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59.捕縛
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ある日の夜。
僕は一人の連れと一緒に、ランドルフ公爵領の片隅にある小さな街に来ていた。
小さな街でも夜の店は賑わいを見せている。
繁華街を抜けて、暗く細い路地に入り込んだ。
一気に人気が無くなり、怪しく危険な雰囲気を醸し出している。
僕は迷わず、一軒の扉の前に立ち止まった。
扉の前には一人の男が立っている。彼は僕と目が合うと無言で扉を開けた。
中は至って普通のバーだ。
だが、未成年の僕には不釣り合いな場所。目深に帽子を被って誤魔化してはいるからギリギリ十八歳には見えるかな?
連れはおっさんなので問題なし。彼の横に隠れるように店に入り、カウンターに座った。
飲みはしないが、ビールを二つ注文する。連れは一気にそれを流し込んだ。
おい! 何、飲んでんだよっ!
僕は連れの脛を蹴とばした。彼は慌てて謝ったが、グラスは空。
僕はこの部屋にある奥の扉を見つめた。
常連客なのか、客の一人がその部屋へと入っていく。時間を空けてまた一人、その部屋へ入る。
出てくる客もいる。高揚して大声で酒を注文する客もいるかと思えば、ガックリと肩を落として絶望したようにテーブルに突っ伏す客もいた。
僕は連れと目配せすると、その部屋へ向かった。
入ると異常なほど煙草臭い。煙が蔓延している。
見渡すと、そこには何人もの人がグループになってカードゲームやルーレットゲームなどに夢中になっている光景があった。
僕はルーレットを楽しんでいる一人の客に目を向けた。
他の客と明らかに違う。こんな場所には不釣り合いなほど身なりの良い男。身分のあることがバレても構わないのかと疑問に思う。良いカモじゃないか。
僕は彼に近づいた。
「どうですか? 調子は?」
「いや~! 今日はなかなかツイているよ! 今日は勝利の女神が降りてきてるのかもな!」
「そうですか。ここにはよく来るのですか?」
「いや、初めてだ。知り合いから紹介されてね。酒も料理も旨いし、サービスはいいし、最高だ! いつも行っている店よりずっといい! 遠くから来た甲斐があった!」
彼は勝っていて気分が良いのか、饒舌に話す。
僕の方など見もしないで次にかける数字にチップを大量に置いた。
ディーラーはそれを見て、玉を転がした。
「さすが公爵領だけあるよ、小さな外れの街なのに活気がある」
「あはは。ありがとうございます。リード辺境伯爵。お気に召して頂けて何よりです」
「え?」
彼はやっと顔を上げて僕を見た。
僕は目深に被っていた帽子をちょっと上げた。
「ごきげんよう。リード伯爵。我が領地をお褒めに預かって光栄ですが、残念ながらこの店は今日で終いです。ここは違法賭博場ですからね、責任をもって僕がこの現場を抑えようと思います」
僕の言葉に周りがざわつき始めた。
「あ、あなたは・・・?」
リード伯爵は顔面蒼白で僕を見つめた。
「カイル・ランドルフです。違法賭博場があるという情報を聞いて調査をしていました。我が領地での違法行為は放っておけませんので」
「わ、私は・・・」
「違法賭博は犯罪行為ですよ。店も客もね。先ほどのお話だと前科がおありのようで」
「く・・・!」
リード伯爵は立ち上がると、店の従業員と客に向かって叫んだ。
「この男を捕まえろ! 消してしまえ! さもないと我々が捕縛されるぞ!」
数人の柄の悪い男どもが、リード伯爵の口車に乗せられ、僕に襲い掛かってきた。
その間に彼は逃げ出そう扉に向かって駆けだしたが、扉の前には僕の連れが立ちふさがっていた。
「ランドルフ家の坊ちゃまが、たった一人でこんなところに乗り込むわけがないでしょう・・・。バカですか? あなた」
連れは呆れたようにそう言うと、リード伯爵の腕を掴むと捻り上げるようにして背中に回した。
「お前たちも無駄な抵抗は止めろ。坊ちゃまに敵う訳ないって、遅かったか・・・」
彼は僕の足元に伸びている男どもを気の毒そうに見た。
他の客やディーラーは僕の無双ぶりを見て驚いたのか、黙って震えている。
そこに自衛団が雪崩れ込んできた。
「カイル様! 団長! ご無事ですか!?」
「お前たち! この店は完全に包囲されている。逃げるのは無駄だ!」
店にいた者たちは次々と自衛団に捕縛されていく。
団長に拘束された状態で最後まで残ったリード伯爵の元に僕は近づいた。
「伯爵。違法賭博の罪だけでなく、僕への殺人行為は断じて見逃せませんね。それなりの処分は覚悟してください」
「う・・・っ」
「それにしても残念ですよ。たまたま調査をしていた賭博場に貴方のような高貴な方が出入りしていたなんて・・・。団長、連れて行ってくれ」
「はっ」
こうしてリード伯爵は違法賭博の罪と殺人未遂の罪だけで拘束した。
彼にギャンブル癖があり、いろいろな場所の賭博場に顔を出していたのは調査済みだった。
そして、ここはこの街につい最近できた賭博場。
そんな店を紹介されてホイホイ来るなんて浅はかだね。
出入りしていた客は本物だから容赦しないけど、なんちゃってオーナーさんと従業員さんは後でしっかり労わないとね。
でも、賭博場って作るとすぐにガラの悪い奴らが集まるんだな。
早めにこの街の風評被害を払拭しないといけない。
僕は一人の連れと一緒に、ランドルフ公爵領の片隅にある小さな街に来ていた。
小さな街でも夜の店は賑わいを見せている。
繁華街を抜けて、暗く細い路地に入り込んだ。
一気に人気が無くなり、怪しく危険な雰囲気を醸し出している。
僕は迷わず、一軒の扉の前に立ち止まった。
扉の前には一人の男が立っている。彼は僕と目が合うと無言で扉を開けた。
中は至って普通のバーだ。
だが、未成年の僕には不釣り合いな場所。目深に帽子を被って誤魔化してはいるからギリギリ十八歳には見えるかな?
