。
すると、途端に彼女は真顔になり、そっと伺うように僕を見た。

「何? 相談ごと? 困ったことでもあった?」

「えっと・・・、相談ではなくて・・・、その、質問といいましょうか・・・確認? 進捗状況は如何ほどかなと思いまして・・・」

「何の進捗状況?」

「う・・・、その・・・、ヒ、ヒロ・・・」

「あはは。ごめんごめん。ヒロインね。セシリア嬢って言ったっけ? まだ会ってないから報告することは無いなあ」

僕の軽い口ぶりにディアはちょっと呆気に取られたようだ。
キョトンとした顔で僕を見る。

「え・・・? まだお会いしていない・・・? そんなはずは・・・」

「うん、本当に会ってないよ? どうして?」

僕はにっこりと彼女を見た。

「だ、だって、もう学院に入学して一か月以上経ちましたわ! 既にお二人は出会いを済ませていて、そろそろ少しずつ仲良くなる頃ですの! この段階では、私はまだお二人が近づいているのを知らないという設定でして・・・。あ! もしかして!」

彼女はポンと手を叩いて、僕を指差した。

「カイル様! 嘘を仰っています? 私にバレないように! 大丈夫ですわよ、私は悪役令嬢にはならないって決めているのですから! 最近、毎日座禅を組んでおりますの、精神を鍛えるために!」

なに? ザセンって。

「でも嘘はいけませんわ。逆にその方がヤキモチを焼いてしまって、それこそ悪役令嬢になってしまいますわ!」

彼女はプクーっと頬を膨らませて、僕を軽く睨んだ。

「ちょっと待ってよ、ディア。本当に会ってないんだからしょうがない。嘘を付いても僕に何のメリットもないのは分かってるでしょ?」

「メリット?」

彼女は再びキョトンとしたように首を傾げた。

「そう。ヒロインとの出会いは僕にとって何のメリットもない。それどころかデメリットだ。なんせ僕の命が掛かっているからね。忘れたの?」

「あ・・・」

「僕もそんなに早く死にたくないよ? もちろん恋に落ちるつもりは無いけど、出会わなければそれに越したことは無いでしょ? 僕は保険を掛けるタイプなんだ」

「そ、そうですか・・・」

クラウディアは安堵したような、それでいて、どこか腑に落ちないような、何とも複雑な表情をしている。

「それとも、僕がヒロインに出会って欲しいの? そうだなぁ、ディアのヤキモチを焼く顔が見れるのもいいかな? でも、僕はそのヒロインの顔は知らないし・・・」

僕は顎に手を当てて首を捻る。
もちろん、ヒロインのことは事細かに調べてるよ。顔もはっきり把握している。

「セシリア・ロワール男爵令嬢だっけ? 彼女を探す為に、一人ひとり令嬢に声を掛けるのも手間だなあ」

それどころか、ほとんどの生徒の素性はあらかた知っているけれどね。

「そんな時間は僕には無いのだけど、ディアがどうしても知り合って欲しいって言うのなら、地道に探し当てるしか・・・」

「な、何をおっしゃているんです! カイル様ったら!」

ディアは慌てて叫んだ。

「ダメです、ダメ! そんなことする必要ありませんわ! ヒロインにわざわざ無理やり会うなんてダメ! 出会わないならその方がいいのですもの!」

彼女はブンブン首を振る。

「そう? じゃあ止めておくよ。君のヤキモチを焼いた顔を見られないのは残念だけどね」

これで、クラウディア自身からもヒロインに近づくなという言質を取った。
僕はにっこり笑うと、再び書類に目を落とした。





だが、実のところヒロインの僕への付きまといは始まっていた。

長いピンクブロンドの髪に、整ったスタイル―――まあ、出るとこは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる理想的と言えるだろう。
顔立ちも、ぱっちりとした大きい目に小さい鼻、程よく整った血色の良い唇が小さい顔にバランスよく収まっていて可憐で愛らしい。

温室育ちの中の令嬢と違って、市井育ちの彼女はとても健康的だ。
儚げの中にも凛とした美しさを持つ令嬢よりも、天真爛漫桜花爛漫の彼女を可愛いともてはやす令息は多いようで、この一ヶ月でそれなりの信者を獲得しているようだ。

そんな令息たちだけで満足してくれればいいのに、最近、僕の視界にそのピンクブロンドの髪がチョロチョロと入り込み、目障りで仕方がない。

もちろん気が付かないふりをして放っている。今のところ、それ以上絡んでこないからいいが、僕の領域に踏み込んできたらその時は考えないとね。

こんなことになるなら、何かと適当な理由を付けて入学を許すんじゃなかったな。
ロワール家自体に問題は見当たらなかったし、僕の私的な感情を入れるのは良くないと判断した結果なんだけど。

まったく面倒な話だ。
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