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第一章
9.主のいない結婚式
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「わぁ・・・!」
部屋から出て屋敷内を暫く歩くと、さくらは目の前に広がる美しい中庭に目を見張った。
中央には大きくタイルが引かれ道になっており、その道を隔てて左右にそれぞれ美しく彫刻された噴水があり、こんこんと水が湧き出ている。その周りにはとても規則的に花が植えられ、色鮮やかに咲き誇り、太陽の光に輝いている。庭の突き当りには高い塀が建ち、中央の大きな道の突き当たりは大きな扉が存在感を放っている。
周りの景色に見惚れているさくらに、トムテは微笑みながら説明を始めた。
「今、我々がいる場所は『第一の宮殿』と言いまして、国王の宮殿でございます。通常は国王と国王の家族、専属の召使、そして大魔術師様方のみがいらっしゃる場所でございます。それ以外は特別に許可を得られた側近の者しか立ち入れない場所なのでございます」
今度は目の前の中庭を指して続けた。
「この先の塀の向こう側は、『第二の宮殿』という迎賓館と執務館を兼ねた大きな宮殿がございます。日ごろ公務はそちらで行われております。諸々の行事もすべて『第二の宮殿』で行われるのでございます」
そう言うと、トムテはさくらの手を取り直し、中庭に下りる階段に一歩足を下ろした。
「さあ、『第二の宮殿』にご案内しましょう」
☆彡
トムテに連れて来られたのは、大きなホールだった。
部屋の両壁には、トムテと同じような黒の長いマントを羽織っている中年の男性たちが並んでいる。そして部屋の一番奥に階段が見える。そしてその頂点にとても大きな立派な椅子が異様な存在感を放っていた。
(玉座だ・・・!)
さくらは息を呑んだ。あそこに座る人がこの国の国王だ。そして私を妃にするという人。つまり私の夫になろうという人だ。とうとうその人がここに現われるのだろうか。
さくらの体は緊張して小刻みに震えた。トムテとルノーに支えられるようにゆっくりと玉座の階段下までやってきた。
しかし、部屋の隅から現われたのは大魔術師ダロスだった。
ダロスはさくらの前に立ち、恭しく一礼をすると、小姓を呼び、一つの小さなグラスを持ってこさせた。そしてそのグラスをさくらに差し出した。さくらは訳も分からず、受け取った。中身を覗き込むと、無色透明の水のような液体が入っている。困惑した顔でダロスを見上げると、ダロスは無言でそれを飲み干すように促した。
さくらは戸惑ったが、厳粛な雰囲気の中で断る勇気はまったくなかった。ままよ!という気持ちでさくらはそのグラスの液体を一気に飲み干した。
暫くすると、今度は老魔術師のガンマが、さくらの傍にやってきた。さくらの右手を取り、袖を捲くり上げ、手首に彫られた刺青があらわにした。
さくらはビックリして、ガンマの手を振り解こうとしたが、百を超えてそうな老婆にまったく歯が立たない。ガンマの方は暴れるさくらを呆れた顔して眺め、ダロスに何か合図をすると、さっと手を離し、部屋の隅に戻っていった。
いきなり手を離されて、バランスを失ったさくらはよろけて転びそうになった。ダロスが慌てて抱きとめ、さくらをしっかりと立たせた。さくらは自分の失態に顔が赤くなるのを感じた。そんなことはお構いなしに、ダロスは元の立ち位置に戻り、軽く咳払いすると、ホールをゆっくりと見渡し、腹に響くような大きな声でこう言った。
「ただ今、さくら様は無事、聖なる水をすべて飲み干した」
その言葉を聞くと、両壁にいる黒いマントの男たちから、おお!という歓声が上がった。さくらはその歓声に驚き、ビクッと肩が震えた。
「聖なる水を飲み干し、御右手の証も消えずに残っている。これこそ『選ばれし王妃』である何よりの証。よって、正式にローランド国王ノア国王陛下とさくら様の婚儀を行う」
ダロスはそう続けると、黒いマントの男たち皆が片膝を付き跪いた。
「しかしながら、ご存知の通り、国王陛下は現在、極秘任務中である。よって恐れながら、陛下の代行役をこのダロスが担う」
そして、横にいる小姓が差し出した美しい箱開けた。その中には弱々しく不思議な光を放つ指輪が入っていた。ダロスは口の中で何かを唱えながら指輪を取り出すと、さくらの左手を取った。
「さくら様を正式にローランド王国の王妃であることをここに宣言する」
事態を飲み込めていないさくらはダロスに成されるがまま動けないでいた。気が付いたら左手に指輪が光っていた。