連れはおっさんなので問題なし。彼の横に隠れるように店に入り、カウンターに座った。
飲みはしないが、ビールを二つ注文する。連れは一気にそれを流し込んだ。
おい! 何、飲んでんだよっ!
僕は連れの脛を蹴とばした。彼は慌てて謝ったが、グラスは空。
僕はこの部屋にある奥の扉を見つめた。
常連客なのか、客の一人がその部屋へと入っていく。時間を空けてまた一人、その部屋へ入る。
出てくる客もいる。高揚して大声で酒を注文する客もいるかと思えば、ガックリと肩を落として絶望したようにテーブルに突っ伏す客もいた。
僕は連れと目配せすると、その部屋へ向かった。
入ると異常なほど煙草臭い。煙が蔓延している。
見渡すと、そこには何人もの人がグループになってカードゲームやルーレットゲームなどに夢中になっている光景があった。
僕はルーレットを楽しんでいる一人の客に目を向けた。
他の客と明らかに違う。こんな場所には不釣り合いなほど身なりの良い男。身分のあることがバレても構わないのかと疑問に思う。良いカモじゃないか。
僕は彼に近づいた。
「どうですか? 調子は?」
「いや~! 今日はなかなかツイているよ! 今日は勝利の女神が降りてきてるのかもな!」
「そうですか。ここにはよく来るのですか?」
「いや、初めてだ。知り合いから紹介されてね。酒も料理も旨いし、サービスはいいし、最高だ! いつも行っている店よりずっといい! 遠くから来た甲斐があった!」
彼は勝っていて気分が良いのか、饒舌に話す。
僕の方など見もしないで次にかける数字にチップを大量に置いた。
ディーラーはそれを見て、玉を転がした。
「さすが公爵領だけあるよ、小さな外れの街なのに活気がある」
「あはは。ありがとうございます。リード辺境伯爵。お気に召して頂けて何よりです」
「え?」
彼はやっと顔を上げて僕を見た。
僕は目深に被っていた帽子をちょっと上げた。
「ごきげんよう。リード伯爵。我が領地をお褒めに預かって光栄ですが、残念ながらこの店は今日で終いです。ここは違法賭博場ですからね、責任をもって僕がこの現場を抑えようと思います」
僕の言葉に周りがざわつき始めた。
「あ、あなたは・・・?」
リード伯爵は顔面蒼白で僕を見つめた。
「カイル・ランドルフです。違法賭博場があるという情報を聞いて調査をしていました。我が領地での違法行為は放っておけませんので」
「わ、私は・・・」
「違法賭博は犯罪行為ですよ。店も客もね。先ほどのお話だと前科がおありのようで」
「く・・・!」
リード伯爵は立ち上がると、店の従業員と客に向かって叫んだ。
「この男を捕まえろ! 消してしまえ! さもないと我々が捕縛されるぞ!」
数人の柄の悪い男どもが、リード伯爵の口車に乗せられ、僕に襲い掛かってきた。
その間に彼は逃げ出そう扉に向かって駆けだしたが、扉の前には僕の連れが立ちふさがっていた。
「ランドルフ家の坊ちゃまが、たった一人でこんなところに乗り込むわけがないでしょう・・・。バカですか? あなた」
連れは呆れたようにそう言うと、リード伯爵の腕を掴むと捻り上げるようにして背中に回した。
「お前たちも無駄な抵抗は止めろ。坊ちゃまに敵う訳ないって、遅かったか・・・」
彼は僕の足元に伸びている男どもを気の毒そうに見た。
他の客やディーラーは僕の無双ぶりを見て驚いたのか、黙って震えている。
そこに自衛団が雪崩れ込んできた。
「カイル様! 団長! ご無事ですか!?」
「お前たち! この店は完全に包囲されている。逃げるのは無駄だ!」
店にいた者たちは次々と自衛団に捕縛されていく。
団長に拘束された状態で最後まで残ったリード伯爵の元に僕は近づいた。
「伯爵。違法賭博の罪だけでなく、僕への殺人行為は断じて見逃せませんね。それなりの処分は覚悟してください」
「う・・・っ」
「それにしても残念ですよ。たまたま調査をしていた賭博場に貴方のような高貴な方が出入りしていたなんて・・・。団長、連れて行ってくれ」
「はっ」
こうしてリード伯爵は違法賭博の罪と殺人未遂の罪だけで拘束した。
彼にギャンブル癖があり、いろいろな場所の賭博場に顔を出していたのは調査済みだった。
そして、ここはこの街につい最近できた賭博場。
そんな店を紹介されてホイホイ来るなんて浅はかだね。
出入りしていた客は本物だから容赦しないけど、なんちゃってオーナーさんと従業員さんは後でしっかり労わないとね。
でも、賭博場って作るとすぐにガラの悪い奴らが集まるんだな。
早めにこの街の風評被害を払拭しないといけない。
応援ありがとうございます!
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