「ローランド国に栄光あれ!」
ダロスは大きく叫ぶと、恭しくさくらに一礼をした。
部屋から出て屋敷内を暫く歩くと、さくらは目の前に広がる美しい中庭に目を見張った。
中央には大きくタイルが引かれ道になっており、その道を隔てて左右にそれぞれ美しく彫刻された噴水があり、こんこんと水が湧き出ている。その周りにはとても規則的に花が植えられ、色鮮やかに咲き誇り、太陽の光に輝いている。庭の突き当りには高い塀が建ち、中央の大きな道の突き当たりは大きな扉が存在感を放っている。
周りの景色に見惚れているさくらに、トムテは微笑みながら説明を始めた。
「今、我々がいる場所は『第一の宮殿』と言いまして、国王の宮殿でございます。通常は国王と国王の家族、専属の召使、そして大魔術師様方のみがいらっしゃる場所でございます。それ以外は特別に許可を得られた側近の者しか立ち入れない場所なのでございます」
今度は目の前の中庭を指して続けた。
「この先の塀の向こう側は、『第二の宮殿』という迎賓館と執務館を兼ねた大きな宮殿がございます。日ごろ公務はそちらで行われております。諸々の行事もすべて『第二の宮殿』で行われるのでございます」
そう言うと、トムテはさくらの手を取り直し、中庭に下りる階段に一歩足を下ろした。
「さあ、『第二の宮殿』にご案内しましょう」
☆彡
トムテに連れて来られたのは、大きなホールだった。
部屋の両壁には、トムテと同じような黒の長いマントを羽織っている中年の男性たちが並んでいる。そして部屋の一番奥に階段が見える。そしてその頂点にとても大きな立派な椅子が異様な存在感を放っていた。
(玉座だ・・・!)
さくらは息を呑んだ。あそこに座る人がこの国の国王だ。そして私を妃にするという人。つまり私の夫になろうという人だ。とうとうその人がここに現われるのだろうか。
さくらの体は緊張して小刻みに震えた。トムテとルノーに支えられるようにゆっくりと玉座の階段下までやってきた。
しかし、部屋の隅から現われたのは大魔術師ダロスだった。
ダロスはさくらの前に立ち、恭しく一礼をすると、小姓を呼び、一つの小さなグラスを持ってこさせた。そしてそのグラスをさくらに差し出した。さくらは訳も分からず、受け取った。中身を覗き込むと、無色透明の水のような液体が入っている。困惑した顔でダロスを見上げると、ダロスは無言でそれを飲み干すように促した。
さくらは戸惑ったが、厳粛な雰囲気の中で断る勇気はまったくなかった。ままよ!という気持ちでさくらはそのグラスの液体を一気に飲み干した。
暫くすると、今度は老魔術師のガンマが、さくらの傍にやってきた。さくらの右手を取り、袖を捲くり上げ、手首に彫られた刺青があらわにした。
さくらはビックリして、ガンマの手を振り解こうとしたが、百を超えてそうな老婆にまったく歯が立たない。ガンマの方は暴れるさくらを呆れた顔して眺め、ダロスに何か合図をすると、さっと手を離し、部屋の隅に戻っていった。
いきなり手を離されて、バランスを失ったさくらはよろけて転びそうになった。ダロスが慌てて抱きとめ、さくらをしっかりと立たせた。さくらは自分の失態に顔が赤くなるのを感じた。そんなことはお構いなしに、ダロスは元の立ち位置に戻り、軽く咳払いすると、ホールをゆっくりと見渡し、腹に響くような大きな声でこう言った。
「ただ今、さくら様は無事、聖なる水をすべて飲み干した」
その言葉を聞くと、両壁にいる黒いマントの男たちから、おお!という歓声が上がった。さくらはその歓声に驚き、ビクッと肩が震えた。
「聖なる水を飲み干し、御右手の証も消えずに残っている。これこそ『選ばれし王妃』である何よりの証。よって、正式にローランド国王ノア国王陛下とさくら様の婚儀を行う」
ダロスはそう続けると、黒いマントの男たち皆が片膝を付き跪いた。
「しかしながら、ご存知の通り、国王陛下は現在、極秘任務中である。よって恐れながら、陛下の代行役をこのダロスが担う」
そして、横にいる小姓が差し出した美しい箱開けた。その中には弱々しく不思議な光を放つ指輪が入っていた。ダロスは口の中で何かを唱えながら指輪を取り出すと、さくらの左手を取った。
「さくら様を正式にローランド王国の王妃であることをここに宣言する」
事態を飲み込めていないさくらはダロスに成されるがまま動けないでいた。気が付いたら左手に指輪が光っていた。
「ローランド国に栄光あれ!」
ダロスは大きく叫ぶと、恭しくさくらに一礼をした。
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